満足した客の8割が他店へ流れるという事実、脳科学が教える本当のリピーター獲得法

はじめに:顧客満足だけではリピートにつながらない現実
こんなお悩みはありませんか?
「うちはアンケートで満足が9割を超えています。でも、再来店率が低いんです。」
真面目に顧客満足を追求している経営者ほど、この悩みを抱えていらっしゃいます。
実は、これには脳科学的な理由があるのをご存じでしょうか。
お客様はあなたのお店に満足しています。文句もありません。
それでも翌週には、別のお店に足を運んでしまうことがあるのが現実です。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
それは、満足がリピートの必要条件であっても、十分条件ではないからです。
不満がないことと、またここに来たいと思うことは、脳の中ではまったく別の働きによるものだといえます。
多くの経営者はマイナスをゼロにする努力、つまり不満を消す努力に力を注いでいます。
しかし、リピーターを育てるために本当に必要なのは、ゼロをプラスにする努力、すなわちお客様との関係性を築くことにあります。
この記事では、脳の仕組みを理解したうえで、中小企業だからこそできるリピーター戦略についてお伝えしていきます。
脳は想像以上に省エネを好む
リピート行動の本質は考えなくて済む安心感
そもそも、人はなぜいつもの店に行くのでしょうか。
その店の味が最高だから? サービスが素晴らしいから?
脳科学的な答えは、考えるのが面倒だからという理由が大きいのです。
人間の脳は体重の2%ほどの重さしかありませんが、エネルギーの20%以上を消費する大食いの臓器です。
そのため脳には省エネモードがプログラムされており、可能な限り思考や判断を避けようとする傾向があります。
新しいお店を探すという行為は、脳にとってかなりの負担がかかります。
検索して評判を調べる手間。
地図を見て場所を確認する手間。
もし美味しくなかったらどうしようという心理的な不安。
こうした負担を専門用語では認知的摩擦と呼びますが、脳はこの摩擦を避けるために、過去に行ったことのある店や勝手がわかっている店を選ばせようとします。
これは現状維持バイアスや認知的流暢性とも呼ばれる現象です。
つまり、お客様がリピートしてくださるのは、あなたのお店に感動したからというよりも、あなたのお店に行くのが脳にとって一番楽だからという側面が大きいのです。
この脳の省エネ志向を理解することが、リピーター戦略の第一歩になります。
メニューを見なくても注文できる心地よさ
行きつけのお店に行くとホッとするのは、脳がリラックスした状態で過ごせるからです。
いつものと言えば通じる。トイレの場所も知っている。店員さんの顔も見慣れている。
この予測可能な状態こそが、脳にとっての報酬、つまり安心感となります。
逆に言えば、リピート率を上げたいなら、過度なサプライズや頻繁なメニュー変更でお客様を驚かせるよりも、変わらない安心感や考えさせない工夫を提供するほうが効果的かもしれません。
もちろん飽きさせない工夫は必要ですが、土台にあるのは安心です。
リピーターには4つのタイプがある
では、具体的にどのようなリピーターを育てればよいのでしょうか。
リピーターは来店動機によって4つのタイプに分類できます。
地理型:近いから来るお客様
家の近所だから、通勤路にあるからという理由で来店されるお客様です。
このタイプは最も不安定なリピーターだといえます。
引っ越しをされたり、あなたのお店より1分近い場所に競合ができたりすれば、あっという間に離れてしまいます。
経営努力ではコントロールしにくい層です。
商品型:この商品が欲しいから来るお客様
この料理が好き、この技術が必要という理由で来店されるお客様です。
多くの職人気質の経営者はここを目指しますが、実はリスクも伴います。
なぜなら、もっと美味しくてもっと安いお店が出現したら、すぐに乗り換えられてしまう可能性があるからです。
商品の良し悪しだけでつながっているお客様は、常に他社と比較検討をしている状態だともいえるでしょう。
記憶型:思い出したから来るお客様
そういえばあのお店があったなと思い出して来店されるお客様です。
人間の脳には想起集合と呼ばれるリストがあります。
ランチといえば?と聞かれてパッと思い浮かぶ3つ程度のお店がそれにあたります。
ここに入り込めれば一定のリピートが見込めますが、忘れられてしまえば選ばれなくなってしまいます。
属人型:あの人がいるから来るお客様
あの人と話したいから、大将の顔を見に来たよという理由で来店されるお客様です。
これこそが中小企業が目指すべき最強のリピーターだといえます。
来店動機が人であるため、商品でも価格でも立地でもありません。
