社長の余剰資金、繰上げ返済の前に確認したい4つのこと【2026年金利上昇版】

余剰資金ができたとき、まず繰上げ返済を考えていませんか
事業がうまくいって役員報酬で手元にまとまったお金が残ったとき、多くの経営者が思い浮かべるのが住宅ローンの繰上げ返済です。借金は早く返したほうが安心できますし、利息の負担も軽くなります。気持ちとしては自然な判断です。
しかし経営者は、会社の財布と個人の財布の両方を見ながらお金の置き場所を決められる立場にあります。
だからこそ、余剰資金を繰上げ返済に充てる前に確認しておきたい論点がいくつかあります。住宅ローンは個人が利用できる借入のなかで、もっとも金利が低く、もっとも長く借りられる資金だからです。この性質を踏まえると、急いで返すことが家計全体にとって最適とは限りません。
本記事では、住宅ローン控除と金利の関係を整理したうえで、2026年の金利上昇局面でこの判断がどう変わるのかを具体的な数字で確認します。そのうえで、繰上げ返済の前に手元資金をどこへ向けるべきかを考えます。
住宅ローン控除と金利の「逆ざや」とは何か
住宅ローン控除は、年末のローン残高に一定の控除率を掛けた金額を、所得税と住民税から差し引く制度です。控除率は、令和4年から令和12年までに入居した場合で0.7%と定められています。控除期間は最大13年です。
ここで注目したいのが、控除率と借入金利の大小関係です。仮にローンの適用金利が0.5%で、控除率が0.7%だとします。このとき、利息として銀行に支払う額よりも、税額控除として戻ってくる額のほうが大きくなります。借りているのに手元のお金が増える状態で、これを逆ざやと呼びます。
逆ざやが続いている間に繰上げ返済をすると、年末残高が減るため控除額も減ります。利息の軽減よりも控除の減少のほうが大きければ、繰上げ返済はかえって損になります。これが「控除期間中は繰上げ返済を急がないほうがよい」と言われてきた理由です。
2026年の金利上昇で、前提が変わりつつある
この逆ざやの議論は、変動金利が0.3%から0.5%程度だった時期を前提にしていました。ところが2026年に入り、金利の状況は大きく動いています。
日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1.0%程度へ引き上げました。1.0%という水準は約31年ぶりの高さです。変動金利の基準になる短期プライムレートも、2026年2月には2.125%まで上昇しています。これを受けて、2026年6月時点の主要銀行の新規変動金利は、最優遇でも0.9%台が中心になりました。
つまり、これから借りる人や直近で借りた人にとっては、変動金利が控除率0.7%を上回る場面が出てきました。新規の変動金利が0.95%なら、控除率0.7%との単純な逆ざやはもう成立しません。一方、数年前に0.3%から0.5%で借りた人は、まだ逆ざやが残っている可能性があります。ただし変動金利は基準金利の上昇にあわせて適用金利も切り上がるため、今後の改定で逆ざやが縮む点には注意が必要です。
逆ざやが消えても、住宅ローンの強みは残る
では、逆ざやが成立しなくなったら繰上げ返済を急ぐべきかというと、そう単純でもありません。
住宅ローンには、控除とは別の強みがあるからです。家という担保があるため、個人が借りられるローンのなかで金利が最も低く、返済期間も最も長く設定できます。
この強みは、ほかの借入と比べると見えやすくなります。手元に300万円の余剰資金ができた場面を考えます。この資金の向け先を、三つの角度から確認します。
1. 自動車の購入資金にあてる場合
車を買い替えるとき、ディーラーローンなどの自動車ローンを使うと、金利はおおむね2.0%から5.0%程度かかります。仮に金利3.0%で300万円を借りると、支払う利息は初年度で年9万円ほどです。
