調査官が来る前のデータ提出は断れる?国税庁Q&Aで経営者が知るべきこと

はじめに:税務調査の前に「データを送ってください」と言われたら
税務署から「税務調査に伺います」と連絡があったあと、調査官が会社に来る前に「会計ソフトのデータを先に送ってください」と頼まれることが増えています。
送らないといけないのか。断ったらどうなるのか。送ったあとで申告の間違いに気づいたら、どうすればよいのか。初めてだと戸惑う社長も多いはずです。
国税庁は2026年10月、こうした疑問への答えをQ&A形式で公表しました。
本記事では、そのうち調査前のデータ提出に関する8つの問い(問1〜問8)を、税務に詳しくない方にもわかる言葉で整理します。
なぜ調査の前にデータを求められるのか
会社に来てからの確認作業を先に済ませるため
これまでは、調査官が会社に来たあとで帳簿の確認作業をしていました。データを先に受け取れば、その作業の一部を調査官が来る前に税務署の中で済ませられます。
国税庁は、調査にかかる日数や、社長や経理担当者が調査に付き合う時間を減らせると説明しています。依頼は、会社がどこまでデジタル化しているかを見たうえで、会社の理解と協力を得て行うとしています。
普通は調査日の連絡があってから頼まれる
調査官が会社に来て行う調査を、法律では実地の調査と呼びます。実地の調査をするとき、税務署は事前に次のことを連絡します。
いつ調査を始めるか、どこで行うか、何のための調査か、どの税金のいつからいつまでの分を見るか、どの帳簿を見るか、といった内容です。
連絡は会社と、顧問税理士が代理で手続きをしていればその税理士にも届きます。会社が同意していれば、税理士にだけ届く場合もあります。
データ提出の依頼は、原則としてこの連絡のあとです。ただし、調査に来る日がなかなか決まらないときは、連絡より先に頼まれることもあります。
その場合も、提出の期限などは会社の事情に配慮して対応するとしています。
会社に来る予定がない調査でも頼まれることがある
調査官が会社に来る予定のない調査でも、データを求められることがあります。
税務署がデータを見て、申告に問題がないと判断すれば、調査は終わり、その旨が口頭で伝えられます。反対に、会社に行って調べる必要があると判断されれば、速やかに調査日の連絡が来て、調査官が会社に来ることになります。
出すのは調査に必要な分だけ
税務署が帳簿の提出を求められるのは、調査に必要な範囲に限られます。
データを頼むときも、どの帳簿のデータを出すのかを会社と確認し、必要な分だけを依頼するとしています。依頼を受けたら、どの帳簿のデータが求められているのかを確認しましょう。
データの提出を断るとどうなるのか
罰則はあるが、断っただけですぐに科されるわけではない
税務署から帳簿などを見せるよう求められ、正当な理由がないのに応じない場合には、法律上の罰則があります。
1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(根拠:国税通則法第128条第3号)。
国税庁のQ&Aは、調査前のデータ提出を理由なく断った場合も、この罰則の対象になりうるとしています。
一方で、データ提出を断っただけで罰則が科されるわけではない、とも書かれています。無理やり提出させることもなく、あくまで会社の了解を得て進めるという立場です。
紙で出したり、調査当日に見せたりしてもよいか
データを送るのは情報漏れが心配なので、紙で出したい。調査当日に見せる形にしたい。Q&Aは、こうした相談にも答えています。
答えは2つの話に分かれます。
法律上は、正当な理由がない限り、帳簿を見せたり出したりする求めには応じる必要があります。
ただし、調査前にデータで出してもらう取組そのものは、会社の了解を得て行うものです。そのうえで国税庁は、できる限りデータで出してほしいとしています。
データのほうが中身を早く確認でき、調査の日数も減らせる見込みがあるからです。
情報の管理については、職員が仕事に必要な情報しか見られない仕組みにし、定期的に点検していると説明しています。
帳簿を見せないと、罰金のような税金が重くなる
帳簿を見せないことには、罰則とは別の不利益もあります。
申告した税金が少なかったときは、不足分に加えて、過少申告加算税という罰金のような税金がかかることがあります。
税務調査で売上がわかる帳簿を見せるよう求められたのに見せなかった場合などは、この加算税が最大で10%上乗せされます(根拠:国税通則法第65条第4項)。売上がわかる帳簿とは、青色申告なら仕訳帳と総勘定元帳、白色申告なら売上帳などです。
2024年1月1日以後に申告期限が来る所得税、法人税、地方法人税、消費税が対象です。
国税庁の別のQ&Aによると、帳簿を見せなかったことで上乗せされるのは、求められた帳簿を速やかに見せなかった場合です。
調査日の連絡があった調査なら、調査当日までに帳簿を準備しておけば上乗せされないとしています。調査前のデータ提出を断った場合がこれに当たるかについて、今回のQ&Aは触れていません。
データを送った日から調査が始まるのか
データを送っただけでは、調査官が会社に来たことにはなりません。
