節税の総額と年利は別物 出口まで長い節税策の本当の利回り

節税額が大きい策ほど、効率がよいとは限りません
小規模企業共済やiDeCoを勧められるとき、「30年掛ければ節税額は800万円を超えます」と説明されることがあります。総額で見れば、長く続けるほど節税額は増えます。
では、30年間預けたお金は年何%で増えたのでしょうか。
節税額を年利に直すと、出口まで長くかかる策ほど成績が下がります。入口の節税は掛けた年に1回だけ生じるため、預ける期間が延びるほど1年あたりの効果が薄まるからです。
本記事では、小規模企業共済、iDeCo、法人保険の3つについて、10年、20年、30年の年利を試算します。共済とiDeCoは、節税の効果に加えて、掛金そのものが増える効果と受け取るときの税金も織り込みます。
3つの策は、入口で税金を減らし出口で精算する仕組みです
小規模企業共済とiDeCo
どちらも掛金の全額が所得から差し引かれます。
所得税法は「居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払つた場合には、その支払つた金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する」と定めています(根拠:所得税法第75条第1項、第2項第1号、第2号)。
受け取るときは、一時金なら退職所得になります(根拠:所得税法第31条第3号、所得税法施行令第72条第3項第3号イ、第7号)。
加入年数に応じた退職所得控除を差し引き、残りの2分の1に課税されます(根拠:所得税法第30条第2項、第3項)。
控除額は20年までが1年40万円、20年を超える部分が1年70万円です。
掛金は運用もされます。
小規模企業共済の共済金Bは、中小企業庁の資料で「掛金を概ね1.0%で複利計算した元利合計額に相当」とされています。これは65歳以上で役員を退任したときなどに受け取る共済金です。
iDeCoは、選んだ投資信託や預金の成績で増え方が変わります。
法人保険
法人保険は、保険料の一部を損金にして法人税を減らします。
ただし、令和元年の通達改正後は、返戻率が高い保険ほど損金にできる割合が小さくなりました。
たとえば最高解約返戻率が70%超85%以下の保険は、保険期間の前半4割の期間、「当期分支払保険料の額に100分の60を乗じて計算した金額」を資産に計上します(根拠:法人税基本通達9-3-5の2)。
損金になるのは残りの40%です。
解約したときは、受け取った返戻金のうち資産計上額を超える部分が益金になります(根拠:法人税法第22条第2項)。
税金が減るのではなく、課税の時期が後ろにずれる仕組みです。
年利で見ると、節税の上乗せは期間とともに薄まります
ここでいう年利は内部収益率(IRR)です。
払ったお金と受け取ったお金を並べ、年何%の複利で増えたかを逆算します。
節税の効果は、掛けた年に「掛金×税率」だけ税金が減ることによる上乗せです。
税率33%なら、掛金の33%がその年の税金から差し引かれます。
10年後に受給すると、この33%は10年間で稼いだ成果として扱われます。30年後に受け取ると、最初の年の節税効果は30年に割られます。
一方、掛金が運用で増える効果は、預けている間ずっと続きます。期間が延びるほど、節税効果込みの年利は運用利回りに近づきます。
10年、20年、30年の年利を比べる試算
試算の前提です。
- 社長の税率:33%(所得税23%+住民税10%。課税所得695万円超900万円以下で、掛けた後も同じ税率区分にとどまる想定)
- 節税額は毎年末に受け取るとみなす(住民税は実際には翌年に減ります)
- 受け取りは一時金。退職所得控除を他の退職金と分け合わない前提
- 復興特別所得税は省略
小規模企業共済(月7万円、共済金Bで受取)
| 期間 | 掛金合計 | 共済金B | 受取時の税金 | 節税額の合計 | 年利 (節税込み) | 年利 (掛金増加) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 8,400,000円 | 8,825,600円 | 384,900円 | 2,772,000円 | 7.5% | 1.0% |
| 20年 | 16,800,000円 | 18,611,600円 | 1,164,000円 | 5,544,000円 | 4.1% | 1.0% |
| 30年 | 25,200,000円 | 29,482,600円 | 1,753,530円 | 8,316,000円 | 3.1% | 1.0% |
節税額の合計は、10年の277万円から30年の832万円へ3倍に増えます。
一方、年利は7.5%から3.1%へ下がります。節税による上乗せ分(7.5%−1.0%)は、10年の6.5%から30年では約2%まで縮みます。
iDeCo(月6.2万円、年3%で運用)
月6.2万円は、令和8年12月分から適用される、企業年金のない会社の役員の上限です。毎月186円の口座管理手数料と、加入時の2,829円を差し引いて計算しています。
| 期間 | 掛金合計 | 受取時の残高 | 受取時の税金 | 節税額の合計 | 年利 (節税込み) | 年利 (運用) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 7,440,000円 | 8,637,295円 | 366,100円 | 2,455,200円 | 9.3% | 2.9% |
| 20年 | 14,880,000円 | 20,248,900円 | 1,409,700円 | 4,910,400円 | 5.8% | 3.0% |
| 30年 | 22,320,000円 | 35,853,926円 | 2,947,180円 | 7,365,600円 | 4.7% | 3.0% |
iDeCoも同じ動きです。上乗せ分は10年の6.4%から、30年では1.7%になります。
共済との違いは、土台の運用利回りです。共済は長く続けるほど年1%に近づき、iDeCoは選んだ商品の利回りに近づきます。
30年では、掛金が月8,000円少ないiDeCoの残高(3,585万円)が、共済金B(2,948万円)を上回ります。
