給料を上げても社員が辞める会社と、そこそこの給料でも誰も辞めない会社の決定的な違い

今回は、多くの経営者を悩ませる「ヒト」の問題について書いてみたいと思います。

顧問先の社長とお話ししていると、こんな言葉を耳にします。

「また社員が辞めてしまいました」
「求人を出しても、応募すら来ないんですよ」
「うちは給料も相場より高いし、残業も少ない。なのに、なぜか人が定着しなくて…」

2026年現在、人手不足は経営リスクの最上位項目となっています。
多くの経営者は、この問題に対して人事部的なアプローチで解決しようとされます。
賃上げ、休日増、オフィス環境の改善といった施策です。もちろん、これらは大切です。

ただ、税理士として何百社もの決算書を見てきた中で遭遇してきた一見不思議な現象があります。

給料はそこそこで、残業も普通にある。
それなのに従業員がイキイキと働いていて、誰も辞めない会社が存在します。

その一方で、高い給与を出してオフィスも立派。
なのに従業員の目が死んでいて、離職率が高い会社も山ほどあります。

この差はいったい何なのでしょうか。

そこには人が辞めない会社が密かに行っている「ある戦略」の存在がありました。
それは人事制度の改革ではありません。「マーケティング戦略(顧客戦略)の転換」でした。

具体的に言えば、リピーターやファンを大切にして、焼畑的な新規獲得一辺倒をやめること。
これがなぜ従業員の定着率に効果をもたらすのか、今回は組織論とLTV(顧客生涯価値)の関係性について深掘りしてお話しします。

目次

従業員を疲弊させている「見えない原因」

従業員が会社を辞める本当の理由をご存知でしょうか。
退職理由のアンケートでは「給与への不満」や「キャリアアップ」といった回答が並びますが、本音の部分を深掘りすると、多くの場合、最大のストレス源は「人間関係」にあります。

そして、その人間関係のストレスの半分以上は、上司や同僚からではなく、実は「顧客との関係」から来ているケースが非常に多いのです。

無理な新規開拓が現場を壊していく

売上目標を達成するために「誰でもいいから取ってこい」と新規開拓を急かす会社があります。
これは組織にとって、じわじわと効いてくる毒のようなものです。

信頼関係のない新規のお客様に商品を売るには、どうしても「お願い営業」や「過度な値引き」に頼りがちです。
その結果、何が起きるでしょうか。

理不尽な要求をするお客様が増えます。
「お金を払っているんだから当然でしょう」という態度を取られることも少なくありません。
期待値のズレによるクレームも発生しやすくなります。
「話が違う」と怒りをぶつけられることもあるでしょう。
価格だけで判断されるドライな関係が増え、「他のところのほうが安かった」と去っていかれることも珍しくありません。

こうした「質の良くないお客様」への対応を誰がしているのか。
現場の営業担当者やカスタマーサポートのスタッフです。

彼らは理不尽な要求に頭を下げ、時には罵声を浴び、精神をすり減らしています。
そんな状態で「給料を1万円上げるから頑張ってくれ」と言われて、本当に頑張れるでしょうか。
「こんな辛い思いをしてまで、この会社にいる意味があるのだろうか」と思うのは、ごく自然なことです。

給料アップだけでは「やる気」は生まれない

経営学に「ハーズバーグの二要因理論」という考え方があります。
給与や福利厚生は「衛生要因」と呼ばれ、これを満たしても不満がなくなるだけで、やる気が出るわけではありません。
人が仕事に熱中し、この会社にいたいと思うためには「動機づけ要因」が必要です。

その最大の要因こそが、「誰かの役に立っている」という実感と、「感謝される」という承認です。

リピーター戦略が「最強の福利厚生」になる理由

ここで、私が日頃からお伝えしている「リピーター重視の経営」についてお話しします。
「それはマーケティングの話でしょう」と思われるかもしれませんが、実はこれ、「組織マネジメント」の話でもあります。

「ありがとう」が溢れる職場

リピーター、特に「ファン」と呼ばれるお客様は、会社の商品やサービス、そしてそこで働く「人」を大切に思ってくださっています。
そういったお客様とのやり取りには、理不尽なクレームはほとんどありません。
あるのは信頼と感謝の言葉です。

「いつもありがとう。○○さんが担当でよかった」
「また来たよ。この前の商品、すごく良かったから」
「困ったことがあって…御社なら何とかしてくれると思って相談に来ました」