これに対し、手元の300万円を金利0.95%の住宅ローンの繰上げ返済にあてた場合、軽減できる利息は年2.85万円ほどにとどまります。繰上げ返済を見送って手元資金を車の購入にあて、自動車ローンを組まずに済ませれば、年6万円前後の利息を払わずに済みます。低い金利の住宅ローンを残し、高い金利の借入を避けるほうが、家計全体の負担は軽くなります。
2. 教育費にそなえる場合
子どもの進学などでまとまった教育資金が必要になったとき、国の教育ローン(日本政策金融公庫)でも金利は3%台、民間の教育ローンであれば2%から4%程度かかります。自動車の場合と同じ理屈が働きます。0.95%の住宅ローンを先に返してしまい、あとから3%台の教育ローンを組むのは、家計にとってマイナスです。住宅ローンは予定どおり返し、手元資金は将来の教育費としてプールしておくほうが合理的です。
3. NISAで運用する場合
当面、車や教育費の予定がないなら、余剰資金を新NISAの非課税枠で運用する選択肢もあります。長期の運用には価格変動のリスクがあり、元本割れの可能性も避けられません。一方で、住宅ローン金利を上回る利回りが長期的に期待できる局面では、繰上げ返済より運用のほうが資産を増やしやすいという考え方が成り立ちます。
経営的に見た余剰資金の置き場所
ここまでは個人の家計の話でしたが、経営者にはもう一つの視点があります。
手元の余剰資金を個人の住宅ローン返済にあてるか、会社の運転資金や設備投資の備えとして残すかという選択です。
会社の資金が不足すれば、事業性のローンを金利を払って借りることになります。
その金利は、住宅ローンの0.95%より高いのが普通です。個人で0.95%のローンを急いで返した直後に、会社でより高い金利の資金を借りるようでは、グループ全体で見たお金の効率は下がります。どの財布のどの借入が一番金利が高いかを並べ、高い順に手当てしていくのが、手元資金を多く保つ基本の考え方です。
繰上げ返済の前に確認したい4つのチェック
余剰資金ができても、すぐ繰上げ返済に向かう前に、次の4点を確認してください。
- 数年以内に車の買い替え予定はないか。あるなら、自動車ローンを避けるため現金を手元に残す。
- 将来、まとまった教育費の支払い予定はないか。あるなら、教育ローンを避けるため現金をプールしておく。
- 新NISAの非課税投資枠は余っているか。余っているなら、長期の運用への充当を先に検討する。
- 自分の住宅ローンの適用金利は、控除率0.7%を下回っているか。下回っているなら、繰上げ返済で逆ざやが減るため損になりやすい。
4つ目のチェックが、2026年の金利上昇でとくに重要になりました。かつては多くの人が0.7%を下回っていましたが、これから借りる人は0.9%台が中心です。自分の適用金利を住宅ローンの返済予定表で確認し、控除率0.7%と比べてみてください。逆ざやが残っているのか、すでに消えているのかで、判断の出発点が変わります。
まとめ
住宅ローンは早く返すものという考え方は、超低金利の時期には必ずしも正解ではありませんでした。控除率0.7%を下回る金利で借りていれば、繰上げ返済はかえって損になったからです。2026年の金利上昇で逆ざやが崩れつつある今も、住宅ローンが個人にとって最も低い金利の長期資金であることは変わりません。だからこそ、余剰資金は2%から5%の高い金利の借入を避ける使い道や、会社の資金繰りの備えに向けるほうが、家計と事業を合わせた手元資金を厚く保てます。
繰上げ返済をするかどうかは、自分の適用金利と控除率の比較から始まります。
返済予定表の金利を一度確認し、迷う場合は顧問税理士に相談してみてください。お金をどの財布に置くかという判断は、節税と同じく、手元に残る金額を左右する経営の一部です。
※ 住宅ローン控除の控除率と控除期間は2026年6月時点の内容です。床面積や合計所得金額などの適用要件は本記事では省略しています。実際の適用にあたっては最新の要件をご確認ください。


