「金利のある世界」の資金繰り術。借入を減らすより先にやるべき3つのこと

はじめに:借入の利息が重くなってきた
日本銀行は2026年6月に政策金利を年1.00%へ引き上げました。銀行の貸出金利の目安となる短期プライムレートも段階的に上がっており、変動金利で借入をしている会社には、返済額の増額を知らせる通知が届き始めています。長く続いた「金利がないに等しい世界」は終わり、借入にはっきりとコストがかかる時代になりました。
こうした局面で社長からよく聞くのが、「手元にお金が貯まってきたので、繰上返済で借入を減らしたい」という相談です。利息がもったいないという感覚は自然なものです。しかし、手元資金を返済に回すのが常に正解とは限りません。
この記事では、借入と税金の基本構造を整理したうえで、繰上返済を考える前に確認したい3つのことを、税理士の立場から解説します。
制度解説:借入と税金の基本構造
支払利息は損金になる
銀行に支払う利息は、事業のための費用として損金に算入されます。損金になるということは、その分だけ法人税等の課税所得が減るということです。
ここから、借入の金利は「税引後」で考えるという視点が出てきます。たとえば金利2%で借りている会社の実効税率を25%と仮定すると、利息100万円を払えば税金が25万円軽くなるため、実質的な負担は75万円です。つまり、表面上の金利2%は、実質では1.5%程度の負担ということになります。金利が上がったとはいえ、損金効果まで含めた実質負担で見れば、借入は依然としてコストの低い資金調達手段です。
元本の返済は損金にならない
一方で、借入元本の返済は損金になりません。元本の返済は費用ではなく、借りたお金を返すだけの取引だからです。元本は、法人税を払った後の利益から返すしかありません。利益600万円の会社が元本700万円を返済すれば、黒字なのに手元現金が減っていく。この構造が、いわゆる黒字倒産の一因となります。
この2つを並べると、借入との付き合い方が見えてきます。利息は損金効果で実質負担が軽くなる一方、元本返済は税引後の利益を直接削ります。だからこそ、繰上返済という「元本を一気に減らす行動」は、手元資金への影響をよく確かめてから判断する必要があるのです。
借入を減らすより先にやるべき3つのこと
1つ目:手元の現預金の厚みを確認する
最初に確認したいのは、繰上返済をした後に残る現預金の水準です。
実務的な目安として、現預金は月商の2〜3か月分を確保しておきたいところです。1か月分を下回ると、大口の入金遅れや突発的な支出が資金ショートに直結する危険水域といえます。
繰上返済の難しさは、一度返したお金は簡単には戻ってこないという点にあります。金利上昇局面では、必要になったときに同じ条件で借り直せる保証はありません。
手元資金は、売上の変動や値上げ交渉の遅れといった不確実性から会社を守る備えです。返済で利息を減らす効果と、備えが薄くなるリスクを、必ず両方比べてください。
2つ目:借入を棚卸しして「実質金利」で並べる
次にやるべきは、借入の棚卸しです。
複数の借入がある会社は、契約ごとに残高、金利、固定か変動か、残りの返済期間を一覧にしてみてください。この一覧を、先ほどの損金効果込みの実質金利で並べ替えると、対応すべき優先順位が見えてきます。
優先して手を打つべきは、実質金利の高い借入です。具体的には、より低い金利への借換えや、金融機関への条件交渉の余地を検討します。変動金利の借入が大半を占めるなら、今後の利上げでどこまで返済額が増えるかを試算し、一部を固定金利へ切り替えることも選択肢になります。全部をまとめて「借金」と捉えるのではなく、契約ごとに性質を見分けることが、金利上昇への具体的な対策になります。
3つ目:手元資金の使い道を比較する
3つ目は、そのお金を返済以外に使ったら何を生むか、という比較です。
繰上返済で得られるリターンは、将来払うはずだった利息の節約分です。金利2%の借入を500万円返せば、浮く利息は年10万円。利息が減れば損金も減るため、税引後で見た改善効果は年7.5万円程度にとどまります。
たとえば同じ500万円を、売上を安定させる仕組みに投資したらどうでしょうか。既存客への定期的な接点づくりや、リピートを促す仕組みへの投資は、うまく機能すれば年7.5万円をはるかに超える粗利を生みます。支払利息を上回る利益を生む使い道が社内にあるうちは、返済を急ぐ必要はありません。逆に、有効な投資先が見当たらず、現預金にも十分な余裕があるなら、繰上返済は堅実な選択です。
試算例:繰上返済500万円と手元温存の比較
数字で比べてみます。前提は、借入残高3,000万円、金利2%(変動)、実効税率25%の会社が、手元資金500万円の使い道を検討しているケースです。
繰上返済を選んだ場合、支払利息は年10万円減ります。損金が10万円減って税負担が2.5万円増えるため、手元に残るお金の改善は年7.5万円です。あわせて、現預金が500万円減り、資金繰りの余裕はその分薄くなります。
手元温存を選び、そのうち100万円を既存客のリピート強化(顧客管理の仕組みづくりや定期的な情報発信など)に充てた場合はどうでしょうか。
仮にこの投資が年60万円の粗利増につながれば、税引後でも年45万円の改善です。残りの400万円は備えとして手元に残ります。利息の節約7.5万円と比べれば、どちらが会社を強くするかは明らかです。もちろん投資の効果は確実ではなく、この60万円は仮定の数字です。
それでも、「返済のリターンは利息の節約分だけ」という事実を知ったうえで比較すれば、判断の質は大きく変わります。
注意点:この判断の前提が変わるとき
1つ目の注意点は、金利水準が変動することです。
本記事の政策金利や貸出金利の水準は2026年7月執筆時点の情報にもとづく目安であり、今後さらに利上げが進めば、実質金利の計算も繰上返済の効果も変わります。判断のたびに、その時点の自社の借入条件で試算し直してください。
2つ目は、借入依存の放置は別問題だということです。
この記事は「返さなくてよい」という話ではありません。毎年の返済原資(税引後利益と減価償却費の合計)を返済額が上回り続けているなら、借入の構造自体を見直す必要があります。
3つ目として、無借金経営を目指すこと自体を否定するものでもありません。
借金がない安心感は社長の心理面で大きな価値がありますし、財務体質の強化にもなります。
大切なのは、その選択を「利息がもったいないから」という感覚ではなく、手元資金の厚みと使い道の比較にもとづいて行うことです。
まとめ:返済の前に、お金の置き場所を設計する
金利のある世界では、借入との付き合い方が会社の手残りを左右します。支払利息は損金になるため実質負担は表面金利より軽く、元本返済は税引後の利益からしか行えない。この構造を踏まえると、繰上返済の前に、手元の現預金の厚みを確認し、借入を実質金利で棚卸しし、そのお金が生み出せる利益と比較する、という3つの手順が欠かせません。
利息の節約は確実ですが小さく、売上の仕組みへの投資は不確実ですが大きい。この2つのバランスをどう取るかは、会社の資金繰りの状況と、投資先の有無によって変わります。


