
法人税法における役員給与・役員退職給与の取扱いまとめ
法人税法では、役員給与および役員退職給与の損金算入について厳格なルールが設けられています。これは、役員報酬が経営判断のもとで自由に決められがちであるため、節税目的での恣意的な支給を抑制するためです。
本記事では、使用人給与との違いを明確にしながら、法人税法上の損金算入の要件や留意点について詳しく整理します。
1. 使用人給与とその損金算入の基本
まず、通常の使用人に対する給与、賞与、残業代は、雇用契約に基づく対価として原則全額が損金に算入されます。ただし、以下の点に注意が必要です。
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過大給与:役員の親族など、特殊関係にある使用人に対して不相当に高額な給与が支払われた場合、その超過分は損金不算入となります。
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決算賞与:未払賞与を損金にするには、「金額の事前通知」「支払期日の遵守」「損金経理」の3要件を満たす必要があります。
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過年度未払残業代:労働基準監督署の是正勧告等により一括支給される未払残業代は、支払った事業年度の損金とされます。
2. 役員給与の取扱い
役員への給与は、職務執行の対価とされる適正範囲内であれば損金算入が可能です。ただし、自由な金額設定による過大な支給を避けるため、次の3つの支給形態に限定して損金算入が認められています。
(1) 定期同額給与
毎月同額が支給される給与。損金算入には以下の改定ルールを守る必要があります。
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通常改定:事業年度開始後3か月以内であれば金額変更可。
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臨時改定:役員の昇格・降格など正当な理由がある場合に限り途中改定可。
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業績悪化改定:経営難による減額も認められます。
定期性が認められない歩合給や、期中に正当な理由なく増額された報酬は損金算入できません。
(2) 事前確定届出給与
税務署にあらかじめ支給予定日・金額を届け出た上で支払う給与。届出通りに支払われなければ、たとえ一部でもその全額が損金不算入となるリスクがあります。
(3) 業績連動給与
主に大企業が対象で、法人の利益指標を基に支給額が決まる給与。中小企業の同族会社には適用されません。
経済的利益の取扱い
低額譲渡や債務免除など、金銭以外の利益も「給与」に該当します。これらも定期同額給与等の要件を満たすことで損金算入が認められます。
3. 役員退職給与の損金算入
役員退職金も、過大でなければ損金に算入できます。一般的には「功績倍率法」(最終月額報酬×勤続年数×功績倍率)によって妥当額が算定されます。以下のポイントが重要です。
在職期間と退職事情の考慮
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業績回復などを理由に、退任後に退職金を追加支給しても、当初の株主総会決議を超える額は原則損金不算入です。
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退職後も会長職などで実質的に経営に関与している場合、形式上退任していても「退職」とは認められず、支給額が損金不算入になる可能性があります。
最終報酬月額の注意点
業績悪化などで直前の給与が減額されている場合、退職金算定にその減額後金額を使うと不適切になる可能性があるため、1年あたり平均額法を使うケースもあります。
4. 執行役員と退職金
執行役員は法律上の役員ではなく原則として従業員と同じ扱いとなりますが、経営上の重要な決定に関わっている場合には「みなし役員」とされ、役員給与としての扱いを受けます。
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退職一時金の取扱い:執行役員就任時に支払われる退職金は、役員に準じた職務や責任がある場合、退職所得として認められる場合があります。
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雇用関係の継続有無が重要であり、形式上退職しても、実質的に勤務が続いていると判断されれば、給与所得として課税されます。
5. 出向者に関する取扱い
出向者の給与および退職給与に関しては、以下のような法人間の費用負担が論点になります。
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出向元法人が支給する較差補填金は損金算入可能。
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出向先法人が出向者に支払う給与の負担金は、出向者が役員に該当する場合「役員給与」としての扱いが必要で、株主総会等での決議や契約に基づく設定が必要です。
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出向期間中に出向先法人が支出する退職給与負担金も、合理的な算出根拠があれば損金算入可能です。
終わりに
法人税法における役員給与や退職給与の扱いは、恣意的な税負担の軽減を防ぐために多くの制限が設けられています。特に中小企業や同族会社においては、経営者の裁量と税務上の取扱いとのバランスを正しく理解し、制度に則った対応を行うことが極めて重要です。
誤った認識で処理をすると、後になって多額の追徴課税を受けるリスクもあります。会計事務所や税理士と連携し、適切な処理を心がけましょう。