知らないと損する:役員賞与を税務調査で否認されない会社の共通点とは?

はじめに
税務調査の連絡が入ったとき、多くの社長が真っ先に頭をよぎるのが「役員賞与は大丈夫だろうか」という不安です。それはある意味、正しい反応です。実際に、役員賞与は税務調査において調査官がチェックする項目のひとつだからです。
なぜ役員賞与が注目されるのか。調査官は具体的に何を見ているのか。そして、追徴課税を防ぐために事前にどんな書類を揃えておくべきか。
今回は、初めて税務調査を受ける社長や、近く調査が入る予定のある社長に向けて、役員賞与をめぐる税務調査の実態と対策をわかりやすくお伝えします。
「うちは毎年ちゃんと賞与を払っているから問題ない」と感じている社長ほど、実は落とし穴にはまりやすいものです。なぜそう言えるのか、順を追って説明していきましょう。
役員賞与はなぜ税務調査で「狙われる」のか?
まず、税務上の仕組みを整理しておきましょう。
会社が役員に支払う給与は、原則として損金(経費)に算入できません。これは法人税法第34条に明確に定められていることです。
損金に算入が認められる役員給与は、次の3種類に限られています。
- 定期同額給与:毎月同額を支払う役員報酬
- 事前確定届出給与:事前に税務署へ届け出た金額・時期どおりに支給するボーナス
- 業績連動給与:利益指標に基づいて算定する給与(主に上場会社向け)
つまり、役員賞与を損金に算入するには、あらかじめ所定の届出を税務署に提出していることが絶対条件になります。届出なしに支払った役員賞与は、たとえ適正な金額であっても損金に算入されず、全額が法人税の課税対象になってしまいます。
調査官がこの項目に目を光らせるのは、「届出なしで賞与を支払い、経費に計上している会社」が少なくないという実態があるからです。また、仮装や隠蔽による賞与の損金計上が行われた場合、法人税法第34条第3項により、その全額が損金不算入となるうえに重加算税の対象にもなります。
調査官が最初に確認する「届出の有無と期限」
事前確定届出給与に関する届出書は、賞与を支払う前に所轄の税務署へ提出しておく必要があります。税務調査が始まると、調査官は税務署の内部システムで届出の有無と受付日をすでに把握した状態で調査に臨みます。つまり、届出が出ているかどうかは、最初から調査官には分かっています。
問題になるのは、「期限内に届出が提出されているか」と「届出内容が支給の実態と一致しているか」の2点です。
届出の期限は、法人税法施行令第69条に定められており、株主総会等の決議日から1ヶ月以内、または事業年度開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日までとされています。この期限を1日でも過ぎてしまうと、届出は無効と見なされ、支払った役員賞与は全額損金不算入になります。
社長の会社では、届出が期限内に提出されているかを確認できていますか? 「顧問税理士に任せているから大丈夫」と思っているかもしれませんが、念のため税理士に確認しておくことをお勧めします。
調査官がチェックする4つのポイント
① 届出書の有無と提出タイミング
調査官は税務署の内部記録で届出の有無と日付を確認できます。重要なのは、会社側も提出日を証明できる記録を手元に持っておくことです。令和4年(2022年)1月以降、税務署では届出書への収受印の押印を廃止しています。そのため、現在は次の方法で提出日を記録しておく必要があります。
- e-Tax(電子申告)で提出した場合:受信通知(受付番号・受付日時が記載されたもの)を必ず保管する
- 郵送で提出した場合:簡易書留または配達証明付き郵便を利用し、受領証を保管する
- 窓口持参で提出した場合:収受印は押されないため、提出日が確認できる書類(控えへの担当者のメモ等)や窓口での対応記録を手元に残しておく
窓口持参の場合は証明手段が限られるため、e-Taxまたは郵送(簡易書留・配達証明)での提出が最も確実です。
② 株主総会議事録の内容
次に調査官が確認するのが、株主総会の議事録です。事前確定届出給与は、「誰に」「いくら」「いつ」支払うかを株主総会(または取締役会)で決議した内容に基づくものでなければなりません。
議事録に支給額や支給時期の記載がない、または日付が後から書き直された形跡がある場合は、決定的な疑いの目を向けられます。議事録は形式的に作成するのではなく、支給額・支給時期・対象役員名を明確に記載したものを正確な日付で作成・保管することが必要です。
