決算間際の駆け込み節税はなぜ失敗するのか?期首設計とリピート売上の話

はじめに:「あと1ヶ月で何かできる節税はありませんか」
決算月が近づいた頃、社長からこうしたご相談をいただくことは珍しくありません。今期は思ったより利益が出そうだ、税金を少しでも減らして手元にお金を残したい。そのお気持ちはよくわかります。しかし正直にお伝えすると、決算まであと1ヶ月という段階で打てる手は限られています。
慌てて買った備品、急に開いた接待の席、内容をよく検討しないまま契約した保険。こうした駆け込みの支出は、将来の利益につながらない浪費に終わることがほとんどです。行動心理学のプロスペクト理論によれば、人は利益を得る喜びよりも損をする苦痛を2倍以上強く感じます。「税金で損をしたくない」という気持ちが先に立つと、100万円を稼ぐことよりも50万円の税金から逃れることを優先するような、不合理な判断が起こりやすくなるのです。
一方で、毎年計画的に節税を実行し、着実にお金を残していく会社があります。両者の差は、テクニックの知識量ではありません。利益の見通しが立っているかどうかです。そしてその見通しを支えるのが、毎月安定して入ってくるリピート売上です。
この記事では、リピート売上と節税がどうつながるのかを整理し、あわせて活用したい優遇税制を2つご紹介します。
節税は期首の設計で9割決まる
当事務所では「節税は期首の設計が9割」とお伝えしています。理由は、効果の大きい節税策ほど、早い時期にしか実行できないからです。役員報酬(定期同額給与)の改定は原則として期首から3ヶ月以内に行う必要がありますし、設備投資系の優遇税制には購入前の計画認定を求めるものがあります。期末に近づくほど使える手は減っていきます。
期首設計の中心になるのが「経費を使う節税」です。これは、来期以降の売上増加やコスト削減につながる支出を、利益の出ている今期にあえて前倒しで行う方法です。今期に種をまき、来期以降に収穫する。この時間差をつくることが本質で、思いつきではなく計画があって初めて機能します。
たとえば今期100万円の投資を前倒ししたとします。税率を仮に30%とすると税金が30万円減るため、実質負担70万円で100万円分の投資ができる計算です。今期は税負担を抑えながら投資し、来期以降にその投資が利益を生む。これが経費を使う節税の正しい姿です。
リピート売上が節税の質を変える
利益予測が当たる会社だけが、経費を前倒しできる
ただし、経費の前倒しには前提条件があります。来期も売上が立つという見通しです。来期の売上がまったく読めない会社が今期の利益を投資に回すのは、勇気ではなく無謀です。手元資金が薄くなったところに売上減が重なれば、資金繰りに直結します。
ここでリピート売上が効いてきます。毎月自動的に積み上がる継続的な売上があると、来月、再来月の利益予測は驚くほど簡単になります。たとえば毎月の継続売上が200万円あり、固定費が180万円の会社であれば、最悪、新規の受注がゼロでも致命傷にはならないという計算が立ちます。この安心感があるからこそ、利益の上振れ分を、将来の売上につながる広告宣伝費や教育研修費、ITツールの導入といった攻めの経費へ、ためらわずに回せるのです。
当事務所では、新規客を注ぎ足す前に、既存客の離反という穴を塞ぐことをお勧めしています。穴が塞がってリピート売上が安定すると、売上が読めるようになるだけでなく、節税の打ち手まで増えます。この二重の効果が、リピート設計を優先すべき理由です。
節税と投資の好循環
整理すると、次のような循環になります。リピート売上で利益予測が当たる。予測が当たるから、期首に節税計画を立てられる。計画があるから、利益の上振れを浪費ではなく投資に回せる。投資が来期の売上を増やし、その利益が次の投資と節税の原資になる。節税がいつも後手に回る会社と、節税でお金を残し続ける会社を分けているのは、この循環があるかどうかです。
制度解説:前倒し投資と相性のよい2つの優遇税制
少額減価償却資産の特例:40万円未満の資産を即時経費化
