年収1,200万の社長へ、共済・iDeCo・NISAの最適な配分を数字で検証

役員報酬を月100万円ほど取っている社長から、よくこう相談されます。「小規模企業共済とiDeCoとNISA、結局どれを優先すればいいのか」。
どれも節税になると聞いて始めたものの、優先順位があいまいなまま掛金を払い続けている方は少なくありません。

この記事では、年収1,200万円・限界税率およそ33%の社長を想定し、「税引前のお金をどこに置くと手元が一番増えるか」を具体的な数字で検証します。

結論を先に言えば、正解は1つではなく、あと何年会社を続けるか(時間軸)と、どれくらいリスクを取れるか(期待利回り)で入れ替わります。

目次

まず確認したいのは「あなたの限界税率」

制度を選ぶ前に、自分の限界税率を押さえておきましょう。
限界税率とは所得が1万円増えたときに追加で何%が税金になるかの割合で、掛金が全額所得控除になる制度では、これがそのまま「拠出した瞬間に確定する利回り」として効果を発揮します。

年収1,200万円の社長で見てみましょう。給与収入が850万円を超えると給与所得控除は195万円で頭打ちになります。ここから社会保険料控除をおよそ140万円、基礎控除を58万円差し引くと、課税される所得金額はおよそ807万円です。

この基礎控除58万円は、令和7年度の税制改正で従来の48万円から引き上げられた金額です。

課税所得807万円は、所得税の速算表で「695万円超900万円以下」の区分に入り、所得税率は23%です。これに住民税の10%を足すと、限界税率はおよそ33%になります。
つまり、掛金が全額所得控除になる制度に100万円を入れれば、その年に33万円の税金が減る計算です。この33%が、すべての判断の出発点になります。

インフレ2%時代に、お金の置き場所が変わる

かつてデフレが続いた時代は、掛金が全額所得控除になり元本も保証される小規模企業共済が圧倒的に有利でした。物価が動かないなら、確実に減らないことそのものに価値があったからです。

ところが物価が年2%ずつ上がる環境では話が変わります。
現金資産は、額面が減らなくても買える物の量で見れば毎年実質的に目減りしていきます。そうなると、お金を引き出すまでの時間と、投資に取れるリスクの大きさで、最適な置き場所が大きく変わります。

次から、その判断材料になる3つの制度の性格を整理します。

3つの制度は、性格がまったく違う

小規模企業共済:節税が確実で、いざというとき借りられる

小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除になります。
月の上限は7万円、年84万円までで、拠出した瞬間に限界税率ぶんの節税が確定します。運用の予定利率は2004年以降1.0%に固定されていますが、近年は運用が好調なぶんが付加共済金として上乗せされ、実質の利回りは1.5%から2.0%程度まで底上げされています(付加共済金は運用状況で変動し、将来の利回りを保証するものではありません)。

もう1つの利点が契約者貸付制度です。納めた掛金の範囲内で事業資金を低利で借りられ、資金繰りの保険にもなります。元本割れのリスクが小さい点が、この制度の強みです。

iDeCo:節税しながら運用できるが、60歳まで動かせない

iDeCo(個人型確定拠出年金)も、掛金の全額が所得控除になります。
小規模企業共済との違いは、自分で投資信託などを選んで運用できる点です。入口で33%の節税を受けながら、中身を株式中心にすれば、インフレを上回るリターンも狙えます。

注意したいのは、原則として60歳まで引き出せないことです。
老後資金として割り切れる範囲で使う制度だと考えてください。なお、2027年1月からは拠出限度額の引き上げが予定されており、企業年金のない方であればiDeCoだけで月6.2万円まで拠出できるようになる見込みです。

NISA:入口の控除はないが、非課税でいつでも引き出せる

NISAは、ここまでの2つとは設計が逆です。掛金は所得控除になりません。先に税金を払った手取りのお金で投資します。そのかわり、運用で得た利益(売却益・配当)には税金がかかりません。

最大の長所は流動性です。iDeCoのような年齢の縛りがなく、必要なときにいつでも引き出せます。入口の控除がないハンデを、長期の非課税運用と自由度で取り返す制度だと整理できます。

