
節税だけでは危ない?税理士が教える「融資に強くなる財務改善術」
皆様の中には「とにかく節税ができれば会社経営は安泰」とお考えの方も多いのではないでしょうか。しかし、実は節税対策が裏目に出て、融資が受けにくくなるというケースが頻発しています。
本記事では、節税と財務改善のバランスを取りながら、融資を受けやすい企業体質を作るための具体的なノウハウを、銀行の目線や実際の会計のポイントも交えながら分かりやすく解説していきます。
節税に潜む落とし穴:「利益を出さない会社」が本当に評価されるのか?
法人税の支払いを少しでも抑えたい。誰もがそう思うのは当然です。実際、税理士に相談される多くの経営者も「どうすれば納税額を減らせるか?」という質問をされます。
しかし、注意が必要なのは、「節税」と「赤字化」は全く違うということです。
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保険の全損商品で無理やり利益を消す
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少額の資産を無計画に購入し、帳簿上の利益を減らす
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実態にそぐわない交際費や福利厚生費を過剰に計上する
こうした「帳簿上の利益を削る」節税は、確かに税金は減るかもしれませんが、銀行の評価が著しく下がるリスクを抱えています。特に、資金調達を必要とする局面では「この会社は本当に返済能力があるのか?」と疑問視されてしまい、融資が通らない、または条件が悪くなるという事態に直面します。
銀行は「利益よりもお金」を見ている
企業は黒字でも倒産することがあります。では、なぜ倒産するのか?答えは簡単です。「手元資金が尽きたから」です。
実際、銀行の融資担当者が最初にチェックするのは以下の4点です。
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預金残高が月商の何か月分あるか(理想は3か月)
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債務超過でないか
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税金の未納がないか
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直近2期連続赤字ではないか
つまり、見た目の利益だけではなく、キャッシュの流れや安定性を重視しているということです。節税のために、過剰な経費を使い、利益を減らして預金残高まで減らしてしまうと、「財務的に弱い会社」と判断されてしまいます。
節税と財務改善は両立できる
ここで、「じゃあ節税はダメなのか?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。大切なのは、節税の方法を選び、財務改善と両立させることです。
たとえば、以下のような節税策は財務にもプラスに働きます。
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小規模企業共済の活用:節税効果を得ながら、将来の資金として積み立て可能
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倒産防止共済(経営セーフティ共済):損金として処理しつつ、万が一の取引先倒産にも備える
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設備投資による投資減税:税制優遇を受けつつ、生産性向上やコスト削減につながる
これらは「一時的にお金が減っても、企業価値が上がる」節税です。単なる帳簿上の利益調整ではなく、将来の成長や安定性につながる使い方であれば、銀行からも高く評価されるのです。
銀行が見ている「決算書の改善ポイント」
銀行が決算書をどう見ているのかを理解することは、節税と財務改善を両立させるための第一歩です。
【貸借対照表】
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現預金残高:月商の3か月分が理想
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純資産(自己資本):マイナスなら要注意
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仮払金・貸付金・役員貸付金:実質的な不良資産と見なされるため、決算前に整理
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減価償却:毎期行っているか。未償却資産が残っていれば評価は下がる
【損益計算書】
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営業利益・経常利益:どちらも黒字が基本
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売上総利益率:製造原価や販管費の分類に注意
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特別損失:退職金、新規事業など、単年度で終わる支出は明確に分けて記載
【勘定科目明細】
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借入金の内訳:銀行ごとの金額、返済予定を明示
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役員・株主借入金:他の長期借入金とは分けて表記
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資産の内容:不動産や保険、棚卸資産など、評価可能なものは説明をつけておく
こうした情報を銀行が「見たい形」で整理しておくことが、融資成功率を高める大きな要因になります。
銀行交渉のポイント:節税の「先」を読ませる
節税が悪いのではありません。問題は、銀行に「将来どうなるか」が伝わらないことです。
そこで有効なのが、以下のようなアピール方法です。
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「今期はあえて赤字にしましたが、来期は黒字化見込みです」と説明する
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新商品開発、営業戦略、人材投資の方向性を数字と一緒に伝える
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資金繰り表を用意し、「資金不足になる時期」と「必要額」を可視化する
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「手元資金を厚くしておきたい」という前向きな理由で融資を申し込む
このように、節税後の利益改善や投資戦略を見せることで、銀行に「将来性」と「返済力」を感じてもらうことができます。
節税の目的は「投資可能なキャッシュを残すこと」
最終的に、節税の目的は「税金を払わないこと」ではなく、キャッシュを有効に活用することです。
そのためには、次のような財務改善のループが必要です。
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利益を確保する
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節税と投資を両立させる
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銀行評価を上げて、好条件で資金調達する
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借りた資金で差別化・効率化投資を行う
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生産性・売上を向上させ、さらに利益を出す
このループが回り始めると、会社の財務体質は格段に良くなります。
リスケや赤字の対応にも「準備がすべて」
とはいえ、事業は常に順風満帆とは限りません。資金繰りが厳しくなった場合には、次のような対応も検討しましょう。
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短期借入を長期に組み直す(リファイナンス)
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支払手形・割引手形を融資に切り替える
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資金が足りないと分かった段階で銀行に早期相談する
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次年度の返済分を事前に借りておく(リスケ前の備え)
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税金や社会保険料の滞納を絶対にしない
ここでも、正直で戦略的な情報開示が信頼につながります。
まとめ:数字に強い経営者こそ、節税も財務改善もうまくいく
節税はあくまで手段です。その先にある資金調達・投資・成長戦略まで見据える視点が必要です。
そのためには、税理士と経営者が一緒に数字を見て、戦略を立てることが欠かせません。節税と同時に、銀行に評価される決算書・財務体質を意識して経営することが、企業の未来を変えていく第一歩です。
「借りやすい会社」「成長できる会社」を目指す皆様にとって、本記事が少しでも参考になれば幸いです。