小規模企業共済の掛金、減額すると将来いくら損する?仕組みと試算

はじめに:資金繰りが苦しいと、つい掛金を下げたくなる
小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になる、経営者にとって使い勝手のよい退職金制度です。節税しながら将来の資金を積み立てられるため、月7万円の上限いっぱいで加入している社長も少なくありません。ところが、業績が落ち込んだり、納税や仕入れで一時的に資金が必要になったりすると、「とりあえず掛金を下げて月々の負担を軽くしよう」という発想が出てきます。
掛金の減額は、たしかに毎月の支出をすぐ減らせる便利な手段です。手続きも以前より簡単になりました。しかし、その一手は将来受け取る共済金を確実に削ります。
今回は、掛金を途中で減額したときに何が起きるのかを、制度の仕組みと受取額のシミュレーションで整理します。あわせて、業績が戻ってから増額した場合にどこまで取り返せるのかも見ていきます。下げる前に知っておけば避けられる損が、いくつもあります。
掛金の減額は「いつでも自由」になった
まず押さえておきたいのは、減額そのものは難しくないという点です。
かつては掛金を減額するために「事業の規模を縮小した」などの理由を示す必要がありました。2016年(平成28年)4月の制度改正でこの理由要件が撤廃され、今は理由を問わず、いつでも減額できます。
掛金月額は1,000円から70,000円まで、500円単位で自由に設定し直せます。
ここで誤解が生まれやすいところです。手続きが自由になったことと、減額しても損がないことは、まったく別の話です。自由化されたのはあくまで「変更のしやすさ」であって、減額にともなうデメリットがなくなったわけではありません。便利になったぶん、仕組みを理解しないまま下げてしまうリスクはむしろ高まっています。
それでも残る、減額の本当のデメリット
減額した差額分は、その後の運用が止まって据え置かれる
共済金がいくらになるかは、掛金月額と掛金納付月数の組み合わせで決まります。
中小機構は、減額したときの計算方法をこう説明しています。
「途中で減額をしている場合も、それぞれの掛金月額による掛金納付月数について計算を行い、それらを合計した額となります」
つまり、減額の前と後では別々の区分として扱われ、減額した差額の部分は、減額した時点の納付月数で計算が止まります。
これが大きな意味を持つのは、納付月数が長いほど1口あたりの共済金額が高くなるからです。
中小機構の計算例では、掛金月額500円(1口)あたりの基本共済金額は、納付60か月で31,070円、120か月で64,530円、180か月で100,550円と、月数が伸びるほど単価が上がっていきます。
長く積み立てた区分ほど、予定利率による上乗せが効いて有利になる仕組みです。減額するとその差額部分は短い月数のまま固定され、本来なら受けられたはずの上乗せが付かなくなります。本制度の予定利率は年1.0%です。
言い換えると、減額した差額分は「掛け捨て」になるわけではありませんが、受け取るまで運用が進まない据え置き状態に置かれます。下げた瞬間に、その部分の将来の伸びしろが止まると考えてください。
20年未満での任意解約は元本割れにもつながる
もう一点、減額と合わせて知っておきたいのが解約のルールです。掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意に解約すると、解約手当金が掛金の合計額を下回り、元本割れします。また、加入から12か月未満で任意解約すると掛け捨てになります。
裏を返せば、資金繰りが苦しいときの正しい対処は、解約ではなく「無理のない金額まで下げて加入を続けること」です。減額にデメリットはあっても、元本割れする任意解約よりは傷が浅く済みます。減額は解約を避けるための緊急避難と位置づけるのが現実的です。
数字で見る:減額すると受取はどう変わるか
仕組みだけでは実感がわきにくいので、簡単なモデルで比べてみます。次の前提を置きます。
- 45歳で月5万円(年60万円)で加入し、65歳の廃業まで20年間続ける予定だった
- ケースA:減額せず、月5万円のまま20年間継続する
- ケースB:加入10年後に資金繰りが悪化し、月1万円へ減額。その後10年間そのまま続ける
- ケースC:加入10年後に月1万円へ減額したが、加入15年目に業績が回復し、月5万円へ戻す(4万円を増額)
- 予定利率は年1.0%とする
まず掛金の総額で比べます。
ケースAは、5万円×240か月で1,200万円
ケースBは、1万円の区分が240か月で240万円、減額された4万円の差額区分が120か月で480万円、合計720万円です。
積み立てる元本そのものが480万円少なくなります。