こうした言葉を日常的にかけられる職場を想像してみてください。

従業員の承認欲求は、上司に褒められること以上に、お客様からの感謝によって満たされます。
「自分はこの仕事を通じて、誰かを幸せにしている」という実感。
これこそが何よりの報酬となり、仕事への誇りを生み出します。

心理的安全性が生産性を高める

リピーターのお客様との関係は、従業員に心理的な安心感をもたらします。
「何か言われるんじゃないか」とビクビクしながら電話を取るのと、「あの常連さんだ」と安心して受話器を取るのとでは、ストレスのレベルが天と地ほど違います。

精神的に安定すれば、従業員のパフォーマンスは自然と上がっていきます。
心に余裕が生まれれば、後輩への指導も丁寧になり、職場の空気も良くなっていくでしょう。

つまり、良いお客様を集めることが、結果として良い職場環境を作ることになります。
経営者が本当にやるべきなのは、社員旅行を開催することではなく、社員を大切にしてくれるお客様と付き合える環境を整えることではないでしょうか。

税理士の視点から見た「採用コスト」という落とし穴

従業員が定着しない会社は、財務的にも苦しい状況に陥りやすくなります。

一人が辞めると「年収の2~3倍」のコストがかかる

社員が一人辞めて、代わりの人を採用し、戦力化するまでにかかるコストをご存知でしょうか。
退職した社員の年収の2倍とも3倍とも言われています。
紹介会社へのフィーや求人広告費といった採用コスト、研修費や先輩社員の時間という教育コスト、新人が慣れるまでの生産性低下、そして辞めた社員が持っていたお客様との関係性やノウハウの流出。
これらすべてを合わせた金額です。

年収400万円の社員が辞めれば、見えない部分も含めて1000万円近い損失が出ています。
粗利40%の会社であれば、2500万円もの売上を作ってようやく取り返せる金額です。

LTVと従業員満足度には明確な相関がある

顧問先のデータを見ていて気づくことがあります。
LTV(顧客生涯価値)が高い会社は、従業員の勤続年数も長い傾向があります。

リピーター戦略をとれば販促コストが下がり、利益率が上がります。
浮いたコストを給与アップや教育投資に回せます。
お客様から感謝され、従業員のモチベーションが高まります。
従業員が定着して熟練度が上がり、サービスの質が向上します。
その結果、さらにリピーターが増えていく。
この正のスパイラルに入っている会社は本当に強いです。

逆に、新規獲得ばかり追っている会社は、利益が出ないから給料も上げられず、現場が疲弊して人が辞めるという負のスパイラルからなかなか抜け出せません。

明日からできる2つの具体策

では、従業員が辞めない会社にするために、社長として何をすべきか。
すぐに取り組める具体的な戦略を2つご提案します。

「付き合わないお客様」を決める

これが最も重要で、最も難しい決断かもしれません。
従業員を疲弊させ、その尊厳を傷つけるような悪質なお客様とは、勇気を持って取引を停止してください。

「売上が減ってしまう」と不安になるお気持ちはよく分かります。
しかし、その悪質なお客様への対応に使っている時間とエネルギーを、優良なリピーターへのサービスに向けたらどうなるでしょうか。
LTVは間違いなく向上し、売上の減少分などすぐにカバーできるはずです。

何より、社長が「私は売上よりも、社員である君たちを守る」という姿勢を行動で示した時、従業員の会社への愛着は一気に高まります。
「この社長についていこう」と思ってもらえる瞬間です。

評価指標を見直す

営業担当者の評価を「新規獲得件数」だけで決めていませんか。
それでは、どうしても無理な営業をしてでも数字を作ろうとしてしまいます。

評価指標に継続率やお客様満足度、リピート売上を組み込んでみてください。
「売って終わり」ではなく「売ってから関係を築く」ことを評価する仕組みに変えましょう。
そうすれば、従業員の行動は自然とお客様の成功に向かっていきます。

最後に:まず確認していただきたいこと

まずは、直近1年間で退職した従業員が、どの部署でどんな業務を担当していたかを確認してみてください。
そして、その部署が対応していたお客様の層を分析してみてください。

もしそこに、クレームの多いお客様や、利益率の低い無理な取引が集中していたとしたら、原因は「人」ではなく「顧客戦略」にあるのかもしれません。
顧客ポートフォリオの見直しこそが、次の採用を行う前に打つべき最初の一手です。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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