そのため、事前の連絡にある調査を始める日時は、データを送った日ではありません。調査官が初めて会社に来て、帳簿を見せるよう求める日です。
ただし、予定の日より前に調査官が会社や税理士事務所に来て、その場でデータを受け取ることになった場合は別です。そのときは調査が始まったことになるため、税務署は調査開始の日時を変更したうえで来るとしています。
データを送ったあとに間違いに気づいたらどうなるか
指摘される前に自分で直せば、加算税は軽くなる
申告の間違いを自分で直す手続きを修正申告といいます。過少申告加算税の割合は、修正申告をいつ出したかで変わります(根拠:国税通則法第65条第1項、第2項、第6項)。
| 修正申告を出した時期 | 過少申告加算税の割合 |
|---|---|
| 調査の連絡が来る前に、自分から直した場合 | 0% |
| 調査の連絡が来たあとで、税務署に間違いを見つけられる前 | 5%(不足額が大きい部分は10%) |
| 税務署に間違いを見つけられたあと(間違いを指摘されたあとなど) | 10%(不足額が大きい部分は15%) |
表の「不足額が大きい部分」とは、もともと申告した税額と50万円のうち、多いほうの金額を超えた部分です。
気になるのは、データを送った時点で「税務署に間違いを見つけられる」と分かったものとして扱われ、10%になってしまわないかという点です。
Q&Aは、データを提出しただけでは10%の扱いにはならないと答えています。
たとえば、税務署が申告内容を調べて間違いを指摘したあとに直した場合は、原則として10%になります。ただし、最終的には個々の事情を見て判断するとしています。
試算例:追加の法人税が100万円の場合
法人税300万円を期限内に申告していた会社が、調査の連絡を受けてデータを送ったとします。
送る前に帳簿を見直したところ、売上の計上漏れが見つかり、法人税が100万円増えるケースです。増えた100万円は、もともとの税額300万円を超えていないため、割合が上がる部分はありません。
| 修正申告を出した時期 | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 税務署から指摘される前 | 100万円×5%=50,000円 |
| 税務署から指摘されたあと | 100万円×10%=100,000円 |
同じ間違いでも、指摘の前に直せば加算税は半分で済みます。
なお、どちらの場合も、増えた税金そのものと、納付が遅れた日数分の延滞税は支払います。地方法人税、法人の住民税、事業税も、別で増えます。
今のうちに準備しておきたい4つのこと
データ提出は、準備ができていれば会社の負担を減らせる仕組みです。調査に付き合う日数が減れば、その時間を本業に使えます。次の4点を確認しておきましょう。
- 会計ソフトから帳簿をデータで取り出す方法を確認しておく。クラウド会計なら、出力の手順を顧問税理士と一緒に確かめておくと安心です。
- 依頼が来たら、どの税金の何年分の、どの帳簿が必要なのかを確認する。依頼は調査に必要な範囲に限られます。
- 送る前に、顧問税理士と中身を見直す。税理士が代理で手続きをしていれば調査の連絡は税理士にも届くため、相談はすぐにできます。
- 見直しで間違いが見つかったら、指摘を待たずに修正申告を検討する。
まとめ
調査前のデータ提出は、普通は調査日の連絡のあとに頼まれ、出すのは調査に必要な分だけです。
理由なく断れば罰則の対象になりえますが、国税庁は会社の了解を得て進めるとしています。
データを送っただけで、加算税が10%になる扱いにはなりません。送る前に見直して間違いに気づけば、加算税を軽くできる可能性があります。
※本記事は、国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼等に関するQ&A」(令和8年10月)の内容に基づいています。加算税がかかるかどうかは、個々の事情により判断されます(執筆時点:2026/10/29)。
出典:国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼に関する取組等について」(https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/denshi_data/index.htm)、国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼等に関するQ&A」(令和8年10月、https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/denshi_data/pdf/02.pdf)、国税庁「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A」(令和4年10月、https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0022009-072_01.pdf)、e-Gov法令検索「国税通則法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066)

