私的な支出の経費計上は脱税?仮装隠蔽との違いと重加算税の基準

はじめに
「この飲食代、本当に仕事のためのものですか?」
税務調査でこう聞かれて、思わずドキッとした経験はありませんか?
社長個人の買い物や家族との食事が、いつの間にか会社の経費に紛れ込んでいたと指摘されることは少なくありません。そんな指摘を受けた経営者の方から、私はこれまで何度も相談を受けてきました。
多くの方が真っ先に心配されるのは、重加算税の存在です。
「脱税扱いされるのではないか」「会社の信用に傷がつくのではないか」と、夜も眠れなくなる方もいらっしゃいます。
この記事では、そもそも仮装隠蔽とは何か、脱税とは何が違うのかという基本から始めて、私的な支出を経費にしてしまった場合にどこからが仮装隠蔽と判断されるのかを、法律と実際の裁決事例をもとに整理していきます。
結論:私的な支出を経費にしただけでは、ただちに仮装隠蔽にはなりません
先に結論をお伝えします。私的な支出を会社の経費に計上しただけでは、ただちに仮装隠蔽にはなりません。
経費として認められなければ、その分の税金を追加で納めることになります。ただ、それだけで重いペナルティである重加算税が課されるわけではありません。
問題になるのは、私的な支出だと分かっていながら、仕事の支出であるかのように帳簿や領収書を偽った場合です。
分かれ目は、本人がどう認識していたかと、偽る行為があったかどうかの2点にあります。
また、仮装隠蔽と判断されたとしても、それがそのまま脱税という犯罪を意味するわけではありません。この2つの言葉の意味から、順番に見ていきましょう。
そもそも仮装隠蔽とは何か
仮装隠蔽という言葉は、ニュースなどで耳にしても、正確な意味までは知らない方が多いと思います。
法律(国税通則法第68条)では、隠蔽と仮装という2つの行為を合わせて定めており、どちらか一方があれば重加算税の対象になり得ます。
隠蔽とは:あるものを見えなくすること
隠蔽とは、税金の計算のもとになる事実を隠したり、わざと帳簿から抜き落としたりすることを指す言葉です。
たとえば、現金で受け取った売上を帳簿に載せない、請求書や通帳を税務署に見せずに隠しておく、といった行為が典型例です。
本当はあるものを、ないように見せる行為だと考えると分かりやすいでしょう。
仮装とは:事実をねじ曲げて見せること
仮装とは、所得や財産、取引の名義などについて、あたかもそれが本当であるかのように装い、わざと事実をゆがめることをいいます。
たとえば、実際には頼んでいない仕事の外注費を請求書ごとこしらえたり、取引先の名前を別人に書き換えたりする行為が当てはまります。
隠蔽が隠す行為なら、仮装は事実と違う姿に作り替える行為といえるでしょう。
ポイントは、わざと行ったかどうか
隠蔽にも仮装にも共通するのは、わざと行った行為であることです。
計上漏れや勘定科目の間違いといった単なるミスは、結果として税金が少なくなっていても、隠蔽や仮装にはあたりません。
国税不服審判所も、隠蔽を事実を隠したり故意に抜き落としたりすること、仮装を故意に事実をゆがめることと説明しています。故意という言葉が、両方の定義に入っている点に注目してください。
仮装隠蔽と脱税はどう違うのか
ここまで読んで、「結局、仮装隠蔽って脱税のことじゃないの?」と感じた方もいるかもしれません。実は、この2つは重なる部分はあるものの、法律上はまったく別の仕組みです。
重加算税は行政上のペナルティ
仮装隠蔽があった場合に課される重加算税は、税金の形で課される行政上のペナルティです。
通常の税務調査の中で税務署が判断し、本来の税額に上乗せして納めることになります。
重い負担であることは確かですが、犯罪として裁判にかけられるわけではありません。前科がつくこともありません。
脱税は刑事罰の対象となる犯罪
脱税は刑事罰の対象となる犯罪です。
法人税の場合、偽りその他不正の行為によって税金を免れると、実際にその行為をした代表者や従業員は、10年以下の拘禁刑(懲役と禁錮を一本化した刑罰)もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方を科されます(法人税法第159条)。
免れた税額が1,000万円を超える場合は、罰金をその税額まで引き上げることもできます。さらに、行為者だけでなく会社そのものにも罰金が科される仕組みです(法人税法第163条)。
脱税の疑いがある事件は、通常の税務調査ではなく、強い調査権限を持つ国税局の査察部門が担当します。調査の結果、犯則があると判断されれば検察官に告発され(国税通則法第155条)、刑事裁判で有罪か無罪かが決まります。