1つ目は、青色申告をしている中小企業者等が、取得価額10万円以上40万円未満の減価償却資産を取得して事業に使った場合、通常なら数年かけて減価償却するところを、使い始めた事業年度に全額損金にできる特例です。年間合計300万円が上限で、令和11年3月31日までに取得したものが対象です。適用には、損金経理をしたうえで確定申告書に取得価額の明細書を添付する必要があります。
注意していただきたいのは、この特例が以前は「取得価額30万円未満」を対象としていた点です。税制改正により、現在は40万円未満まで拡充されています。古い情報のまま判断すると使える枠を取りこぼします。パソコンや什器の入れ替えなど、期中の利益上振れに合わせて実行しやすい、使い勝手のよい制度です。
賃上げ促進税制:人への投資が税額控除になる
2つ目は人への投資です。青色申告をしている中小企業者等が、国内の従業員への給与等の支給額を前年度より1.5%以上増やした場合、増加額の15%を法人税額から控除できます。増加率が2.5%以上なら控除率に15%が上乗せされ、くるみん認定やえるぼし認定などの要件を満たせばさらに5%が加わって最大35%になります。令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です。
たとえば給与総額2,000万円の会社が3%の賃上げをすると、増加額は60万円です。増加率2.5%以上の要件を満たすため控除率は30%となり、18万円が法人税額から直接差し引かれます。控除できるのは法人税額の20%までという上限がありますが、中小企業者等は控除しきれなかった分を5年間繰り越せます。物価高のなかで人材の定着につながる賃上げが、そのまま節税にもなる制度です。
実践:ノート1ページの計画から始める
銀行に提出するような綿密な事業計画書は要りません。ノート1ページで構いませんので、今年の売上目標、経費の見込み、残る利益の概算を書き出すことから始めてください。前期の試算表を会計ソフトからエクセルに出力して、数字を動かしてみるだけでも十分です。
そのうえで、1年を3つの時期に分けて動きます。期首の1〜2ヶ月目は戦略策定の時期です。役員報酬を決定し、今期予定している設備投資に事前手続きが必要な優遇税制がないかを顧問税理士と確認します。期中の3〜9ヶ月目は、毎月の試算表で計画とのズレを確かめる時期です。利益が上振れしそうなら、攻めの経費の前倒しや賃上げを検討します。期末3ヶ月前からは着地予測と微調整の時期で、必要な備品があれば少額減価償却資産の特例の枠を使って購入を済ませます。ここまで計画的に進めた会社にとって、決算月は答え合わせをするだけの月になります。
注意点:その支出は投資か、浪費か
1つ目の注意点は、支出の中身です。
経費を使う節税が成り立つのは、その支出が将来の利益につながる場合だけです。「この経費は、使った金額以上のお金を会社にもたらすか」と自問して、答えがノーなら、それは節税ではなく浪費です。事業との関連が説明できない支出は、税務調査で経費性を否認され、追徴課税につながるおそれもあります。
2つ目は、制度の適用要件です。
本記事で紹介した2つの制度はいずれも青色申告が前提で、資本金の規模や所得金額によっては対象外となる場合があります(大規模法人の子会社や、所得金額が一定額を超える適用除外事業者など)。給与の集計方法など細かなルールもありますので、実行前に自社が要件を満たすかを顧問税理士に確認してください。
3つ目は、リピート売上の中身です。
継続的な売上といっても、顧客が増えるほど人手も比例して増える契約は、顧客数が減った瞬間に固定費だけが残ります。どのようなリピートを設計するかは本記事の範囲を超えますので、別の記事であらためて解説します。
まとめ:安定した売上が、節税の選択肢を広げる
節税の成否は、決算間際の駆け込みではなく、期首の設計と、それを支える利益予測の精度で決まります。その精度を最も確実に高めてくれるのが、毎月積み上がるリピート売上です。安定した利益があるからこそ、少額減価償却資産の特例や賃上げ促進税制のような優遇税制を計画的に使い、税負担を抑えながら未来への投資を続けられます。