この480万円は手元に残るお金でもあるため、資金繰りのために確保したという見方もできますが、その代わりに将来の受取を手放すことになります。
次に、運用の差です。
減額しなければ、4万円の差額区分(残り10年で480万円相当)は予定利率1.0%で運用が続いていました。
仮にこの部分が年1.0%の複利で10年回ると、概算でおよそ530万円となり、50万円ほどの上乗せが生まれます。減額するとこの上乗せが付かず、差額区分は減額時点の金額で据え置かれます。
※実際は別表と付加共済金で決まるため、上記は伸びしろを大づかみに示した参考値です。
業績が戻ってから増額すると、どこまで取り返せるか
では、いったん減額しても、業績が戻ってから増額すればどうなるでしょうか。
ケースCがこの場合です。掛金は増額も自由で、増額した部分は新しい区分として、増額した時点から納付月数を積み上げていきます。
ケースCの掛金総額は、1万円の区分が240か月で240万円、減額前に積んだ4万円の差額区分が120か月で480万円、そして加入15年目に戻した4万円の区分が残り60か月で240万円、合計960万円になります。
減額したまま放置するケースB(720万円)より240万円多く積み立てられ、元本はかなり取り戻せます。
ただし、減額しなかったケースAには届きません。理由は納付月数にあります。
ケースAでは4万円分を240か月かけて積むのに対し、ケースCでは復活させた4万円分の区分が60か月しか積めません。共済金は納付月数が長いほど1口あたりの単価が高くなるため、同じ4万円分でも、短い月数で再スタートした区分は単価が低く、運用の上乗せも小さくなります。さらに、減額していた5年間は4万円分の積立が止まっていたため、その期間の運用も取り戻せません。
増額は減額の傷を浅くする有効な手立てですが、いったん下げた区分を完全に元どおりにはできません。減額は「一時的な調整」と位置づけ、回復したら早めに戻すほど、ケースAとの差を小さくできます。
※ここで示した金額は、予定利率1.0%を用いた概算のイメージです。実際の共済金は、掛金区分ごとに小規模企業共済法施行令の別表で定められた金額と、毎年度変わる付加共済金の支給率にもとづいて算定されます。ご自身の正確な受取見込みは、中小機構の共済金試算シミュレーション( https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai1/simulator/index.php )でご確認ください。
減額する前に試したい2つの代替策
掛金の負担が重いと感じたとき、いきなり大きく減額する前に検討したい手立てがあります。
1つ目は、契約者貸付制度の活用です。
小規模企業共済の契約者は、納付した掛金の範囲内で事業資金を借り入れできます。
一般貸付けの利率は年1.5%で、限度額は掛金の7〜9割の範囲(10万円以上2,000万円以内)です。一時的な資金不足であれば、減額して積立を止めるより、貸付で乗り切るほうが将来の受取を守れる場合があります。
2つ目は、減額の幅を最小限にとどめることです。
どうしても月々の負担を下げたいときも、ゼロに近づけるのではなく、続けられる範囲で小さく下げるほうが、据え置きになる差額区分を抑えられます。最低額は月1,000円ですから、加入そのものは細く長く維持できます。そのうえで、業績が戻ったら先ほどのケースCのように早めに増額すれば、減額の影響をある程度取り返せます。
受け取り方で変わる、出口の税金
最後に、共済金を受け取るときの税金にも触れておきます。
減額した契約でも、受取時の税制優遇は変わりません。共済金を一括で受け取る場合は退職所得として扱われ、退職所得控除を差し引いたうえ、残額の2分の1だけが課税対象になります。分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得となり、公的年金等控除が使えます。
つまり、入口(掛金の所得控除)と出口(受取時の控除)の両方で優遇が効くのが、この制度の強みです。だからこそ、途中の減額でその効果を自分から削ってしまうのは惜しい選択になります。
役員退職金やiDeCoと受け取る時期が近いと退職所得控除を取り合うことがあるため、出口の設計は早めに考えておくと安心です。
まとめ
掛金の減額は、2016年の改正で理由を問わずいつでもできるようになりました。しかし、減額した差額分はその後の運用が止まって据え置かれ、納付月数が伸びるほど高くなるはずだった共済金の上乗せを受けられなくなります。業績が戻ってから増額すれば元本はかなり取り戻せますが、短い月数で積み直すことになるため、減額しなかった場合の水準には届きません。減額には確実なコストがついて回ります。
資金繰りが苦しいときは、安易な減額や任意解約に走る前に、契約者貸付や減額幅の調整、回復後の増額といった選択肢を比べてみてください。


