
お金が残らない原因は、「売上の質」にある
私のところに相談に来る多くの経営者様が、こう言います。
「売上は増えてきているのに、なぜか銀行口座が寂しい」
この状態の原因の多くは、「集客のためにかかっている見えにくいコスト」です。
新規集客のための広告、キャンペーン、SNS運用、イベント、割引券、フライヤーなど……。一つ一つは小さな金額でも、積み重なれば相当な支出です。
そして、そうやって来てもらった新規のお客様が、二度と戻ってこない。これでは、かけた費用を回収する前に終わってしまいます。
つまり、売上が増えているように見えても、それは“水が漏れているバケツ”のようなもの。せっかく注いでも、底から流れ出てしまう。そんな状態になっているのです。
「また来たくなるお客様」こそ最大の味方
このような状態を脱するには「安売りをやめて、記憶に残る店になること」が大切です。見方を変えれば、「本当に価値を感じてくれるお客様と関係を築く」ことです。
なぜならリピーターが増えれば増えるほど、売上の“質”が良くなり、資金繰りが安定するからです。
1. 広告費や販促費を減らせる
新規のお客様を1人呼び込むのに、どれくらいのお金と時間がかかっているか、把握していますか?
例えば、チラシを5,000枚まいても、来店は数人程度というケースも珍しくありません。来店しても、次は来ない。これでは費用対効果が合いません。
一方で、リピーターは“ゼロ円”でまた来てくれる存在です。追加コストなしに、何度も売上をつくってくれる。これは事業として非常に効率が良く、資金繰りの観点でも非常に助かります。
2. 売上の読みやすさ=資金の読みやすさ
リピーターの数が増えると、来店頻度や購入金額がある程度予測できるようになります。これは、経営計画や資金計画を立てる上で非常に重要です。
税理士として資金繰り表を作るときにも、「来月どのくらい売れるか」「仕入れはどのくらいかかるか」「いつ入金されるか」が見えている企業は、財務が強くなります。
リピーターが支えてくれる安定的な売上は、銀行とのやり取りでも安心材料になります。安定して売上がある企業には、金融機関も協力的になります。
3. 利益率が下がらない商売ができる
安さだけをウリにしているお店は、少しでも安い競合が出てきた瞬間にお客様を奪われます。その結果、さらに価格を下げ、利益を削る悪循環に陥ってしまいます。
でも、ある特徴や物語で選ばれているお店は違います。お客様は「価格」ではなく、「価値」や「体験」でその店を選びます。
こういった「忘れられないお店」になることで、利益をきちんと確保できるようになります。結果として、税引き後の利益も増え、現金残高も積み上がります。
「記憶に残る店づくり」が、資金繰り改善の第一歩
リピーターを増やすには、自分たちのお店が「どんな人に、どんな価値を届ける店なのか」を明確にすることが不可欠です。
情報過多の現代社会において「記憶に残る特徴を持つ店」になることが鍵です。
例えば、
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魚にこだわった和食店なら「一匹まるごと焼く魚定食の店」
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日本酒専門の居酒屋なら「県外銘柄は一切出さない地元酒オンリーの店」
こうした特徴は、記憶に残りやすく、「あの店、また行きたいな」と思わせる力を持っています。
この記憶こそが、再来店という形でキャッシュフローを生む種になります。
銀行は「人気店」ではなく「持続可能な店」を応援する
資金調達の相談を受けるとき、経営者がよく言うのは「最近、お客様も増えて評判が良くて……」という内容です。
もちろんそれも大事ですが、金融機関が見ているのはもっと別の視点です。それは、
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長期的に安定して売上があるか
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利益が出ているか
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無理のない事業計画か
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オーナーが自分の商売を深く理解しているか
こうした“続けられる力”を見ています。
リピーター戦略を持っている店は、この「続けられる力」が強くなります。未来が見える経営は、金融機関にとって“貸したくなる会社”になるのです。
お客様を「絞る」ことが、結果的にお金を生む
リピーターを作るには、「誰に向けて商売しているか」を明確にする必要があります。
万人に受け入れられるような商売は、記憶にも残りにくく、差別化もしにくいものです。
むしろ、「好きな人だけに来てほしい」「この価値をわかる人だけに提供する」というお店の方が、ファンがつきやすくなります。
この“絞る勇気”が、実は最も効果的な資金繰り改善策の一つなのです。
リピーターづくりは、最高の資金戦略になる
繰り返しになりますが、「売上=現金残高」ではありません。
売上があっても、集客にかかるコストが高く、利益が圧迫されていれば、キャッシュは残りません。
一方、リピーターを基盤にした売上は、広告費が不要なうえ、安定しやすく、値引きにも頼らないため利益率も高くなります。
資金調達の面でも、「安定した利益」「見通しの立つ経営」は非常に評価されやすい要素です。
今後、設備投資や人材採用、事業拡大を見据える経営者にとって、記憶に残るお店づくりは最強の資金戦略となるのです。
まとめ:お金が残る商売には、「熱量と覚悟」がある
資金繰りに悩んでいる企業の多くは、売上そのものよりも、「売上の質」が問題になっているケースが多くあります。
リピーター戦略は、広告費や割引に頼らない、高効率な商売を可能にします。それは、ただのテクニックではなく、「何のためにこの商売をしているのか」「誰のために価値を提供したいのか」という、事業の根幹と深く関わっています。
理念とストーリーがある商売には、人が集まり、お金も残ります。そんな商売には、支援者も、ファンも、銀行も自然と集まってきます。