広告費ゼロで相見積もりなし——中小企業だけが使える、大手が真似できない経営術

はじめに:効率化を進めるほど、なぜかお客様が離れていく
「これからはAIの時代ですから、接客も自動化して、無駄を省いて効率化しようと思います」
「大手チェーンのようにマニュアルを作って、誰でも同じサービスができるようにしたいんです」
これらは利益を増やすための取り組みとして良く議題に上がるものです。
ここで少し少し立ち止まって考えてみましょう。
その方向に進むと会社の一番の強みが消えてしまうかもしれません。
たしかに、机上の数字だけを見れば、効率化は正しい選択に見えます。
しかし、中小企業にとっての効率化は、多くの場合、没個性化と同じ意味を持ってしまいます。
大企業が効率化するのは、規模のメリットを活かしてコストを下げ、安く大量に売るためです。
資金力もブランド力もこれからという中小企業が、同じ土俵で効率を追求したらどうなるか。
待っているのは、資本力に勝る大手との価格競争で消耗していく未来かもしれません。
私たち中小企業が生き残る道は、大手が絶対にやらない、あるいはやれない、手間のかかることの中にこそあります。
大企業の正解が、中小企業の不正解になるとき
大企業の戦略の本質は、経済合理性の追求にあります。
大量仕入れで原価を下げ、マニュアル化で教育コストを下げ、システム化で人件費を削る。
これにより、そこそこの品質のものを、安く、便利に提供するのが大企業の勝ちパターンです。
中小企業には、市場全体を取りに行く広告費も、大規模な営業力もありません。
弱者が強者と同じ武器で戦えば、負けるのは必然といえます。
あなたがこれを真似して、タブレット注文を導入したり、電話対応を自動音声にしたりした瞬間、お客様はこう思うかもしれません。
それなら、もっと安くて有名な大手チェーンでいいじゃないかと。
中小企業が目指すべきは、便利だから選ばれる店ではありません。
不便でも、高くても、あなたから買いたいと言われる店です。
そのためには、合理性とは真逆の方向へ進む必要があります。
マニュアル化がお客様の心を冷めさせる理由
誰でも80点の接客ができるようにしたい。マニュアル化の目的はここにあります。
たしかに、サービスのバラつきはなくなり、クレームは減るかもしれません。
しかし同時に、120点の感動も消えてしまいます。
中小企業の強みは、社長やベテランスタッフの属人的なキャラクターや、痒いところに手が届く臨機応変な対応にあります。
お客様は、大手にはない人間味や融通を求めて、わざわざあなたの会社を選んでくださっているのではないでしょうか。
それを自ら手放してロボットのような対応をすることは、自社の最大の武器を捨てるようなものです。
心理学的にも、人は効率的な対応には感謝しにくいと言われています。
一方で、自分のために汗をかいてくれた非効率な対応には心を動かされるものです。
メールで済むところを、わざわざ手書きの手紙をくれる。
営業時間外なのに、いいですよと開けてくれる。
商品とは関係ない世間話に30分付き合ってくれる。
経営コンサルタントが見れば、無駄だ、生産性が低いと指摘されてしまいそうなことです。
しかし、この無駄こそが、お客様の心に返報性の法則を発動させ、強力な信頼関係を築いていきます。
中小企業の生存領域は、他社が入れないところにある
中小企業が目指すべきゴールは、特定の狭い商圏、特定のお客様層における、不自然な独占です。
不自然な独占とは、他社が参入できない状態を指します。
特許技術があるわけでもないのに、なぜかお客様が離れない。
競合が隣に安売り店を出しても、お客様が浮気をしない。
なぜそんなことが起きるのでしょうか。
それは、あなたの会社とお客様の間に、経済合理性を超えた感情のつながりがあるからです。
社長の顔を見ないと調子が出ない。あの店員さんは私の好みを全部知っている。あそこに行けば、愚痴を聞いてもらえる。
こうした関係性は、一朝一夕の効率的なマーケティングでは作れません。
毎日の泥臭いコミュニケーション、非効率な御用聞き、人間くさい付き合いの積み重ねによってのみ構築されるものです。
大企業は、このような手間のかかることが一番苦手です。
なぜなら、社員数万人の規模でお客様と長話をしろ、手書きの手紙を書けと指示しても、統制が取れませんし、コストが合わないからです。
つまり、手間と面倒くささこそが、大企業に対する最強の参入障壁になります。
あなたがアナログで、人間臭く、非効率であればあるほど、Amazonも大手チェーンも、あなたの領域には手を出せなくなっていきます。
効率化して大手に近づこうとするのではなく、非効率を極めて大手を遠ざける。
これが弱者の生存戦略といえるでしょう。
目指すべきは高収益な非効率経営
事務作業や経理、在庫管理といったバックオフィス業務は、徹底的に効率化してください。
ITでもAIでも税理士でも使って、極限まで無駄を省くべきです。
しかし、お客様との接点だけは、絶対に効率化してはいけません。
御社では、お客様への礼状を印刷で済ませていないでしょうか。
お祝いのメッセージをLINEのスタンプ一つで終わらせていないでしょうか。
訪問すべきところを、Zoomで済ませていないでしょうか。
もしそうであれば、今日から見直してみてください。
社長の仕事は、PCの前で数字を管理することではありません。
泥まみれになって、汗をかいて、お客様との関係性をつくることです。
一周回って、今、最も強いのは昭和的なお節介やきの会社だと私は感じています。
デジタル全盛の時代だからこそ、アナログな温もりの価値が高まっているのでしょう。
用もないのに顔を出す。ちょっとした困りごとをタダで直して帰る。
一見、大赤字の時間の使い方に見えます。
しかし、そうした会社には、あの人に任せれば安心という信頼が生まれ、相見積もりなしで高単価な注文が入ってきます。
広告費はゼロです。
これが、私たちが目指すべき高収益な非効率経営の姿ではないでしょうか。
利益が出たら、設備投資も良いですが、人間関係への投資にもお金を使ってみてください。
お客様を招いてのパーティー、地域のお祭りへの参加。
これらは税務上は経費ですが、経営上は目に見えないブランド資産になります。
脳の構造は1万年前から変わっていません。人は理屈ではなく、感情で動きます。
大企業がAIとビッグデータで武装するなら、私たちはえこひいきと人情で対抗しましょう。


