「節税できてるはず」なのに、なぜ通帳の残高が減っていくのか?税理士が明かす法人保険の落とし穴

はじめに:その保険、本当に会社を守っていますか?
「社長、この保険なら掛金の6割経費になりますよ」
「解約すれば返戻金が戻ってくるので、そのときに退職金を払えば税金がかかりません」
「税金を払うくらいなら、保険で積み立てておきましょう」
こんなセールストークを聞いたことはありませんか。
あるいは、すでに銀行や保険代理店の勧めで、年間数百万円、数千万円もの保険料を払い続けているかもしれません。
もし少しでも心当たりがあるなら、ぜひ一度、契約内容と会社の通帳を見比べてみてください。
私は税理士として、多くの会社の決算書を見てきました。
その中で痛感するのは、節税のつもりで加入した保険が、かえって資金繰りを苦しくしているケースが存在するという事実です。
今回は、なぜ保険による節税が会社のキャッシュを奪ってしまうのか、そのメカニズムについてお伝えしていきます。
決して保険そのものを否定したいわけではありません。
ただ、仕組みを正しく理解したうえで判断していただきたいと思っています。
節税保険の正体は課税の繰り延べに過ぎない
まず、大前提として知っておいていただきたいことがあります。
世の中で節税保険と呼ばれているもののほとんどは、税金を免除してくれるものではありません。
実態としては、税金を払うタイミングを先送りしているだけです。
経費と収益はセットで考える
保険の営業担当者は、掛金が経費になるというメリットを強調します。
確かに、支払った保険料が損金として認められれば、その年の利益は減り、法人税も安くなります。
しかし、ここで見落とされがちなポイントがあります。
解約して戻ってきたお金、つまり解約返戻金は収益として課税対象になるという事実です。
入口で経費になっても、出口で収益になれば、そこで法人税がかかります。
トータルで見れば、今払うはずだった税金を将来に回しただけ。これが課税の繰り延べと呼ばれる仕組みです。
税金ゼロでも手元の現金は消える
「でも、税金の支払いを先送りできるなら、資金繰りが楽になるのでは?」
そう感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
たとえば、年間1,500万円の利益が出ている会社があるとします。
税率を30%とすれば、そのまま納税すると450万円の税金を払い、手元には1,050万円の現金が残ります。
ここで、税金がもったいないからと、年払保険料2,500万円の6割損金タイプの保険に加入したとしましょう。
利益はゼロになり、税金もゼロになります。一見すると得をしたように思えます。
けれども、会社の手元からは保険料として2,500万円の現金が出ていきます。
解約してお金を取り戻せるのは何十年も先です。
何もしない場合の手残り現金は1,050万円。
保険に入った場合の手残り現金はマイナス1,000万円。
いかがでしょうか。
税金がゼロになったと喜んでいる裏側で、会社のキャッシュは完全に消えています。
これが保険による節税の初期段階で起きる、資金繰り悪化のメカニズムです。
最大のリスクは資金が長期間ロックされること
保険で節税をすることの最大のリスクは、資金繰りと経営の自由度が損なわれることにあります。
数十年、お金が動かせなくなる
法人保険の多くは、解約返戻率が最も高くなるピーク時に向けて、長期間にわたって積み立てる設計になっています。
その期間は数十年にも及びます。
その間、あなたが支払った多額の現金は、保険会社の中に眠ったままです。
自由に引き出すことはできません。
経営をしていれば、今すぐ現金が必要になる局面は何度か訪れます。
良い物件が見つかった、設備投資の絶好のタイミングが来た、予期せぬトラブルで運転資金が必要になった。
しかし、そのための資金が保険の中にロックされていれば、身動きが取れなくなります。
解約すれば現金化できますが、ピーク前に解約すると返戻率は低く設定されているため、支払った金額よりも大幅に少ない額しか戻ってきません。
あなたの会社は、目の前のチャンスを逃さずに動ける状態でしょうか?
