iDeCoで社長個人の手残りを増やす|3つの税制優遇と退職金との注意点

はじめに:節税したいのに、手をつけられていないもの
法人税の対策はひと通り考えてきた。それでも、社長個人の所得税や住民税については「高いな」と感じながら、つい後回しにしてきた——そんなオーナー社長は少なくありません。会社の節税には熱心でも、社長自身の税負担と老後資金づくりは、別物として置き去りになりがちです。
しかし、会社の利益を役員報酬で受け取れば、そのお金には所得税・住民税・社会保険料がかかります。受け取った後のお金をどう守り、どう増やすかも、立派な「手残りを増やす」設計の一部です。
そこで今回は、社長個人の節税と老後資金づくりを同時に進められる制度として、iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)を取り上げます。同じ投資信託や定期預金で運用しても、iDeCoという制度を通すだけで税負担が軽くなる。その理由を、入口・運用・出口の3つの段階に分けて整理していきます。
iDeCoとは:国がつくった「自分でつくる年金」
iDeCoは、毎月決まった掛金を出して、自分で選んだ投資信託や定期預金で運用し、原則60歳以降に受け取る制度です。ひとことで言えば、国が用意した「自分でつくる年金」の仕組みです。
最大の特徴は、税制上の優遇が3つの段階で効いてくることです。
掛けるとき(入口)、運用しているあいだ(運用)、受け取るとき(出口)の3点で税金が軽くなるのは、ほかの投資にはないiDeCoならではの強みです。一つずつ見ていきましょう。
3つの税制優遇を順番に理解する
①入口:掛金がまるごと所得控除になる
iDeCoに拠出した掛金は、その全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象になります。所得控除とは、税金を計算するもとになる所得(もうけ)から差し引ける金額のことです。差し引いた分だけ、その年の所得税と翌年の住民税が軽くなります。
たとえば、所得税率23%・住民税率10%の社長が毎月2万円(年間24万円)を掛けたとします。それだけで、年間およそ7万9,200円も税金が減る計算です(復興特別所得税は省略)。これは運用の成績とは関係なく、掛けた瞬間に確定する効果です。
実質およそ16万800円の負担で24万円分の積立ができるわけで、高い税率で課税されている社長ほど恩恵は大きくなります。
②運用:増えた利益が非課税になる
通常、投資信託や預金で得た利益には20.315%の税金がかかります。10万円もうけても約2万円が引かれ、手元に残るのは約8万円です。ところがiDeCoの中で運用しているあいだは、この利益に税金が一切かかりません。
iDeCoは原則60歳まで引き出さずに運用を続ける制度なので、税金が引かれないまま利益が利益を生む状態が長い年月をかけて積み上がり、運用期間が長いほどこの差は大きく開いていきます。
③出口:受け取るときにも控除がある
60歳以降にお金を受け取るときも、税制上の優遇があります。まとめて一括で受け取る場合は「退職所得控除」、年金のように分割で受け取る場合は「公的年金等控除」が使えるため、税負担が大きく軽減されます。
とくに一括で受け取る退職所得は、控除後の金額をさらに2分の1にしてから課税される仕組みです。入口でも、運用中でも、出口でも優遇される。これがiDeCoの強さです。
数字で見るiDeCoの効果(試算例)
効果は数字で見るとはっきりします。次の前提で考えてみます。
- 年収1,200万円、毎年の所得税率23%・住民税率10%
- 毎月5万円(年間60万円)を2027年1月以降、20年間積み立てる
- 運用は年5%の複利
- 受け取りは「一時金(65歳で一括)」と「年金(65歳から10年)」の2パターン
- これとは別に、勤続30年・70歳のときに役員退職金3,000万円を受け取る
20年間で拠出する掛金の合計は1,200万円です。
このうち入口の節税額(所得税・住民税の軽減)だけで、20年合計でおよそ396万円になります。
運用益の非課税効果も加わり、受け取り時の手取りは一時金でおよそ1,908万円、年金でおよそ1,756万円という規模感です。
ここで注意したいのが、後ほど触れる「退職所得控除の取り合い」です。
これを加味すると、最終的に増えるお金は一時金でおよそ945万円、年金でおよそ952万円となり、両者はほとんど変わらない結果になります。