③ 届出内容と実際の支給額・支給日の完全一致
事前確定届出給与は、届け出た金額・時期どおりに支給しなければ損金算入が認められません。1円でも金額がずれた場合、または支給日が届出と異なる場合は、届出の効力が失われます。
よく見られるのが、業績が悪化したために当初の届出額より少ない金額を支払ったケースや、資金繰りの都合で支給日を数日ずらしたケースです。どちらも「届出通りでない」と判断され、損金算入が否認されます。金額や日付の変更が必要な場合は、所定の手続きで変更届出を提出することが必要です。
④ 振込記録と源泉徴収関連書類の整合性
実際に賞与が支払われたかどうかも確認されます。通帳の振込履歴、賞与明細書、源泉徴収簿の記載内容が届出の内容と一致しているか、調査官は丁寧に照合します。現金払いの場合は、受取サインや領収書がないと実態が証明できないため、振込払いにしておくほうが安全です。
また、賞与にかかる所得税の源泉徴収が正しく行われているかも確認されます。源泉徴収税額が賞与の金額に対して適切かどうか、納期の特例を利用している場合は納付が適切に行われているかもチェックされます。
事前に整えるべき証拠書類チェックリスト
税務調査に備えて、次の書類が揃っているかどうかを今すぐ確認してみてください。
- 事前確定届出給与に関する届出書の控え+提出証拠(e-Taxの受信通知、または郵送の場合は簡易書留・配達証明の受領証)
- 株主総会(または取締役会)議事録(支給額・支給時期・対象役員名が明記されているもの)
- 賞与支給時の振込記録(通帳コピーまたはネットバンキングの振込履歴)
- 源泉徴収簿・源泉所得税の納付書(控え)
これらをファイリングして、すぐに取り出せる状態にしておきましょう。調査当日にあわてて探すようでは、それ自体が調査官に「管理が杜撰(ずさん)な会社」という印象を与えてしまいます。
上のリストを眺めて、すぐに「全部ある」と言い切れる社長は何人いるでしょうか? 1つでも「あれ、どこにしまったっけ」と思ったなら、今が整備するタイミングです。
「不相当に高額な役員給与」という別のリスク
事前確定届出給与の要件を満たしていたとしても、もうひとつ注意すべき視点があります。それが、不相当に高額な役員給与の問題です。
法人税法第34条第2項では、役員に支払う給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金に算入しないと定められています。どの程度が「不相当に高額」かは、同業種・同規模の他社と比較した際の支給水準や、その役員が会社にもたらした職務内容・貢献度などを総合的に判断して決まります。
中小企業では、社長本人が大半の業務を担っているケースも多く、それを根拠に高額の役員給与を設定していることがあります。しかし調査官は、同規模・同業種の会社の役員給与水準を踏まえながら、「この金額は妥当か」という視点で必ず見てきます。
役員給与を高く設定している場合は、その根拠となる職務内容、業務量、会社への貢献実績を書面で整理しておくことが、万が一の際の防衛手段になります。
社長の役員給与の金額は、もし調査官に「なぜこの金額なのか」と問われたとき、根拠とともに説明できますか? もし即答できないなら、今のうちに整理しておきましょう。説明できる状態にしておくことが、そのまま証拠になります。
まとめ:今すぐ動くことが最大の対策
役員賞与は、適切な手続きと書類の整備があれば、税務調査でも堂々と対応できる項目です。一方、手続きの漏れや書類の不備があれば、実態が正しくても認められないのが税務の厳しさです。
税務調査は「来てから対応する」では手遅れになることがほとんどです。今この記事を読んでいるタイミングで、顧問税理士とともに次の点を確認してみてください。
- 今期・前期の役員賞与について、事前確定届出給与の届出書はあるか
- 株主総会議事録の記載内容と届出書の内容に相違はないか
- 実際の支給額・支給日が届出と完全に一致しているか
- 振込記録と源泉徴収関連書類がセットで保管されているか
備えた会社は、税務調査をおそれません。早めの確認と整備が、追徴課税というリスクから会社のお金を守る最大の対策です。何かお気づきの点がある場合は、早めに税理士へご相談ください。


