節税で失敗する社長に共通する3つの行動パターン

はじめに――節税したのに、なぜかお金が残らない
「利益が出たので節税対策をしたのに、気がつけば通帳の残高が増えていない」
税理士として仕事をしていると、こうしたお悩みをお持ちの社長に出会うことが少なくありません。節税でわざわざ損をしたい経営者はどこにも存在しないはずです。それでも現実には、節税に取り組んだ結果としてかえってお金を失ってしまうケースが後を絶ちません。
私はこれまで25年以上にわたって税理士業務に携わり、100名を超える社長の税務をサポートし、500回以上の決算に立ち会ってきました。その経験を通じて見えてきたことがあります。節税で失敗する社長には、驚くほど共通した行動パターンがあるということです。
逆に言えば、そのパターンを事前に知っておくだけで、同じ失敗を避けることができます。この記事では、その3つのパターンを具体的にご紹介します。ぜひご自身の会社が当てはまっていないか、確認しながら読み進めてください。
まず知っておきたい――節税には「3つの型」がある
失敗パターンをお伝えする前に、大切な前提をお話しします。節税には、その性質によって大きく3つの型があります。
① 制度を使う節税(難易度:低)
国が用意した優遇税制や、社内規程に基づく非課税の仕組みを活用する方法です。要件さえ満たせばほぼ確実に効果が出るため、3つの型の中で最もリスクが低く、すべての会社が最優先で取り組むべき節税です。
② 経費を使う節税(難易度:中)
事業に必要な支出を今期に前倒しで行い、利益を圧縮する方法です。節税効果は確実ですが、使った経費が来期以降に売上や利益として回収できなければ、結果的にお金が減るだけに終わります。
③ テクニックを使う節税(難易度:高)
課税のタイミングをずらしたり、取引の設計を工夫したりする高度な手法です。顧問税理士との綿密なシミュレーションと、取引の実態との整合性が絶対条件です。
この3つの型を理解せずに「とにかく節税したい」と動いてしまうことが、多くの失敗の出発点になっています。では、それぞれの型で実際にどのような失敗が起きているのか、順番に見ていきましょう。
パターン1:「制度節税」を知らずに、毎年確実なチャンスを逃し続ける
最初のパターンは、国が用意している優遇制度をそもそも知らないために、確実に使えたはずの節税機会を見逃してしまうケースです。
スーパーで買い物をするとき、クーポン券を持っていれば提示するだけで安く買えます。持っていなければ定価で払うことになります。税金の世界も同じで、知っている人、申請した人だけが得をする「国からのクーポン券」のような制度が数多く存在します。
代表的なものを挙げると、青色申告をしている中小企業が一定の機械設備・工具・ソフトウェアを新品で購入した場合に、取得金額の30%を通常の減価償却費に上乗せして計上できる中小企業投資促進税制(根拠:租税特別措置法第42条の6)があります。あるいは、従業員の給与を継続的に引き上げた際に税額から直接控除できる賃上げ促進税制(根拠:租税特別措置法第42条の12の5)なども、要件を満たすだけで確実に節税効果が生まれます。
また、出張旅費規程や退職金規程といった社内規程を整備・運用することで、会社が役員・従業員に支払ったお金を経費にしながら、受け取った本人にも課税されない、または低い税負担で済む仕組みを作ることもできます。
ただし、制度節税は「設備投資や給与改定などの意思決定の前に確認する」ことが鉄則です。購入後に制度の存在を知っても申告上で対応できないことがあります。もう少し早く相談してくれれば税額控除が使えたのに、という場面は実務の現場でも珍しくありません。
パターン2:「経費節税」で税金は減ったが、通帳残高がもっと減った
節税の失敗として最も多く、かつ会社の体力を最も奪いやすいのがこのパターンです。
こんなご経験はありませんか? 決算が近づいて利益が出ていると分かり、急いで経費を使ったにもかかわらず、翌月の通帳残高を見て首をひねる、という経験です。
