
飲食店が安売りせずに売上を伸ばす。「リピーター創出」の実践戦略
経済環境が不安定な中でも、売上を安定させ、利益を確保する方法があります。それは、「安売り」ではなく「リピーター」をつくることです。
この記事では、価格競争に巻き込まれず、長く愛される店をつくるための実践的なノウハウを簡潔にご説明します。
なぜ、リピーターが必要なのでしょうか?
リピーターが重要である理由は、明確です。
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集客コストが下がり、利益率が上がる
新規顧客の獲得には、広告費や手間がかかります。一方、リピーターであれば広告を打たずとも来店してくれるため、コストはおよそ1/5で済むと言われています。 -
売上の見通しが立ちやすくなり、経営が安定する
常連客は来店頻度や客単価が安定しているため、売上の予測がしやすくなります。これにより、無駄な仕入れや過剰な宣伝を減らし、攻めの経営も可能になります。 -
従業員の定着率が上がる
常連が多い店では、スタッフとお客様の距離も近くなり、感謝の言葉や親しみのある関係がスタッフのモチベーション向上につながります。働く環境が楽しくなれば、自然と離職率も下がっていきます。
リピーターは「自然にできるもの」ではありません
多くの経営者は、「味に自信があるから常連が増えるだろう」と考えがちです。しかし、現代では情報があふれ、顧客の記憶はすぐに薄れてしまいます。
「記憶に残る店」は、偶然ではなく戦略的に「つくる」ものです。リピーターは4つのタイプに分類されます。
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地理型(通勤や生活動線上の立地による来店)
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属人型(スタッフとの人間関係)
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商品型(特定の商品目的)
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記憶型(何かのきっかけで思い出して来店する)
この中で最も獲得コストが低く、強いファンになりやすいのが「記憶型リピーター」です。
「〇〇と言えばあの店」と顧客の脳内で連想される存在になることで、わざわざ足を運んでもらえるようになります。
顧客の記憶に残す「脳内SEO」という発想
記憶型リピーターを獲得するためには、「脳内SEO」という考え方が重要になります。
これは、検索エンジン対策のSEOのように、顧客の脳内で自店を思い出してもらうための仕組みづくりを指します。
脳内SEOの5つのポイント
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徹底的に絞り込む
店のジャンルや世界観を明確にし、「なんとなくのお店」ではなく、「あのお店」と思ってもらえるようにします。例えば、「海鮮居酒屋」ではなく「イカ好き大将のイカ料理専門店」のようにキャラクターを際立たせることが大切です。 -
売りを明確にし、ぶれない
自店の強みを一つに絞り、それに関係ない要素は徹底的に排除します。例えば、「新鮮な魚」が売りなら、鶏料理などは扱わない方が記憶に残りやすくなります。 -
口コミが生まれるように工夫する
数字や固有名詞を使ったキャッチコピーは記憶に残りやすく、口コミを生みやすいです。たとえば「100種類のスパイスを使ったカレー」「一級イカ焼き士のいる店」などが効果的です。 -
五感に訴える情報を増やす
ショップカード、店内演出、香りや音など、顧客の五感を刺激することで、記憶に残りやすくなります。北海道の居酒屋「はちきょう」の「つっこ飯」の演出は、視覚・聴覚を活用した好例です。 -
伝えるべきは“安さ”ではなく“理念”
「激安」「今だけ」ではなく、店の理念やこだわりを伝えることが、本物のリピーターにつながります。DMやSNSでも、パーソナルなストーリーを届けることで心をつかむことができます。
リピーターを定着させるための実践方法
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自分の好き・嫌いを100個ずつ書き出す
自分が何を大切にし、何を避けたいのかを明確にすることで、店の方向性が定まります。 -
嫌われてもいい店を目指す
全ての人に好かれようとすると、誰の心にも残りません。あえて好みが分かれる店にすることで、濃いファンがつきます。 -
お客様が紹介したくなる店を作る
初来店の7割が紹介によるものと言われています。紹介されやすい「ネタ」や体験を設計することがポイントです。 -
こだわりを「伝わる形」で発信する
ストーリー、メニュー、掲示物などで「なぜこの料理を出しているのか」を伝える工夫をしましょう。 -
お店のストーリーを語る
どんなきっかけで始めた店なのか、どんな思いで営業しているのかといった背景が共感を呼び、熱心な常連を生み出します。
接客にも工夫を
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お客様を名前で呼ぶ
名前を呼ばれることで顧客の意識は強く引かれます。名刺交換などを活用して、自然に名前を覚える工夫をすると効果的です。 -
招かれざる客を遠ざける
すべての顧客を歓迎する必要はありません。会員制や紹介制にすることで、価値観が合うお客様に絞ることができます。 -
目を見て話す
基本ですが、意外と実践されていない接客です。一瞬でも目を合わせることで、信頼感と安心感が生まれます。 -
サービスのしすぎに注意する
過剰なサービスはかえって不快感や警戒心を与えることもあります。お客様が本当に望むものを見極め、適切な距離感を保ちましょう。 -
モノを預かる
ボトルキープやマイ箸の預かりなど、再来店の理由をつくる工夫も有効です。店のコンセプトと絡めれば、記憶型リピーターにもつながります。 -
ポイントカードは通知で使う
ポイントの失効通知は、来店のきっかけになります。期限が近いことを伝えるだけでも再訪率が上がります。 -
クレジットカード決済の導入
手数料はかかりますが、利便性を上げることで来店機会の損失を防げます。明細に店名が残ることで、記憶にも残ります。
最終目標は「応援してくれるリピーター」
究極のリピーターは、ただの常連ではありません。店の価値観に共感し、新たな顧客を連れてきたり、店の改善に意見をくれたり、「店の仲間」になってくれる存在です。
こうした関係を築くには、「どんな商品を売るか」よりも、「なぜこの商売をやっているのか」という理念や思いを伝えることが何より重要です。
たとえば老舗の和菓子店「虎屋」は、100年以上続く理由を、味だけではなく理念の継承に見出しています。表面的な販促ではなく、店の本質を伝えることが、リピーター創出の鍵になるのです。