「税金をコントロールする」税理士が明かす4つの視点で手元資金を増やす戦略

はじめに|節税の裏ワザを探していませんか?
「先生、何かいい節税方法はありませんか?」
「YouTubeで見た○○スキームというのは、うちでも使えますか?」
税理士として、このようなご相談をいただく機会は本当に多いです。
お気持ちはよくわかります。
できることなら税金は少しでも抑えたい、それは経営者として当然の感覚でしょう。
ただ、税務の世界に、魔法のような裏ワザは存在しません。しかし、魔法はなくても戦略は存在します。
税金の仕組みを理解し、法律で認められている制度を正しく組み合わせれば、合法的に税負担を最適化することは十分に可能です。
税金を4つの視点で捉え、パズルのように組み合わせて戦略を練るのです。
今回は、その思考フレームワークを公開します。
この4つの視点を身につければ、怪しい節税商品に惑わされることもなくなるでしょう。
視点1|所得の種類を変える
最初にお伝えするのは、所得の種類を変えるという視点です。
同じ100万円を受け取る場合でも、どのような名目で受け取るかによって税金の額は大きく変わります。
所得は10種類ある
日本の税制では、個人の所得を給与所得、事業所得、配当所得、退職所得など10種類に区分しており、それぞれ異なる課税ルールが適用されます。
たとえば、会社から1,000万円を給与として受け取るケースを考えてみましょう。
給与所得は税率が高くなりやすい区分であり、所得税・住民税・社会保険料を合わせると、かなりの金額が天引きされてしまいます。
ところが、同じ会社から受け取るお金でも、退職金として受け取ると状況は一変します。
税制上もっとも優遇される退職所得
退職所得は、税制上もっとも優遇されている所得区分です。
その理由は、3つの特典があるからです。
まず、分離課税という仕組みにより、他の所得と合算されることなく単独で税率が適用されます。
次に、退職所得控除として勤続年数に応じた多額の非課税枠が設けられています。
さらに、2分の1課税という優遇措置があり、控除後の金額をさらに半分にしてから税率をかける計算方式が採用されています。
具体的な数字で見てみましょう。
勤続30年で2,500万円の退職金を受け取る場合、退職所得控除額は1,500万円です。
課税対象額は、2,500万円から1,500万円を引いた金額に2分の1をかけるため、わずか500万円となります。
2,500万円もらっているのに、税金の計算上は500万円として扱われるわけです。
しかも、退職金には社会保険料がかかりません。
現役時代に給与で全額受け取るのではなく、一部を将来の退職金に回すだけで、手元に残るお金は数百万円単位で変わってきます。
視点2|所得の帰属を変える
2つ目の視点は、誰が稼いだことにするかという帰属を変えることです。
日本の税率構造には累進課税と比例税率という2つの仕組みが混在しており、この差を利用してグループ全体の税負担を下げる手法が帰属の変更です。
法人に利益を残すのか、役員報酬として受け取るのか
日本の所得税は超過累進税率を採用しています。
一人でたくさん稼ぐほど税率が階段状に上がり、最高では住民税と合わせて約55%にもなります。
一方で、法人税の実効税率は約30%程度と一定であり、中小法人の年800万円以下の部分については約20%とさらに低くなっています。
法人化と家族への所得分散
個人事業主として高額な利益が出ているなら、法人を設立することで最高55%の所得税の世界から、30%程度の法人税の世界へと利益を移すことができます。
法人化した後も、社長一人に給料を集中させると税率は高くなってしまいます。
そこで、実質的に経営に参画している配偶者や子供を役員にして、役員報酬を支払う方法が有効です。
たとえば、社長一人で2,000万円を受け取るよりも、社長1,500万円と配偶者500万円に分けたほうが、世帯全体の手取りは確実に増えます。
それぞれに低い税率区分が適用されるからです。
ただし、重要な注意点があります。
