広告費はかけているのにお金が残らない社長へ|見えない資産の話

「広告費はかけているのに、なぜかお金が残らない」その正体
新規のお客様を集めるために、広告にもチラシにもしっかりお金をかけている。それなのに、決算を迎えて通帳を見ると、思ったほど残高が増えていない。多くの社長が、この感覚に心当たりをお持ちではないでしょうか。
その原因の多くは、売り方の上手・下手ではありません。お金を入れても入れても水が漏れ続ける「穴の開いたバケツ」のように、一度ご縁のあったお客様との関係が、その場限りで途切れてしまっていることにあります。せっかくコストをかけて獲得したお客様の情報、つまり顧客リストを、ただの名簿として眠らせてしまっているのです。
この記事では、財務諸表には決して載らない「見えない資産」である顧客リストを、繰り返しの売上と確かな手残りに変えていく考え方を、税務とあわせてお伝えします。
顧客リストは、なぜ決算書に「資産」として載らないのか
「うちには長年かけて築いた優良なお客様のリストがある。これは立派な財産のはずだ」。その実感は、経営的にはまったく正しいものです。ところが会計と税務の世界では、自社で築き上げた顧客リストは、原則として貸借対照表に資産として計上されません。
少しだけ専門的な話をします。税務上、価値を生み続ける無形の財産は「営業権」などの無形固定資産として扱われ、時の経過に応じて費用化(減価償却)していく対象とされています。減価償却資産となる無形固定資産の一つとして、はっきりと「営業権」が掲げられています。
ところが、ここに大切な落とし穴があります。決算書に資産として載るのは、あくまで「お金を払って外部から買ってきた」場合だけです。自社が日々の営業活動の積み重ねで自然に築いた顧客リストには、明確な「取得価額」がありません。だからこそ、どれほど価値があっても帳簿には一円も計上されず、文字どおりの「見えない資産」になってしまうのです。
身近な例で考えてみましょう。長年通っている美容室や、いつも頼んでいる工務店を思い浮かべてください。あなたがそのお店を選び続けているのは、看板や設備が立派だからではなく、これまでの積み重ねで生まれた信頼や関係があるからのはずです。会社にとっての顧客リストも、まさにこれと同じです。帳簿の数字には一円も表れませんが、繰り返し買っていただける関係こそが、何より価値のある財産なのです。
つまり、あなたの会社の本当の値打ちは、決算書の数字には表れていないかもしれない、ということです。ここに気づけるかどうかが、最初の分かれ道になります。そして、見えないからこそ意識して育てなければ、いつの間にか痩せ細っていくのも、この資産の特徴だといえます。
リストを育てる費用は、その年の経費にできる
では、その見えない資産を太らせていく費用は、税務上どう扱われるのでしょうか。
お客様を集め、つながりを保つためにかける広告宣伝費や販売促進費は、原則としてその年の経費(損金)になります。法人税法は、その事業年度の「販売費、一般管理費その他の費用」を損金に算入すると定めています。支払いが済んでいなくても、その年の終わりまでに支払う義務が確定していれば経費にできる、いわゆる債務確定基準を採っています。
一方で、すべてが即座に経費になるわけではありません。新しい市場を切り開くために特別に支出した費用などは「繰延資産(開発費)」として、複数年に分けて費用化する扱いになる場合があります。日常的・継続的な広告費はその年の経費、新市場開拓のための一時的で大きな支出は繰延資産になりうる、と整理しておくと迷いません。
「客数×客単価×リピート」で手残りが変わる
顧客リストが効いてくるのは、売上を「客数×客単価×リピート」という三つのかけ算で見たときです。多くの会社は、いちばん左の「客数」を増やすことだけに広告費を投じます。けれども新規獲得は、最もお金と手間のかかる入り口です。
顧客リストは、この式のいちばん右、「リピート」を担う資産です。一度ご縁のあったお客様にもう一度買っていただく。そのための再案内一通には、新規広告のような大きなコストはかかりません。同じ売上でも、新規でつくるのか、既存のお客様でつくるのかによって、手元に残るお金はまるで違ってくるのです。
試算例:同じ「売上1,000万円増」でも手残りはこれだけ違う
年商1億円、利益1,000万円の会社を例に、売上を1割(1,000万円)伸ばす二つの道を比べてみます。
1つ目は、すべて新規で獲得する道です。新規のお客様を一人迎えるための広告費を仮に売上の2割と置くと、1,000万円の売上に対して約200万円の広告費がかかります。粗利率が3割なら、増えた粗利300万円から広告費200万円が出ていき、手元に残るのは100万円ほどです。
2つ目は、眠っている既存のお客様に再案内を送る道です。手元のリストへのメール送信や同封チラシなら、追加コストはせいぜい数万円程度に収まります。同じ1,000万円の売上から生まれる粗利300万円が、ほぼそのまま手残りに近づきます。同じ売上を立てても、残るお金は二倍、三倍と差がつくのです。
もちろん新規獲得は会社の成長に欠かせません。お伝えしたいのは、新規だけに頼る発想から抜け出し、すでに手元にあるリストという資産を回収の軸に据えることで売上の質が変わるということです。これが、バケツの穴を塞ぐということの実体になります。
広告費は「経費」ではなく「投資」として見る
もう一つ、手残りを増やす社長が必ず持っている視点があります。それが、お客様一人がお取引の生涯を通じてもたらしてくれる利益、いわゆる顧客生涯価値(LTV)です。たとえば一度きりで5万円のお取引で終わるお客様と、年に二回、5年にわたって買い続けてくださるお客様とでは、同じ一人でも会社にもたらす利益はまるで違います。
LTVで考えると、最初の獲得広告費が一見高く見えても、その後のリピートまで含めれば十分に回収できる、という判断ができるようになります。逆に、買っていただいて終わりの関係しか設計していなければ、どれだけ広告を打っても採算は合いません。広告費を単なる「出ていく経費」ではなく、リストという資産を育てる「投資」として捉え直す。この一点が、お金の残る会社とそうでない会社を分けています。
見えない資産を守るための注意点
顧客リストを活かすうえで、忘れてはならない点が二つあります。
1つ目は、顧客情報は個人情報保護法の管理義務がともなう「お預かりもの」だということです。利用目的の範囲を超えた使い方や、ずさんな保管は、信用そのものを失わせます。資産だからこそ、丁寧に守る姿勢が欠かせません。
2つ目は、節税を目的に広告費をいたずらに膨らませないことです。経費が増えれば確かに税金は減ります。しかし、戻ってくるのは支払った額×税率分だけで、使ったお金の大半は出ていきます。大切なのは、その支出がリピート売上という果実を生むかどうかという視点です。
当事務所が大切にしているゴールは、必要な税金をきちんと納めたうえで、なお通帳の残高が増え続けている状態をつくることです。顧客リストへの投資は、まさにこの考え方に沿った「攻めの一手」になります。
まとめ:名簿を「育てる資産」に変える
顧客リストは、決算書に載らないからこそ見落とされがちですが、リピート売上を生み出す源泉であり、あなたの会社の真の値打ちそのものです。育てるための費用は、その年の経費として手残りを守りながら投じることができます。
まずは、眠っているお客様のリストを一度棚卸しすることから始めてみませんか。その一歩が、お金の残る会社への転換点になります。自社のケースでは数字がどう変わるのか、一度シミュレーションしてみてください。


