
安売りの落とし穴と『価値ある価格』の設計〜価格戦略と節税の深い関係
中小企業がついやってしまいがちな「安売り」。
売上アップを狙った戦略のはずが、逆に会社を苦しめているかもしれません。今回は、『安売りの落とし穴』と、手元にお金を残すための『価値ある価格戦略』について、税理士の視点からお伝えします。
なぜ中小企業は「安く売る」方向に走ってしまうのか?
「お客様が来ないのは、価格が高いからだ」「値下げすれば売れるはず」——そう考えるのは自然な流れかもしれません。ですが、安売りはまさに諸刃の剣。薄利多売は体力勝負。大企業のように資本力がない中小企業がこの道を選ぶと、体力を消耗し続けるだけになりかねません。
特に注意したいのが「価格競争に巻き込まれる」という状態。他社と同じ土俵で戦ってしまうと、どこかで無理が生じます。売上が上がっても、利益が削られ、結局お金が残らないというジレンマに陥ります。
「安売り」と「値下げ」は違う
一見同じように見える「安売り」と「値下げ」ですが、本質的には違います。
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安売り:理由が説明できないまま価格を下げる。利益率は著しく悪化。
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値下げ:明確な理由があり、納得感をもって実施する。たとえば、大量仕入れによるコストダウンや、季節商品の在庫処分など。
お客様に「納得感」のある価格を提示できれば、値下げでも信頼を得ることが可能です。逆に、理由のない安売りはブランド価値を下げ、結果として価格ではなく「安さ」だけを求める顧客ばかりを集めてしまいます。
「高いのに売れる」商品設計とは?
価格は価値の裏付けがあって初めて成立します。では、「高くても売れる」商品とはどんなものか?答えはシンプルです。
モノ+サービス=体験という形にすることです。
たとえば、以下のような施策が考えられます:
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飲食店:料理+演出(記念日プランなど)
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アパレル:スーツ+パーソナルスタイリング
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士業:手続き+相談+継続的なフォロー
価格が高いほど、サービスの質や満足度が重要になります。つまり、「単なる商品販売」ではなく、「お客様が得られる未来」までパッケージングして提案する必要があるのです。
利益率と節税の密接な関係
価格を上げることに成功すれば、当然ながら粗利率も上がります。そしてこの「粗利」がしっかり確保できることで、初めて効果的な節税策が実行できるようになります。
利益が出なければ節税のしようがありません。だからこそ、まずは価格戦略の見直しが最優先。特に粗利率が高い商品に経営資源を集中させることで、利益とキャッシュが確実に残るようになります。
その上で行う節税策——たとえば、小規模企業共済や中小企業倒産防止共済、役員退職金の積立などは、どれも「利益が出ているからこそ活きる」戦略です。
「松竹梅の法則」と価格の選択肢
人は3つの選択肢があると、真ん中を選びやすいという心理があります。これをうまく利用したのが「松竹梅の法則」。
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梅:最低限の商品(価格は安め)
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竹:標準的な商品(中価格帯)
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松:高付加価値商品(高価格帯)
この構造を作ることで、「どうせなら良いものを」という心理が働き、結果的に高利益商品(松)が売れやすくなります。
今日からできる「価値ある価格戦略」のアクション
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現在の主力商品の粗利率を再確認する
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顧客が求めている「体験」や「未来」を可視化する
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サービスをパッケージ化して単価を上げる
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価格帯に幅を持たせて「松竹梅」の選択肢を用意する
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値下げではなく、「価値アップ」で勝負する
まとめ:価格戦略は利益と節税の根幹
価格設定は、単なる数字合わせではありません。それは、「誰に何をどう届けるか」という事業の根幹そのものです。
安さで勝負するのではなく、「価値」で選ばれる会社になること。利益が出れば、節税の余地も広がり、経営の自由度は確実に高まります。
まずは、自社の商品やサービスが「なぜこの価格なのか?」を見直してみてください。きっと、そこに価格以上の価値を提供するヒントが眠っているはずです。