値上げをしても、味が多少変わっても、お店が移転しても、ついてきてくださいます。
なぜなら、人間関係には代替が効かないからです。
あなたとの関係性そのものに価値を感じてくださっているお客様は、簡単には離れていきません。
属人型リピーターを育てるための具体策
中小企業の生存戦略は、地理型や商品型のお客様を、いかにして属人型へ引き上げるかにかかっています。
そのための具体的な方法をご紹介していきましょう。
機能ではなく人間味を伝える
大手チェーン店にはできなくて、あなたにできること。
それは自己開示です。
スタッフを店員Aという機能として扱うのではなく、一人の人間として認識してもらうことが大切になります。
たとえば名札を工夫してみてください。
名字だけでなく、ニックネームや趣味を書くだけで会話のきっかけが生まれます。
釣り好きのタケちゃんのような名札があれば、釣りが趣味のお客様との話が自然と弾むかもしれません。
また、ニュースレターを発行するのも効果的です。
商品の宣伝ではなく、スタッフの日常や失敗談、社長の悩みなどを正直に書いてみてください。
心理学には単純接触効果という法則があります。
接触回数が増えるほど、そして相手の内面を知るほど、好意度は上がるというものです。
お客様は完璧な店員よりも、ちょっとドジでも人間味のある人に親しみを感じるものではないでしょうか。
名前を呼んで特別感を生み出す
脳科学的に、相手との信頼関係を深める言葉があります。
それはお客様のお名前です。
自分の名前を呼ばれたとき、脳の報酬系が刺激され、快楽物質であるドーパミンと親密さを感じるオキシトシンが分泌されます。
いらっしゃいませではなく、○○さん、こんにちは。
たったこれだけの違いですが、脳へのインパクトには大きな差が生まれます。
名前を呼ばれることで、お客様の脳は私はここでは単なる客ではなく、個人として認識されていると判断します。
これが承認欲求を満たし、心理的なつながりを生み出していくのです。
名前を覚えてくれているお店から名前も知らないお店に乗り換えるのは、脳にとって心理的な抵抗を伴います。
だからこそ、お客様は離れにくくなるのです。
共通点を見つけて仲間意識を育てる
人間には、自分と同じグループのメンバーを優遇する本能があります。
これは内集団バイアスと呼ばれる現象です。
お客様とスタッフの間に共通点を見つけてください。
出身地が同じ、好きなアイドルが同じ、子供の年齢が近い。どんな些細なことでも構いません。
共通点が見つかった瞬間、脳はお互いを他人から仲間へとカテゴリ変更します。
仲間になれば、価格で比較される取引関係から、応援したくなる支援関係へとシフトしていきます。
これが属人型リピーターの本質だといえるでしょう。
属人化への投資の仕方
マニュアル接客だけでは記憶に残らない
いらっしゃいませ、何名様ですか? こちらへどうぞ。ご注文はお決まりですか?
この完璧なマニュアル接客は、脳にとって記憶に残りにくいものです。
予測どおりのやり取りは処理されて消えてしまうからです。
お勧めは、雑談を推奨することです。
今日は暑いですね、そのバッグ素敵ですね。
マニュアルにない何気ない会話こそが、人間味を伝え、記憶に残るきっかけになります。
教育費の使い道を見直してみる
決算書上の教育研修費。これを技術向上のためだけに使っていないでしょうか。
もちろん技術は大切ですが、一定のレベルを超えるとお客様には違いがわかりにくくなります。
おそらく税理士の違いもわかりにくいと思います。
それよりも、スタッフの人間力やコミュニケーション力を磨くことに投資してみてください。
あるいは、スタッフがお客様に顔と名前を覚えてもらうためのツールにお金を使うのも有効です。
顔写真入りの名刺、個人のプロフィールを載せた冊子、手書きのハガキなどが考えられます。
商品は真似されますが、人柄は誰にも真似できません。
これこそが最も確実で、税務上も経費として認められる差別化への投資だと私は考えています。
社長自身が最大の広告塔になる
中小企業の場合、最大の属人性は社長であるあなた自身です。
恥ずかしがらずに、あなたの顔や想い、哲学を前面に出してみてください。
この社長がやっているお店だから来ている。
そう言っていただけるようになれば、あなたの会社は不況にもAIにも大手資本にも負けない強さを持つことができます。
おわりに:お客様の脳を安心させる場所
お客様に満足してもらおうと力む必要はありません。
それよりも、お客様の脳をリラックスさせよう、お客様と友達になろうと考えてみてください。
あそこに行くと何も言わなくてもいつものが出てくる。あそこの店長と話すと元気になる。
そんな、お客様の脳にとって安心できる場所になること。
それが脳の省エネ志向を味方につけ、長く愛されるお店を作るリピート戦略です。