試算:100万円をどこに置くと増えるか

性格の違いを数字で並べます。税引前で同じ100万円を用意したとき、小規模企業共済(全額の100万円を利回り1.0%で運用)と、NISA(先に33%課税され手取り67万円を運用)で、受取額がいつ逆転するかを見ます。

シナリオA:NISAの期待利回りが5%の場合

世界株などに積極投資し、年5%のリターンを見込むケースです。67万円から始めるNISAは最初こそ100万円の共済に差をつけられますが、利回りの差が複利で効いてきます。

経過年数小規模企業共済
(100万円・年1.0%)
NISA
(67万円・年5.0%)
10年後約110万円約109万円
11年後約111万円約115万円
20年後約122万円約178万円

数学的な損益分岐点は10.3年です。11年目以降はNISAが逆転し、その後は差が開いていきます。10年を超えて寝かせられる老後資金であれば、入口で税金を払ってでも、5%で回せるNISAやiDeCoに軍配が上がります。

シナリオB:NISAの期待利回りが3%の場合

バランス型ファンドなどで手堅く運用し、年3%を見込むケースです。利回りが下がると複利の追い上げが鈍ります。

経過年数小規模企業共済
(100万円・年1.0%)
NISA
(67万円・年3.0%)
10年後約110万円約90万円
20年後約122万円約121万円
21年後約123万円約125万円

このとき損益分岐点は20.4年まで後ろにずれます。つまり、20年以内にリタイアや解約の出口を迎えるなら、リスクを取って3%で回すより入口の33%節税が確実な小規模企業共済のほうが有利です。

時間軸とリスク許容度で決まる、新しい優先順位

2027年のiDeCo拡充も見据えると、社長が取るべき優先順位は投資スタンスではっきり分かれます。

パターン1:株式中心(期待利回り5%)で積極的に増やしたい場合

第1位はiDeCoです。33%の節税と5%の運用でインフレを上回れます(ただし60歳まで引き出せません)。

第2位はNISAで、10年超の運用で共済を逆転しつつ流動性を確保します。

第3位が小規模企業共済で、月1万円から3万円程度に抑え、いざというときの貸付枠として維持します。

パターン2:手堅い運用(期待利回り3%)かつ、20年以内にリタイアする場合

第1位は小規模企業共済です。満額の月7万円を使い、ノーリスクで33%の節税の恩恵を受けるのが最も確実です。

第2位はiDeCoで、33%の節税に3%の運用を上乗せし、2027年以降の上限まで活用します。

第3位がNISAで、ここまでをやり切ったあとの余剰資金で運用します。

始める前に押さえておきたい注意点

iDeCoは原則60歳まで引き出せません。受け取るときには退職所得控除や公的年金等控除が使えますが、他の退職金との兼ね合いで課税される場合があります。出口の設計まで含めて考える制度です。

小規模企業共済は、加入期間が短いうちに任意解約すると元本割れの可能性があり、解約手当金にも課税が生じます。短期で出し入れする制度ではありません。

NISAは非課税である反面、損が出ても他の証券口座と損益通算ができない点に留意してください。

本記事の限界税率33%は、年収1,200万円・他に大きな所得控除がない社長を前提にした概算で、社会保険料や扶養の状況で実際の数値は動きます。基礎控除や給与所得控除は令和7年度改正で見直されたばかりで、iDeCoの拠出限度額も2027年に向けた改正が予定されています。掛金を決める際は、最新の制度内容とご自身の数字で必ず確認してください。

まとめ

小規模企業共済・iDeCo・NISAのどれを優先するかに、万人共通の正解はありません。決め手は、あと何年会社を経営するかという時間軸と、どれくらいリスクを取れるかという2つの軸です。

10年を超えて高めの利回りで回せるならiDeCoとNISA、出口が20年以内で手堅く運用したいなら小規模企業共済から。この基準にご自身の数字を当てはめれば、最適なかたちが見えてきます。

自社の数字に当てはめた優先順位づけや、出口まで含めた制度の組み合わせについては、顧問税理士と一緒に設計することをおすすめします。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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