会社のお金は眠らせるな?インフレ時代に手残りを増やすお金の置き場所の考え方

はじめに
退職に備えて保険に入り、預金も多めに残している。うちの守りは固いはずだ。そう感じている経営者の方は多いと思います。実際、備えを持つこと自体は経営者として正しい判断です。
ところが、物価が上がる時代には、この備え方に思わぬ落とし穴があります。
使わずに置いてあるお金は、額面が1円も減っていなくても、その価値が年々目減りしていくからです。
この記事では、会社のお金を2種類に分けて捉え直したうえで、インフレの時代に保険積立や預金がどれだけ目減りするのかを、具体的な数字で確認していきます。
会社のお金には2種類ある
会社のお金は、その役割から2種類に分けられます。
1つ目は眠っているお金です。
保険の積立金や預金のように、万が一に備えて使わずに置いてあるお金を指します。
2つ目は働いているお金です。
お金を稼ぐために設備などに形を変えて、売上や利益を生み出しているお金を指します。
どちらか一方だけが正しいわけではありません。
事業を続ける以上、備えとしてのお金は必要ですし、稼ぐためのお金も必要です。問題は、この2つのバランスをどう取るかです。そして、そのバランスの正解は、物価が下がる時代と上がる時代とで逆転します。
デフレの時代は、眠らせることが合理的だった
物価が下がるデフレの時代であれば、保険で節税を図りながらお金を眠らせておくのは合理的な選択でした。
保険積立金としてお金を眠らせておいても、モノの値段が下がっていくため、時の経過とともに自然とお金の価値が上がっていくからです。
たとえば、今100万円で買えるのは軽自動車でも、10年後には同じ100万円で普通自動車が買える。
デフレとはそういう時代です。
お金を使わずに取っておくだけで、買えるものが増えていきました。掛金を損金にして税金を減らし、据え置いたお金の価値も上がる。
デフレ下の保険節税は、二重においしい仕組みだったわけです。
長いデフレを経験した日本の経営者にとって、この感覚は今でも体に染みついているかもしれません。あなたの会社のお金の置き方は、デフレ時代のままになっていませんか?
インフレの時代は、眠っているお金が目減りする
物価が上がるインフレの時代には、この関係が逆転します。
モノの値段が上がるということは、同じ金額で買えるものが減るということです。つまり、お金を眠らせておくほど、その価値は下がっていきます。
年2%のインフレが10年続くと、価値は約18%減る
仮に年2%の物価上昇が10年間続くと、物価はおよそ1.22倍になります。
今100万円で買えるものが、10年後には約122万円出さないと買えません。逆に言えば、10年間眠らせた100万円で買えるのは、今の約82万円分のモノだけです。
額面は1円も減っていないのに、価値は約18%も目減りしています。
これは保険に限った話ではありません。普通預金の金利が物価上昇率を大きく下回っている間は、預金として眠っているお金も同じ構図で目減りしていきます。
試算例:掛金100万円、10年後に85万円戻る保険
この目減りは、保険の損得勘定を大きく変えます。
100万円の掛金を払い、10年後に85万円の解約返戻金が戻ってくる保険を考えてみましょう。
額面だけを見れば、目減りは15万円です。掛金の損金算入による節税効果を考えれば、この程度の持ち出しは取り返せる。そんな計算で加入を決めた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、年2%のインフレが続いた場合、10年後に戻ってくる85万円を今の価値に換算すると約70万円です。
つまり実質的な目減りは15万円ではなく、約30万円に膨らみます。
額面の計算の2倍です。節税効果を織り込んでもなお割に合わない。そういう保険が、インフレ下では珍しくありません。
額面だけで判断すると、このように結論を誤ります。お金が眠っている期間の物価上昇まで含めて、実質的な価値で比べることが欠かせません。
手残りを増やすなら、お金の置き場所を見直す
節税の目的は税金を減らすことそのものではなく、手元に残るお金を増やすことです。この視点に立つと、インフレ時代の打ち手は2つに整理できます。
1つ目は、眠らせるお金に目的と金額の根拠を持たせることです。
急な支払いに備える運転資金、退職金の原資といった目的ごとに、必要な金額と期間を決めます。目的のはっきりしないお金まで、なんとなく保険や預金で眠らせておく理由は、インフレ下にはありません。逆に言えば、目的のあるお金は、多少の目減りを承知のうえで眠らせておく価値があります。目減りは安心を買うためのコストと考えれば、割り切りやすくなるはずです。
2つ目は、それ以外のお金を働くお金に変えることです。
生産性を上げる設備投資、人材への投資、リピート売上を生む仕組みづくりなど、利益を生む形にお金を変えていきます。事業から生まれる利益は、物価上昇分を価格に反映していけるため、眠っているお金に比べてインフレに強いのが特徴です。たとえば、従業員の教育に使ったお金は、サービスの質を高めて客単価やリピート売上につながり、利益として会社に戻ってきます。戻ってきた利益をまた次の投資に回せば、インフレに負けない循環が生まれていきます。
見直すときの注意点
ここまでの話は、保険そのものを否定するものではありません。見直しの際には、次の点に気をつけてください。
1つ目に、保障機能と積立機能は分けて考えます。
経営者に万が一のことがあったときに会社と家族を守る保障は、インフレとは関係なく必要です。目的が保障なら、その目的に合った保険を選べば足ります。
2つ目に、すでに加入している保険をあわてて解約しないことです。
解約返戻金は経過年数によって大きく変わるため、返戻率の低い時期に解約すると、インフレの目減り以上のお金を失いかねません。返戻率のピークや役員退職金といった出口とセットで、解約や払い済みのタイミングを設計する必要があります。なお、解約返戻金と資産計上額との差額は益金や損金になるため、税負担への影響もあわせて確認してください。
3つ目に、将来のインフレ率は誰にも確定できません。
年2%はあくまで試算の前提です。それでも、政府と日本銀行が2%の物価目標を掲げて政策を運営している以上、眠っているお金が目減りしない前提で計画を立てるほうが、むしろ楽観的すぎると言えます。
まとめ
会社のお金には、万が一に備える眠っているお金と、利益を生み出す働いているお金の2種類があります。
デフレの時代には眠らせることが合理的でした。しかしインフレの時代には、眠っているお金の価値が年々目減りしていきます。年2%のインフレが10年続けば、目減りは約18%です。額面の損得だけで保険や預金を判断すると、実質では2倍の損をしていた、ということが起こり得ます。
あなたの会社の決算書に、目的のはっきりしないまま眠っているお金はありませんか?
まずは保険積立金と預金の残高を眺めて、それぞれのお金の目的を言えるかどうか、確かめてみてください。


