小規模企業共済で絶対避けたい滞納(機構解約)と元本割れの境界線

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「掛金を下げたら、これまで払った分は無駄になる」は誤解です

業績が落ち込んだとき、小規模企業共済の掛金が負担に感じられることがあります。毎月のお金を少しでも手元に残したい。しかし掛金を下げると、これまで積み立ててきた分が掛け捨てになるのではないか。そんな不安から、減額をためらう経営者は少なくありません。

結論から申し上げると、その心配は不要です。小規模企業共済は、事業の状況に合わせて掛金を増やしたり減らしたりできる制度です。正しい仕組みを知っていれば、苦しい時期に減額しても、これまでの実績を無駄にせず将来の退職金づくりを続けられます。

この記事では、掛金を増減したときに納付実績がどう扱われるのか、絶対に避けるべき落とし穴はどこにあるのか、そして受け取る理由によって共済金がどう変わるのかを、税務上の取り扱いとあわせて整理します。

掛金は「500円1口」ごとに数えられている

小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に設定できます。多くの方は「毎月いくら」というひとつの金額として捉えていますが、制度の内部では違う数え方をしています。

掛金は、500円を1口とした掛金区分ごとに、それぞれ独立して納付月数がカウントされています。中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)も「掛金納付月数は掛金月額500円を1口とした掛金区分ごとに数える」「増額・減額している場合はそれぞれの掛金月額による納付月数について計算を行う」と明示しています。

この数え方を知ると、減額への不安が解消されます。
たとえば月3万円を払っていた方が1万円に減額した場合、減らした2万円分の区分は消滅するのではなく、その時点の納付月数を保ったまま一時停止します。その後に業績が回復して元の3万円へ戻せば、停止していた区分の納付が再開されます。ゼロからやり直しではなく、過去の納付月数と再開後の納付月数がそのまま通算されるのです。

苦しい時期に身の丈に合わせて掛金を下げ、ゆとりが戻ったら元に戻す。この調整をしても、積み上げた月数は失われません。だからこそ、減額は退会よりもはるかに賢い選択になります。

掛金が全額所得控除になるという税務メリット

小規模企業共済が「経営者の退職金づくり」として支持される最大の理由は、税務上の優遇にあります。支払った掛金は、その全額がその年の所得から差し引かれます。

所得税法は「居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払つた場合には、その支払つた金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する」と定めています。一部ではなく全額が控除される点が、生命保険料控除などとは大きく異なります。

月7万円を払えば年間84万円。この全額が所得控除となり、所得税と住民税の負担が下がります。手元のお金を将来の自分のために積み立てながら、同時にその年の税金も圧縮できる仕組みです。

受け取るときの扱いも見ておきましょう。共済金を一括で受け取る場合、その一時金は退職金と同じ扱いになります。所得税法は小規模企業共済の共済金を「退職手当等とみなす一時金」と位置づけており、退職所得として課税されます。
退職所得は退職所得控除や2分の1課税といった優遇があるため、給与や事業所得として受け取るよりも税負担を抑えやすくなります。掛けるときに所得控除、受け取るときに退職所得。入口と出口の両方で優遇される設計です。

最大の落とし穴は「機構解約(滞納)」

ここまで読むと、減額は怖くないという印象を持たれたと思います。実際そのとおりですが、絶対に避けなければならない事態がひとつあります。掛金の滞納による機構解約です。

掛金の未納が12か月続くと、中小機構から強制的に契約を解除されます。これが機構解約です。問題は、その払い戻しが自己都合の任意解約とまったく同じ計算になることです。

任意解約による解約手当金は、納付月数が240か月(20年)未満だと掛金の合計額を下回ります。
つまり、納付20年に満たないうちに機構解約となれば、これまで払った掛金より少ない金額しか戻りません。せっかくの積み立てが、最後に元本割れで終わってしまいます。

資金繰りが厳しいとき、掛金の引き落としを放置するのは最悪の選択です。
払えないなら、退会でも滞納でもなく、まず減額です。月額1,000円まで下げられるので、無理のない範囲で納付を続け、機構解約は避けてください。

なお、掛金の減額はかつて「事業経営の悪化」などの理由確認が必要でしたが、2016年(平成28年)4月の改正で理由の確認は不要になり、現在は任意で減額できます。

受け取る理由で共済金の種類が変わる

小規模企業共済は、受け取る事由(理由)によって共済金の種類が分かれ、掛け捨てになる月数や元本保証のラインも変わります。同じ「廃業」でも事由が違えば結果が変わるため、ここは正確に押さえておきたいところです。

共済金の種類主な受取事由掛け捨てになる月数元本割れしない月数
共済金A個人事業の廃業、法人の解散、死亡など6か月未満6か月以上
共済金B65歳以上で役員退任、病気等での退任、老齢給付6か月未満6か月以上
準共済金65歳未満での自己都合等による役員退任、法人成り等12か月未満12か月以上
解約手当金自己都合による任意解約、機構解約(滞納)12か月未満240か月(20年)以上

廃業や死亡といったやむを得ない事由(共済金A)は最も手厚く、6か月以上納めていれば元本割れしません。一方、自己都合の任意解約や機構解約は最も不利で、20年納めて初めて元本を確保できます。同じ制度でも、出口の選び方で結果が大きく分かれることがわかります。

法人役員と「法人成り」のケース

法人の役員が65歳未満で自己都合により退任した場合や、個人事業主が法人成りに伴って加入資格を失った場合は、準共済金に該当します。倒産のようなやむを得ない理由ではないものの、単なる任意解約とも違う中間的な扱いです。

準共済金は、掛け捨てラインの12か月さえ越えていれば、長期間にわたり元本が100%のまま戻ります。中小機構の算定では、12か月から222か月(18年6か月)までは掛金合計額がそのまま戻り、223か月以降はわずかな上乗せが加わります。法人成りを予定している方は、この扱いを前提に計画を立てておくと安心です。

65歳以上で退任するなら共済金B

同じ自己都合の役員退任でも、退任時の年齢が65歳以上であれば、準共済金ではなく共済金Bを受け取れます。小規模企業共済では、65歳以上での退任を老齢給付、つまりリタイアに伴う退職金として手厚く扱うためです。

共済金Bになると、掛け捨てラインが6か月へ短縮され、6か月以上の納付で元本が確保されます。さらに、準共済金のように長期間100%のまま据え置かれるのではなく、運用実績に応じた上乗せが付くため、受取額が大きくなります。退任の時期を選べる立場であれば、65歳という年齢が一つの分かれ目になることは知っておく価値があります。

まとめ:減額で守り、滞納だけは避ける

小規模企業共済の強みは、事業の波に合わせて掛金を柔軟に増減できることにあります。
掛金は500円1口ごとに月数が数えられているため、苦しい時期に減額しても過去の実績は通算され、無駄になりません。掛金は全額が所得控除となり、受け取るときは退職所得として優遇される。入口と出口の両方で税負担を抑えながら、自分のための退職金を積み立てられます。

避けるべきは、滞納による機構解約です。払えないときは退会や放置ではなく、まず減額を選んでください。
そして受け取る場面では、廃業・退任・法人成りといった事由や退任時の年齢によって結果が変わることを思い出していただければ、より有利な出口を選べます。

自社の場合にどの掛金額が適切か、将来どの事由で受け取るのが有利かは、利益の見通しや出口の計画によって変わります。判断に迷うときは早い段階で顧問税理士にご相談ください。

なお、共済金の税務上の取り扱いや控除額は税制改正で変わることがあります。実際に受け取る際は、その時点の最新の取り扱いをご確認ください。


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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

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