
「売上を減らす勇気」が節税とキャッシュ改善の第一歩?
──手元にお金が残らない中小企業が見直すべき“逆転の経営戦略”
「売上が伸びているのに、なぜかお金が残らない」
このような声を経営者から聞くことがよくあります。
決算書上は順調に見える。営業も頑張っている。顧客も増えている。
それなのに、通帳を見て不安になる。「あれ?こんなに頑張ってるのに、なぜ現金がないんだろうか?」
この疑問に対する答えは、意外と単純です。
「売上=利益」ではないし、
「利益=現金」でもないからです。
むしろ多くの場合、「売上を追いかけるほど、会社にお金が残らなくなる」という現象すら起きています。
本記事では、この矛盾の正体を明らかにし、節税とキャッシュフローの観点から“売上ダウンのすすめ”を解説していきます。
売上を上げても会社が苦しくなる理由
まず、「売上を増やすと会社が強くなる」という固定観念を一度捨ててみましょう。
なぜなら、売上が増えれば増えるほど、次のような問題が連鎖的に起こるからです。
① コストが比例して増える
新規顧客を獲得するには、必ず費用がかかります。広告、営業、人件費、キャンペーン、割引…
多くの中小企業では、新規獲得のために利益以上のコストをかけてしまっています。つまり「売れば売るほど赤字」になっているのです。
② 売掛金の回収が遅れる
法人営業やBtoB取引では、納品から入金まで1ヶ月〜3ヶ月かかることが一般的です。売上は立っても現金は入ってこない。
にもかかわらず、仕入や人件費、家賃、税金は先に払わなければなりません。これが資金ショートの大きな原因です。
③ 在庫と無駄が積み上がる
売上を追えば、商品も人員も在庫も増やす必要が出てきます。でも、それが過剰になれば、無駄な支出になり、資金を圧迫します。
利益を生まない売上にこそ注意せよ
数字としての売上が増えていても、それが「利益」と「現金」に結びついていなければ意味がありません。
むしろ、税金だけが増えて、会社は疲弊していくという最悪のルートに入ってしまいます。
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決算で黒字が出たから法人税が上がる
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消費税の納税額も増える
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節税のために無理な投資をして、ますます現金がなくなる
売上の拡大戦略は、計画的にやらなければ会社を食い潰す「毒」にもなりうるのです。
「売上ダウン」は怖くない。むしろ戦略的に使え。
ここでご提案したいのが、「売上を意図的に減らす」という逆転の発想です。
これは、無理をして売りまくらず、会社にとって本当に価値あるお客様に集中するという経営戦略です。
◆ 顧客を選ぶ=コストを減らす
「なんでも売ります」「誰でも歓迎です」というスタイルでは、どうしても広く浅いビジネスになります。
そうではなく、「自社の商品・サービスを理解してくれ、リピートしてくれるお客様」に絞っていくことで、営業効率が劇的に向上します。
→ 広告費、無理な納期対応、人員コスト、クレーム対応…
これらが減り、利益率が上がります。
◆ 常連顧客は節税にもつながる
顧客が固定化されると、売上の予測が立てやすくなります。これは、節税対策を組みやすくなるという大きなメリットを生みます。
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決算前に利益の着地をコントロールしやすい
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設備投資や経費のタイミングを計画的にできる
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無理な節税支出を減らし、キャッシュを残せる
これは実際に、顧客が安定している会社ほど、節税プランの幅が広くなるという事実からも裏付けられています。
「頑張ってるのに現金がない」会社の共通点
税理士として見ていて強く感じるのは、手元資金が残らない企業の共通点です。具体的には:
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利益率の低い新規取引を追い続けている
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売掛金の回収が遅く、資金が詰まっている
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節税のための支出が過剰で、投資が雑になっている
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現場が常に疲弊しており、人材が定着しない
これらはすべて、「売上を上げるための無理な拡大」から生じています。
売上を「絞る」ことでお金が残る体質へ
経営の目的は「売上を上げること」ではなく、「利益を残すこと」「お金を残すこと」です。
そのためには、以下のような視点の転換が必要です。
従来の発想 | これからの発想 |
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売上を伸ばす | 利益率を高める |
新規顧客を追いかける | 常連顧客に集中する |
広告で集客 | 口コミ・紹介で自然に増やす |
見た目の黒字を作る | 手元現金を最大化する |
このように、売上至上主義から脱却し、「絞り込む」「減らす」ことで、会社にとっての余裕と選択肢が生まれます。
税務戦略としての「売上コントロール」
最後に、税理士としてお伝えしたい重要な視点があります。
「売上を管理する=税金をコントロールする」
これは非常に大切な考え方です。なぜなら、売上が突発的に伸びると、それに連動して税負担が重くなり、事後対応が困難になるからです。
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法人税の増加
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消費税の増加
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利益が急上昇し、節税策が間に合わない
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資金繰りの計画が狂う
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役員報酬の設計も調整しにくくなる
こうした混乱を防ぐためにも、「売上を絞って安定させる」という判断は、極めて戦略的な節税アプローチといえます。
経営とは、「引く勇気」で未来を守ること
目先の売上、競合との数字競争、銀行や取引先の目…。
多くの経営者が、無意識に「売上を上げなければいけない」と感じているのが現実です。
しかし、本当に大切なのはそこではありません。
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誰のために、何を提供し、どう利益を残すか
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どうやって社員や家族、自分自身を守るか
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次の投資や事業承継に向けて、お金をどう残すか
これらの本質に立ち返ることで、経営はより「強く」「しなやかに」なります。
まとめ:売上に振り回されず、キャッシュを残す経営へ
・売上を減らすことは、失敗ではない
・むしろ、利益と現金を増やすための戦略的な一手である
・無駄を削り、常連を大切にし、節税の幅を広げる
・そうすることで、手元にお金が残り、次の手が打てる会社になる
中小企業が本当に強くなるために必要なのは、「引き算の経営」です。
その最初の一歩として、あえて「売上を下げる勇気」を持ってみてください。
それは、決して後退ではなく、未来の成長と安定への布石になります。