名義だけの役員や、勤務実態のない家族への給与は脱税に該当します。
必ず実態を伴うことが大前提ですが、家族で力を合わせて経営している中小企業にとっては、もっとも効果的な戦略といえるでしょう。
視点3|所得の時間を変える
3つ目は、課税のタイミングを変えるという時間の視点です。
多くの経営者が節税と呼んでいる手法の多くは、実はこの時間のコントロールに分類されます。
今払うか、将来払うかという選択
具体的には、来年1年分の家賃や保険料を今月中に支払い今期の経費として計上する短期前払費用、30万円未満の備品を一括で経費にする減価償却の特例、掛金を支払って経費にし将来解約時に収益として受け取る共済や保険などが該当します。
これらはいずれも、今期の利益を減らして納税を将来に先送りする効果があります。
しかし、時間を変えるだけではトータルの納税額は基本的に変わりません。
他の視点と組み合わせることで効果を生む
では、意味がないのかといえば、決してそうではありません。
例えば、所得の種類を変える節税の退職金と組み合わせる方法が良く検討されます。
法人保険に加入し、毎期保険料の4~6割を経費に落としつつ、解約返戻金は退職金で相殺する。
よくある方法です。
ただし、この方法が有効に機能するには条件があるのでご注意ください。
別記事で詳しく紹介していますが、潤沢な資金があるという前提で、
①自分の代で会社を廃業する場合
②想定される退職金がかなり高額である場合
が主な活用シーンとなります。
視点4|所得の場所を変える
最後の視点は、所得が発生する場所を変えることです。
これはグローバル展開している企業向けの高度な戦略ですが、知識として知っておく価値はあります。
税率の低い国を選ぶという発想
世界には、日本の実効税率約30%よりも法人税率が低い国が存在します。
シンガポールや香港などがその代表例です。
海外に子会社を設立し、研究開発や知財管理などの機能を移転させれば、グループ全体の税率を下げることが可能になります。
中小企業にとってはリスクも大きい
ただし、単純に場所を変えればよいという話ではありません。
実体のないペーパーカンパニーへの利益移転は、タックスヘイブン対策税制などにより税務調査で厳しく否認されます。
また、移転価格税制への対応など管理コストも膨大です。
一般的な中小企業にとっては慎重な検討が必要でしょう。
しかし、将来的に海外進出を目指している企業であれば、どの国で利益を出すかという視点は最初から持っておくべき経営戦略の一つです。
4つの視点を組み合わせて効果を最大化する
ここまでお伝えした4つの視点は、どれか一つを選ぶものではありません。
統合的に組み合わせることで、最大の効果を発揮します。
たとえば、利益1億円の製造業を例に考えてみましょう。
まず帰属の最適化として、社長一人に集中していた所得を、実務を担う配偶者と後継者である子供を役員にして分散させ、累進課税の影響を緩和します。
次に種類の活用として、役員退職金規程を整備し、将来2分の1課税が適用される退職所得として受け取れるよう計画的に積み立てを行います。
さらに時間のコントロールとして、高額が予想される退職金の原資の積立てに一部法人保険を活用します。
そして場所の検討として、将来的にアジア市場へ進出しグローバルな税務最適化を目指していきます。
このように多角的に税金をコントロールすることこそが、節税効果を最大化することに繋がります。
おわりに|税務戦略は未来への投資
税金を払いたくないという後ろ向きな動機ではなく、手元に残る資金を最大化して企業の未来へ再投資するためにこれらの手法を活用してください。
ただし、実践にあたっては次の3つに注意してください。
1つ目は、すべての施策が税法の枠内であるという合法性の確保。
2つ目は、形式だけでなく実態が伴っているという経済的実質の重視。
3つ目は、契約書や議事録など証拠となる書類を残しておく文書化の徹底です。
種類・帰属・時間・場所という4つの視点を通して自社の決算書を眺めてみてください。
今まで見えなかった打つべき手が、きっと見えてくるはずです。


