薄利の会社ほど値上げに強い|客離れの不安を数字で乗り越える

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値上げで一番怖いのは「お客様が離れること」

原材料費も人件費も上がり続け、今の価格では利益が出にくい。多くの社長がそれを分かっていながら、値上げに踏み切れません。理由ははっきりしています。価格を上げたら、お客様が離れて売れなくなるのではないか。この不安です。

長年通ってくれたお客様が、値上げをきっかけに競合へ流れてしまう。せっかく築いた売上が崩れてしまう。この心配があるからこそ、多くの中小企業が薄利のまま耐えています。しかし、薄利のまま売上だけを追いかける状態は、いくら売っても会社にお金が残らない原因になります。入ってきた利益が抜けていく「穴の開いたバケツ」に水を注ぎ足しているようなものだからです。

この記事では、「値上げで売れなくなる」という不安を数字で検証し、お客様を極力離さずに値上げを進める方法、そして増えた利益を会社に残す税制の使い方までをお伝えします。

「お客様の何割が離れたら損か」を計算してみる

不安の正体は、漠然と「売れなくなりそう」と感じている点にあります。そこで、値上げをしてもお客様がどれだけ離れなければ利益を守れるのか、具体的に計算してみます。

たとえば、ある商品を1個100円で売っていて、仕入や材料などの原価が70円だとします。1個あたりの利益(粗利)は30円です。この商品を3%値上げして103円にすると、原価は70円のままなので、1個あたりの粗利は33円に増えます。

ここがポイントです。値上げ前と同じ粗利の合計を確保するために必要な販売数量は、値上げ前のおよそ91%で足ります。言い換えると、3%の値上げをして、販売数量が9%減ってしまっても、会社に残る利益は変わらないということです。実際に値上げで1割近くも数量が落ちるケースはそう多くありません。多少離れる方がいても、トータルの利益は増えるのが普通です。

さらに知っておきたいのは、利益率が低い会社ほど、この「許容できる数量の減り幅」は大きくなるという点です。たとえば1個100円で原価が80円、粗利が20円という薄利の商品なら、3%値上げして103円にすると粗利は23円になります。同じ粗利合計を確保するのに必要な数量はおよそ87%で済むため、販売数量が13%減っても利益は変わりません。原価率が高く粗利の薄い商売ほど、わずかな値上げが効き、客離れにも強いのです。薄利で頑張ってきた会社こそ、値上げの効果が大きいと言えます。「値上げ=売上が崩れる」という思い込みは、一度ご自身の数字で確かめてみる価値があります。

数量が減ると、コストと時間も浮いてくる

値上げで数量が多少減ることには、見落とされがちな良い面もあります。売る数が減れば、その販売に伴っていたコストや手間も一緒に減るからです。

たとえば、梱包資材や配送費、決済手数料といった、売るたびにかかっていた変動費は数量に比例して下がります。それだけではありません。受注対応、問い合わせ、クレーム処理、納品といった現場の作業にかけていた人の時間も軽くなります。同じ利益を、より少ない労力で生み出せるようになるということです。

ここで生まれた余力こそ、成長への原資になります。これまで日々の対応に追われて手が回らなかった、新商品の開発、既存のお客様へのフォロー、新しい販路の開拓、人材の採用や教育。浮いたコストと時間を、こうした成長投資に振り向けられます。薄利多売で現場が疲弊する状態から、少ない数でしっかり利益を生み、その余力を次の一手に使う経営へと切り替えていく。値上げは、その入口になります。

お客様を離さずに値上げを進める進め方

とはいえ、何の工夫もなく一律に値上げをすれば、不要な反発を招くこともあります。お客様との関係を保ちながら価格を上げるには、いくつかの順序があります。

いきなり全部を上げない

すべての商品を同時に上げる必要はありません。まずは値上げの影響が出にくい主力商品や、価格にこだわりの少ない商品から始めると、反応を見ながら進められます。お客様の反応を確かめながら段階的に動くほうが、安全です。

価格ではなく価値を伝える

値上げの際に「なぜ上げるのか」「上げた分どんな価値があるのか」を丁寧に伝えると、納得は得られやすくなります。サービスの質、対応の速さ、品質へのこだわり。価格だけで選ばれていないお客様は簡単には離れません。

離れにくいお客様との関係を太くする

新規のお客様を追い続けるより、すでに自社を選んでくれているお客様に繰り返し買っていただくほうが、売上は安定します。客数と客単価とリピートを別々ではなく一体で設計し、値上げと同時にリピートの仕組みを整えることが、売れなくなる不安への最も確実な答えになります。

増えた利益を守り、客離れも防ぐ好循環

値上げで利益が出たら、次はその利益を会社の安定につなげる段階です。ここで役立つのが、賃上げ促進税制です。

青色申告書を提出する中小企業者等が、従業員へ支払う給与等の支給額を前年度より一定割合増やした場合、その増加額の一部を法人税額から直接差し引けます。中小企業向けの場合、給与等の支給増加割合が1.5%以上であれば増加額の15%を、2.5%以上であれば増加額の30%を控除できます。加えて、子育て支援や女性活躍に関する一定の認定があれば、さらに上乗せされます(根拠:租税特別措置法第42条の12の5第2項)。ただし控除額は、その事業年度の調整前法人税額の20%が上限です。

値上げで生まれた利益の一部を従業員の賃上げに回せば、税額控除を受けられるうえに、人材が定着し、サービスの質が上がります。質が上がればお客様は離れにくくなり、リピートによる安定した売上が積み上がっていきます。値上げ、賃上げ、税制優遇、そして売上の安定が、ひとつの好循環としてつながるのです。客離れへの不安を、攻めの一手に変えていく流れだと言えます。

賃上げをするときの注意点

賃上げ促進税制は利益を守る有効な制度ですが、使うときに一つ気をつけたい点があります。税額控除はその年度限りの効果である一方、賃上げによる人件費の増加は翌期以降もずっと続くという点です。

税額控除は、賃上げをした事業年度の法人税から差し引かれる、いわば一度きりの恩恵です。しかも翌年もこの控除を受けるには、さらに前年を上回る賃上げが必要になります。過去に上げた給与の負担は控除の対象から外れ、コストだけが毎期積み上がっていくのです。一度上げた給与は、簡単には下げられません。

ですから、「控除が受けられるから」という理由だけで無理な賃上げに踏み切るのは危険です。控除という追い風が吹くのはその年だけで、翌期以降は、値上げで増やした利益などでその人件費を継続的に賄えるかどうかが問われます。賃上げは、税制のメリットを動機にするのではなく、値上げで確保した利益の範囲で、無理なく続けられる水準に設定することが大切です。

まとめ:値上げの不安は、数字と設計で乗り越えられる

値上げで売れなくなるという不安は、誰もが感じるものです。しかし数字で確かめると、お客様が多少離れても利益はむしろ増えるケースがほとんどです。いきなり全部を上げず、価値を伝え、リピートの仕組みを整えれば、客離れは十分に抑えられます。

むしろ、数量が減って浮いたコストと時間は、新商品の開発や採用といった成長投資に回せます。そして増えた利益を賃上げに回せば税額控除を受けられ、人材の定着を通じてさらに売上が安定していきます。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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