仕組みを理解するために、簡単な試算を見てみましょう。会社の税率を30%と仮定します。
100万円の利益が出たとき、何もしなければ税金30万円を払い、手元には70万円が残ります。ところが、税金を払いたくないと焦って80万円の必要性が低い経費を使ったとしましょう。利益は20万円に圧縮され、税金は6万円に減ります。しかし通帳からはすでに80万円が出ていきました。最終的に手元に残る現金はわずか14万円です。
税金は24万円減りましたが、何もしなかった場合と比べて現金は56万円も少なくなっています。これが経費節税の失敗における典型的な構造です。
なぜこうなるのでしょうか。経費を使う節税の本質は「投資」であり、今期使った経費が来期以降に使った金額以上の利益を生むというシナリオが必要です。ところが人間は「税金を払う痛み」を強く感じるあまり、将来の回収を考えずに決算直前に経費を使いがちです。
正しいアプローチは、「種まき(今期の投資)」と「収穫(来期以降の利益)」をセットで設計し、決算の2〜3ヶ月前から最終調整に入ることです。
パターン3:「テクニック節税」を安易に真似て、追徴課税を受ける
3つ目は、高度な節税テクニックを実態の裏付けなしに模倣し、税務調査で否認されてしまうパターンです。
たとえば、勤務実態を伴わない家族への役員報酬の支払い、実体のない業務委託による関連会社への不自然な利益移転などは、取引の実態がないとして税務調査で否認されるリスクが高い手法です。「社長仲間がやっていた」「YouTubeで見た」という理由で安易に取り入れると、深刻な事態を招きかねません。
ひとたび税務調査で課税標準等の隠蔽・仮装が認定された場合、本来納めるべき税額に加え、国税通則法第68条第1項の規定により、基礎となる税額の35%に相当する重加算税が課されます。さらに、未納付期間に応じた延滞税(国税通則法第60条)も加算されるため、最終的な納付総額は当初の想定をはるかに上回ることになります。
手元資金が潤沢でない時期にこうした追徴課税が発生すれば、資金繰りへのダメージは計り知れません。滞納が続けば新規融資が止まり、事業の継続そのものが危うくなることもあります。
テクニックを使う節税は、取引の実態に即して顧問税理士と綿密に設計すれば有効な手段になります。しかし、「難易度:高」の手法を「難易度:低」と誤解して取り扱うことが最大の危険です。表面的な情報だけで判断する前に、必ず専門家に相談してください。
節税で勝つ社長に共通すること
では、節税でしっかりと手残りを増やしている社長は何が違うのでしょうか。
共通しているのは2点です。
一つ目は、節税の型を理解した上で優先順位を守っていることです。まずリスクの低い制度節税を漏れなく使い倒し、次に投資としての回収シナリオが描ける経費節税を実行し、テクニック節税は顧問税理士と十分に検討した上で慎重に判断するという順序を守っています。
二つ目は、安定したリピート売上の仕組みを持っていることです。毎月の売上が安定していれば、来期の資金繰りに自信が持て、今期の投資判断に余裕が生まれます。節税で積み上げた手残りをさらに事業成長へ再投資する好循環が生まれるのも、この安定基盤があってこそです。節税策と売上設計は、別々に考えるべきテーマではありません。
まとめ――節税のゴールは「税金ゼロ」ではない
この記事でお伝えしたかったことを、最後に一言でまとめます。
節税のゴールは、税金をゼロにすることではありません。最低限必要な税金を払ったうえで、なお通帳の残高が増え続けている状態を作ることです。
3つの失敗パターンを振り返ると、①制度節税を知らずに機会損失、②経費節税で浪費してお金を失う、③テクニック節税を安易に真似て追徴課税、いずれも「節税知識のベース」がなかったことが根本原因です。節税策の効果とリスクを正しく評価し、自分の意志で判断できるようになることが、節税で勝つための第一歩になります。