出口の税金も年利を押し下げます。
30年のiDeCoは残高が控除額の1,500万円を2,000万円以上超え、受け取るときに約294万円の税金がかかります。
法人保険(年100万円、損金40%、解約時の返戻率85%と仮定)
試算の前提は次のとおりです。
- 保険:最高解約返戻率が70%超85%以下の定期保険に、毎年100万円の保険料を払う
- 経理処理:保険料の60%を資産に計上し、残りの40%を損金にする(根拠:法人税基本通達9-3-5の2)
- 保険期間:50年以上とし、解約する20年目まで資産計上期間(保険期間の前半4割)が続く
- 解約時の返戻率:保険料合計の85%で固定(実際の返戻率は商品と解約時期で変わります)
- 法人の税率:33%。会社には毎年、損金を上回る利益がある
- 保険料は各年の初めに払い、法人税が減る効果は各年の終わりに受け取るとみなす
まず1年分の動きです。保険料100万円のうち40万円が損金になり、法人税が13.2万円(40万円×33%)減ります。会社が実際に負担するのは、差し引き86.8万円です。
10年と20年で解約した場合の計算は次のとおりです。
| 項目 | 10年 | 20年 |
|---|---|---|
| ①保険料の合計 | 10,000,000円 | 20,000,000円 |
| ②損金にした額(①×40%) | 4,000,000円 | 8,000,000円 |
| ③節税額の合計(②×33%) | 1,320,000円 | 2,640,000円 |
| ④実質の負担(①-③) | 8,680,000円 | 17,360,000円 |
| ⑤資産に計上した額(①×60%) | 6,000,000円 | 12,000,000円 |
| ⑥解約返戻金(①×85%) | 8,500,000円 | 17,000,000円 |
| ⑦解約益(⑥-⑤) | 2,500,000円 | 5,000,000円 |
| ⑧解約益にかかる税金(⑦×33%) | 825,000円 | 1,650,000円 |
| ⑨損益:解約益に課税 (⑥-⑧-④) | -1,005,000円 | -2,010,000円 |
| ⑩損益:解約益を退職金と相殺 (⑥-④) | -180,000円 | -360,000円 |
| 年利:解約益に課税された場合 | -2.2% | -1.2% |
| 年利:解約益を退職金と相殺した場合 | -0.4% | -0.2% |
⑦の解約益は、資産に計上した額を超えて戻ってきた部分で、解約した期の益金になります(根拠:法人税法第22条第2項)。
10年の場合、解約返戻金850万円から資産に計上した600万円を引いた250万円が、出口で益金となる計算です。
解約益に33%課税されると、10年で約100万円の損になります(⑨)。
入口で減らした税金132万円のうち82.5万円を出口で納税し、さらに返戻金の目減り150万円があるためです。
最良の場合は、解約した期に役員退職金を支払い、解約益250万円と相殺して税金をゼロにできたケースです。それでも18万円の損が残ります(⑩)。
節税額132万円(保険料の13.2%)より、返戻金の目減り150万円(保険料の15%)のほうが大きいからです。
年利は、毎年の実質負担額86.8万円と、解約時に手元に残る額から逆算した内部収益率です。
最良の場合、10年後に受け取る解約返戻金850万円は実質負担額の合計868万円の約97.9%にとどまるため、年利は-0.4%になります。20年でも受取額は負担の約97.9%で、比率は変わりません。
期間が2倍になった分だけ損が1年あたりに薄まり、年利は-0.2%になります。期間が延びるほど年利は0%に近づきますが、受取額が負担を下回る限りプラスには転じません。
なお、役員退職金は保険に入っていなくても損金になります。相殺のために保険が必要になるのは、退職金が大きく前後の期の利益で吸収しきれない場合などに限られます。
また、この試算には死亡保障としての保険の価値を含めていません。
年利だけで判断するわけにはいかない理由
退職所得控除は加入年数で決まる
長く掛けるほど退職所得控除が増え、出口の税金を抑えられます。
年利が下がっても、長期の加入をやめる理由にはなりません。少額でも早く加入して年数を確保し、掛金は資金繰りに合わせて増やす方法もあります。
退職金と控除を取り合う
試算は、退職所得控除をその制度だけで使える前提です。
役員退職金を受け取る年の前年以前9年内にiDeCoの一時金を受け取っていると、重なる期間の控除が調整されます(根拠:所得税法第30条第6項第1号、所得税法施行令第70条第1項第2号ロ)。
9年内とする取扱いは、令和8年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金からです。受け取る順序と間隔によって、年利は試算より下がります。
途中でやめると元本割れする
共済を任意解約すると、解約手当金は掛金合計の80〜120%で、20年未満なら掛金合計を下回ります。
iDeCoは原則60歳まで引き出せません。
法人保険も、返戻率が低い時期に解約すれば損失が広がります。年利の試算は、最後まで続けられたときの数字です。
税率の前提が変わる
試算は、30年間ずっと税率33%が続く前提です。
役員報酬を下げた年は節税額が減り、税制改正で控除額や税率が変われば結果も変わります。
まとめ
出口まで長くかかる節税策は、続けるほど節税額の総額は増えます。一方、年利で見ると入口の上乗せは薄まり、中身の運用利回りに近づきます。試算では、共済の年利は10年の7.5%から30年で3.1%、iDeCoは9.3%から4.7%に下がりました。法人保険は、最良の場合でも年利がマイナスでした。
長期の策ほど、選ぶ基準は入口の節税額から中身の運用利回りに移ります。
同じお金を設備や販促に回したら年何%で回るのかと並べて、預ける金額と期間を決めてください。
※本記事の試算は、記載の前提に基づく概算です。iDeCoの拠出限度額の引上げは令和8年12月分の掛金から適用される予定で、執筆時点(2026/10/28)では施行前です。