結果として、目の前に好機があるのに資金が縛られていて動けない、あるいはピンチなのに手を打てない、
という事態に陥ります。
節税のために始めたはずが、将来の経営判断を大きく制限してしまう状態です。
返戻率はせいぜい70%から80%
さらに冷静に数字を見てみましょう。
かつては全額経費で返戻率が100%を超える商品もありましたが、税制改正によってそうした商品はほぼ姿を消しました。
現在主流の商品は、返戻率70%から80%程度がほとんどです。
保障があるから良いではないか、という考え方もあるでしょう。
けれども、純粋に資産形成として見た場合、最初から2割から3割減ることがほぼ確定している金融商品に資金を投じていることになります。
もし資金を増やしたいのであれば、手数料の高い保険を通さずに、直接インデックス投資信託などを購入したほうが資金効率は高いケースが多いのも事実です。
退職金で相殺するから大丈夫という誤解
保険の営業担当者は、しばしばこう説明します。
「解約したときの収益は、社長の退職金を支払うことで相殺すればいいんです。プラスマイナスゼロになるので課税されません」
このロジックは一見すると完璧に見えます。けれども、税理士の視点から見ると、重要な点が見落とされています。
それは、退職金は保険の解約返戻金で支払わなくても経費になるという点です。
退職金の原資が保険の解約金であろうと、会社がコツコツ貯めた普通預金であろうと、銀行からの借入金であろうと、適正な金額であれば税務上は等しく損金として認められます。
保険に入っていたから退職金が経費になったわけではありません。
むしろ、保険を使わずに手元で現金を運用・蓄積していれば、資金がロックされることもなく、急な資金需要にも対応でき、退職時には同じように損金算入の効果を得られたはずです。
退職金の準備という名目で、深く考えずに保険へお金を流し込むことは、その資金を事業投資に回していれば得られたかもしれない利益を手放しているのと同じことになります。
それでも保険が役立つケースはある
ここまで保険のデメリットについてお伝えしてきましたが、すべての法人保険を否定したいわけではありません。
特定の条件下では、保険が有効な財務戦略として機能します。
ケース1:潤沢な資金があり長期ロックでも問題ない場合
すでに手元資金が十分にあり、数千万円単位の資金を長期間寝かせておいても経営にまったく支障がない会社であれば、資金の一部を保険に移すことで、万が一の保障を得ながら簿外資産を形成することができます。
ケース2:ご自身の代で会社を畳む予定がある場合
後継者がおらず、自分の代で廃業する予定があるケースです。
この場合、解約返戻金を最終的な退職金に充てることで、欠損金の切り捨てを防ぐ効果が期待できます。
ケース3:想定される退職金が高額である場合
想定される退職金の額が相当高額であり、退職時に発生する多額の欠損金をその後の10年で使いきれないと見込まれる場合は、退職金の一部を保険で積み立てる方法が有効な場合もあります。
これらのケースに共通しているのは、資金繰りに十分な余裕があること、そして明確な出口戦略が決まっていることです。
まとめ キャッシュフローを最優先に考える
会社経営において最も重要なのは、手元に使えるお金が残っていることです。
いくら帳簿上の税金が減っても、保険料の支払いで資金繰りがカツカツになり、必要な投資もできず、いざというときに動けないのでは本末転倒でしょう。
納税を先送りすること、それ自体は利益ではありません。
このことを改めて心に留めておいていただければと思います。
もし今、なんとなく加入している保険があるなら、以下の3点を確認してみてください。
1つ目は、その保険の解約返戻金がピークになるのはいつかという点。
2つ目は、そのときに会社はその現金を何に使う予定か、具体的な出口があるかという点。
3つ目は、その保険料を払い続けることで、現在の資金繰りや投資の機会を圧迫していないかという点。
もし答えに詰まるようであれば、勇気を持って解約を検討するか、払済保険への変更を考えてみる時期かもしれません。
目先の節税という言葉に惑わされず、キャッシュフローと未来への投資を最優先に考える。
それが、手元にお金を残せる経営者の姿勢ではないでしょうか。