両者を比べると
| 項目 | 重加算税(仮装隠蔽) | 脱税 |
|---|---|---|
| 性質 | 行政上のペナルティ | 刑事罰の対象となる犯罪 |
| 判断するところ | 税務署などの税務調査 | 査察部門の調査、検察の起訴を経て裁判所 |
| 主な要件 | 隠蔽・仮装した事実に基づいて申告していたこと | 偽りその他不正の行為で税金を免れたこと |
| 制裁の中身 | 本来の税額に35%などを上乗せ | 10年以下の拘禁刑・1,000万円以下の罰金(併科あり)、会社にも罰金 |
| 前科 | つかない | 有罪になればつく |
両方が同時に課されることもある
脱税で刑事罰を受けた場合でも、重加算税が免除されるわけではありません。
最高裁は昭和33年4月30日の大法廷判決で、重加算税の前身にあたる追徴税と罰金を両方科しても、同じ行為を二重に処罰することを禁じた憲法に違反しないと判断しました。
つまり、悪質なケースでは、重加算税を含む追加の税金を納めたうえで、刑事罰まで受けることになります。
逆に言えば、仮装隠蔽と認定されたからといって、必ず刑事事件になるわけではありません。報道でも、重加算税にとどまったケースは所得隠し、検察に告発されたケースは脱税と書き分けられることが多く見られます。
そもそも重加算税とはどんなペナルティか
申告した税金が少なかったときは、本来の税金に加えて加算税というペナルティがかかります。通常は過少申告加算税で済みますが、事実を隠したり偽ったりしていた場合には、その代わりに重加算税が課されます(国税通則法第68条)。
税率は過少申告加算税の3倍以上
過少申告加算税の税率は、原則として10%です。これに対して重加算税は、申告はしていたが少なかった場合で35%、申告そのものをしていなかった場合で40%と定められています。
さらに、過去5年以内に同じ税目で、税務調査をきっかけとした無申告加算税や重加算税を課されたことがあると、10%が上乗せされます。一度の判断の違いで、ペナルティの重さが大きく変わることが分かるでしょう。
最高裁が示した判断の物差し
どんな場合に重加算税が課されるのかについては、平成7年4月28日の最高裁判決が基準を示しています。要点をかみ砕くと、次のとおりです。
- 少なく申告したこと自体とは別に、隠したり偽ったりしたと評価できる行為が必要です。
- 偽名を使うような積極的な行為までは、必ずしも求められません。
- 最初から少なく申告するつもりで、その意図が外から見て分かる行動をとっていれば、課される場合があります。
つまり、うっかりミスと意図して偽った行為とは、はっきり区別して考えられているわけです。
国税庁が示す隠蔽・仮装の典型例
国税庁は、法人税の重加算税について、どんな行為が隠蔽・仮装にあたるかを事務運営指針という内部ルールで示しています。代表的なものは、二重帳簿の作成、帳簿や書類の破棄や隠匿、帳簿の改ざんや虚偽の記載、取引先と口裏を合わせたうその書類の作成などです。
仮装と判断されやすい私的支出の処理
私的な支出に当てはめると、たとえば次のような処理が問題になりやすいといえます。
- 家族旅行を出張として記録し、出張報告書まで作っているケースです。
- 私的に買った家電やブランド品を、消耗品と品名を書き換えて記帳している場合も同様でしょう。
- 取引先に頼んで、名目を変えた請求書や領収書を出してもらうことも当てはまります。
- 会議費や交際費の相手として、実際には同席していない取引先の名前を書くのも危険です。
どれにも共通するのは、私的な支出だと分かったうえで、仕事の支出に見せかける細工をしている点です。
なお、税務調査でうその説明をしたこと自体が、申告時の隠蔽・仮装になるわけではありません。ただし、申告の時点で隠蔽・仮装があったことを推し量る事情の一つとして、不利に扱われるおそれがあります。
単なる判断ミスとされやすいケース
一方で、次のようなケースは、隠蔽・仮装とまではいえないと判断される余地があります。
- 仕事との関係があると考えて計上したものの、税務署の判断と食い違ったケースです。
- 社長の自宅の一部を事務所として使っていて、会社が負担する家賃の割合の見積もりが甘かった場合も考えられます。
- 支出の中身は帳簿に事実どおり書いたうえで、経費になるかどうかの判断を誤ったときも当てはまるでしょう。
皆さんの会社の帳簿は、支出の中身が事実どおりに記録されているでしょうか? この点が、いざというときの大きな分かれ目になります。
実際の裁決事例:社長個人のカードの飲食代はどう判断されたか