退職金が多い社長の場合は、iDeCoをあえて年金で受け取り、退職所得控除を役員退職金のために温存したほうが有利になることもあります。
※金額はいずれも一定の運用利回りを想定した概算です。運用の結果次第では、期待された効果が出ないこともあります。
知っておきたい2026年の制度改正
iDeCoは、長く働く時代に合わせて毎年のように使いやすくなっています。直近の改正は次のとおりです。
2026年12月(予定)の制度改正により、加入できる年齢が「65歳未満」から「70歳未満」に拡大されます。
あわせて掛金の上限も引き上げられ、会社員・公務員など(第2号被保険者)は最大で月6.2万円に、自営業者など(第1号被保険者)は月7.5万円に増額される見込みです。実際の拠出は2027年1月分からとされています。
とくに、加入できる年齢が70歳未満まで広がることは、50代から始める社長にとって大きな意味を持ちます。
これまで「もう60歳が近いから手遅れだ」と感じていた方も、運用できる期間が延びることで、十分に検討する価値が出てきます。
なお、毎月いくらまで掛けられるか(拠出限度額)は働き方によって変わります。
会社を設立した社長は厚生年金に加入するため、現状は企業年金がなければ月2.3万円(2027年1月以降の拠出は6.2万円)までが目安です。
自分がどの立場で、いくらまで掛けられるのかは確認しておきましょう。
iDeCoの注意点:良いことばかりではない
多くの利点があるiDeCoにも、弱点があります。最大の注意点は、原則60歳まで引き出せないことです。
老後資金づくりが目的の制度なので、途中で事業の運転資金に使いたいと思っても解約できません。教育資金や住宅資金など、近いうちに必要になりそうなお金をiDeCoに回すのは避けましょう。
また、口座管理手数料などの維持コストがかかること、選ぶ商品によっては元本割れのリスクがあることも頭に入れておく必要があります。
見落としやすい「退職所得控除の取り合い」
そしてもう一つ、出口での税金の調整に注意が必要です。会社の退職金や小規模企業共済と受け取る時期が近いと、退職所得控除の枠を取り合ってしまうのです。
退職所得控除は、勤続年数(iDeCoの場合は拠出年数)に応じて決まります。20年を超える部分は1年あたり70万円ずつ積み上がっていきます。
たとえば勤続30年で役員退職金3,000万円を受け取ると、退職所得控除は1,500万円です。
ところが、iDeCoを一時金で受け取って退職所得控除(20年で800万円)を先に使うと、その800万円分は役員退職金の受け取り時には使えなくなります。
結果として、退職金にかかる税金がおよそ159万円増えてしまうことがあります。これは、過去に受けた退職手当等との重複を調整する仕組みによるものです。
だからこそ、退職金が多い社長は、iDeCoをあえて年金で受け取り、退職所得控除を役員退職金のために温存するという選択肢も出てきます。どちらが有利かは一人ひとり異なるため、出口の設計は早めに考えておきたいところです。
始め方と、社長の経営にとっての意味
始め方はむずかしくありません。まず自分の働き方と企業年金の有無から毎月の掛金の上限を確認し、証券会社や銀行などの金融機関で口座を開きます。あとは月5,000円以上・1,000円単位で掛金と運用商品を決めれば、毎月自動で積立が始まります。迷ったら少額からでも始めて、慣れてきたら掛金を増やしていけば十分です。
少額でも早めに始めておくと、もう一つ得があります。出口の退職所得控除は、掛金をいくら出したかではなく、何年かけ続けたかという年数で決まります。月5,000円という最低額でも、その年はきちんと1年とカウントされます。早くスタートして拠出年数を積み上げておけば、将来まとめて受け取るときの非課税の枠を、それだけ大きく確保しておけます。
まとめ
iDeCoは、掛けるとき・運用するとき・受け取るときの3段階で税負担を軽くしながら、社長自身の老後資金をつくれる制度です。掛金は全額が所得控除になり、運用益は非課税、受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除が使えます。2026年12月予定の改正で加入年齢と掛金上限が広がることも、50代以降の社長には追い風です。
一方で、原則60歳まで引き出せないこと、そして役員退職金との「退職所得控除の取り合い」には注意が必要です。とくに退職金が大きい社長は、受け取り方を一時金にするか年金にするかで手残りが変わります。この出口設計は、早めに検討しておくことをおすすめします。