実際に、社長の飲食代が問題になった事例を見てみましょう。平成30年9月21日の国税不服審判所の裁決です。
この会社では、社長個人名義のクレジットカードなどで支払った飲食代を、交際費などとして会社の経費に計上していました。税務調査の際、社長は、これらは会社の業務とは関係のない個人的な飲食だと説明し、その内容が書かれた質問応答記録書に署名しています。税務署はこれらをもとに、私的な費用と知りながら経費にしたとして、重加算税を課しました。
ところが審判所は、重加算税のうち、通常の過少申告加算税を超える部分を取り消しました。主な理由は次の3つです。
- 個人名義のカードで払ったというだけでは、私的な飲食とはいえません。
- 社長の説明は大ざっぱな内容で、一つひとつの支出を裏付ける客観的な証拠がありませんでした。
- 取引先の担当者との飲食が含まれていたことがうかがえ、私的な費用と知りながら計上したとは認められないと判断されています。
この事例から分かるのは、重加算税を課すには、私的な支出だと認識していたことや、偽る行為があったことを証拠で示す必要があるという点です。
とはいえ、手放しで喜べる結果ではありません。この会社も、経費と認められなかった分の追加の税金と、過少申告加算税は負担しています。支出の目的を説明できる記録がなかったことが、結局は会社の負担につながりました。
また社長は、後になって、調査時の説明は事実と違っていたと主張しています。質問応答記録書への署名がどれほど重い意味を持つか、考えさせられる事例でもあります。
重加算税だけでは終わらない連鎖リスク
私的な支出の経費計上が否認されると、影響は加算税だけにとどまりません。なかには、仮装隠蔽とされなくても生じるものがあるため注意が必要です。
役員給与として扱われ、経費から外される
会社が社長の私的な支出を負担すると、その分は社長が会社から経済的な利益を受けたことになります。修正の方法としては、社長への貸付金として扱うやり方と、役員給与として扱うやり方が考えられるでしょう。
役員給与として扱われると、臨時的な支出であれば定期同額給与などにあたらないため、通常は会社の経費になりません。さらに、事実を隠したり偽ったりして経理した役員給与は、経費から外されます(法人税法第34条)。給与扱いになれば、源泉所得税の納付漏れという問題も生じます。
消費税の控除も認められない
私的な支出は仕事のための仕入れではありません。そのため、消費税の計算で差し引いていた分も認められず、消費税の追加納付が必要になります。
さかのぼる期間が7年に延びる
税務署が申告内容を直せる期間は、原則として5年です。しかし、偽りその他不正の行為があった場合には、7年まで延びます(国税通則法第70条)。
青色申告の承認が取り消されることも
帳簿に取引を隠したり偽ったりして記載していた場合、青色申告の承認が取り消されることがあります(法人税法第127条)。欠損金の繰越しなど、青色申告ならではの特典を失う影響は決して小さくありません。
経営者が今日からできる3つの備え
では、経営者として何をしておけばよいでしょうか? 今日から取り組める対策を3つご紹介します。
1. 会社のお金と個人のお金をはっきり分ける
法人名義のカードや口座を用意し、仕事の支払いはそこから行いましょう。個人のカードで立て替えたときは、精算のルールを決めておくと安心です。
2. 支出の目的と相手を記録しておく
飲食代であれば、誰と、どんな目的で会ったのかを、領収書の裏やメモに残しておきます。この一手間が、税務調査で仕事の支出だと説明する何よりの材料になります。
3. 調査では即答せず、記録書への署名は慎重に
調査官から質問されたとき、記憶があいまいなまま「全部プライベートです」と答えてしまうのは危険です。分からないことは、確認してから答えると伝えて構いません。質問応答記録書に署名する前には、内容が事実と合っているかをしっかり読み、顧問税理士に相談しましょう。
おわりに
私的な支出が経費に混ざってしまうことは、忙しい経営者であれば誰にでも起こり得ます。大切なのは、うっかりミスを偽りの細工で覆い隠さないこと、そして日ごろから説明できる記録を残しておくことです。
重加算税は、正しく恐れれば防げるペナルティといえます。正直な経理と日々の記録は、税務調査への備えになるだけでなく、金融機関や取引先からの信頼を高め、会社の手元資金を守ることにもつながっていきます。
経費の線引きで迷ったときは、ひとりで抱え込まずに専門家へ相談してください。早めの一歩が、会社の未来を守る確かな力になるでしょう。

