なぜあの会社は決算直前でも慌てないのか?リピーターが生み出す節税の好循環

はじめに:通帳を見るたびに胃が痛くなっていませんか
「今月は良かったけど、来月はどうなるか分からない…」
月末になると、通帳の残高を眺めながらため息をついてしまう。
そんな経験をお持ちの経営者の方は、決して少なくありません。
売上が上がったり下がったりするジェットコースターのような毎日は、本当に心がすり減りますよね。
私は税理士として多くの中小企業の決算に携わってきましたが、売上が不安定な会社ほど節税でうまくいっていません。
来月の資金繰りが見えないまま打てる対策といえば、決算間際になって慌てて何かを買う程度。
それでは、税金は減っても手元のお金はもっと減ってしまうだけです。
一方で、毎月の売上がある程度予測できる会社は違います。
計画的に、しかも攻めの姿勢で節税に取り組めるため、結果として手元に残る現金が着実に増えていきます。
この違いを生み出す鍵が、リピーターの存在です。
今回の記事では、リピーター戦略がどのように会社の財務を安定させ、節税の成功につながるのか。
その仕組みを税理士としての視点からお伝えしていきます。
なぜ売上が不安定だと節税がうまくいかないのか
多くの会社が気づかないうちに陥っている負のループがあります。
このループから抜け出さない限り、どんな節税テクニックも効果を発揮しません。
売上が読めないことから始まる悪循環
新規のお客様ばかりを追いかける経営は、いわば焼き畑農業のようなものです。
今月は良くても、来月はゼロからのスタート。
獲得したお客様が一度きりの取引で去っていくなら、永遠に新しい畑を探し続けなければなりません。
このような状態では、決算の直前まで最終的にどれくらい利益が出るのか見当もつきません。
経理担当者も税理士も、数字が固まるまでは具体的な提案ができないのが実情です。
そしてふたを開けてみると、思ったより利益が出ていることに気づきます。
「このままでは税金をたくさん払わないといけない」と焦り、慌てて対策を考え始めるわけです。
御社でも、こんな経験はないでしょうか。
焦りが生む浪費という名の節税
時間に追われた状態では、じっくり検討した投資などできるはずもありません。
本当は半年かけて比較検討すべき設備投資も、数週間で決めなければならなくなります。
結局、手っ取り早く経費になる高級車や法人契約の生命保険、正直なところ必要かどうか怪しい備品を買ってしまいます。
税理士に相談しても、この段階ではできることが限られているのが現実です。
確かに税金は減りました。でも、無駄遣いをした分だけ手元の現金はもっと減っています。
100万円の税金を減らすために300万円の不要な買い物をしていたら、差し引き200万円のマイナスです。
これでは何のための節税だったのか分かりません。
負のループから抜け出せない理由
このサイクルを繰り返していると、会社にお金は残りません。
来月もこれだけ入ってくるという確信がないから、未来への投資に踏み切れない。
踏み切れないから、お客様との関係が深まらず、結局また新規開拓に追われることになります。
そして決算期になると、また不毛な節税を繰り返してしまう。
この負のループから抜け出すには、売上の安定性という根本的な課題に向き合う必要があります。
リピーターがいると経営はこう変わる
ここで大切になるのが、リピーターという存在です。
リピーターが増えることは、単に売上を維持するだけにとどまりません。
経営者の心と会社の財務に、驚くほどの安定をもたらしてくれます。
来月の売上が見えるようになる
定期的に買ってくださるお客様、あるいは別のサービスも利用してくださるお客様がいれば、来月や再来月の売上をある程度計算できるようになります。
毎月10社から定期注文が入るなら、最低でもその金額は確保できると分かります。
この予測可能性こそが、節税計画を立てるうえでの土台になります。
半年後の利益がおおよそ見えていれば、今から計画的に対策を打てます。
決算間際の慌ただしさとは無縁です。
利益率が上がり手元にお金が残る
新しいお客様を一人獲得するコストは、既存のお客様を維持するコストの5倍から16倍かかると言われています。
広告を打って、営業をかけて、見積もりを出して、やっと契約。
この労力を考えると、リピーターがいかにありがたい存在か分かるでしょう。
リピーターが増えれば、その分だけ新規開拓のための広告費を抑えられます。
同じ1000万円の売上でも、手元に残る現金の額が違ってくるのです。
利益率の向上は、そのまま節税の選択肢を広げることにもつながります。
心に余裕が生まれ冷静な判断ができる
経営者にとって、目先のお金の心配ほど消耗するものはありません。
夜も眠れない、家族との時間も心ここにあらず。そんな状態で良い判断ができるはずもないですよね。
リピート売上があれば、この重圧から解放されます。ようやくじっくりと考える時間が生まれます。
本当に会社のためになる投資は何なのか、正しい節税とは何なのか。落ち着いて検討できるようになるのです。
売上が安定すると節税の質が変わる
売上が読めるようになると、節税の性質そのものが変わっていきます。
節税を消費から投資へ。この進化こそが、会社にお金を残す秘訣です。具体的にどう変わるのか、見ていきましょう。
回収できる投資に大胆に踏み切れる
経費を使う節税において大切なのは、今期使ったお金が来期以降それ以上の現金となって戻ってくることです。
今期100万円使って来期120万円が返ってくるなら、今期の税金が減って来期の利益が増える。
これが理想の節税の形です。
売上が安定していれば、回収が見込める投資に思い切ってお金を使えます。
たとえば、顧客管理システムの導入はリピート率をさらに高めてくれるでしょう。
お客様の購入履歴や好みを把握できれば、適切なタイミングで適切な提案ができます。
人材の採用や教育研修も、来期の成長を支える力になります。
良いスタッフが育てば、お客様の満足度が上がり、さらにリピーターが増える。
こうした好循環を生み出せるのは、売上が安定している会社だけです。
売上が不安定な会社は、回収できるか分からない恐怖から、こうした投資に踏み切れません。
結局、あまり意味のない備品を買って終わってしまいます。
安定している会社だけが、税金を減らしながら稼ぐ力を強化できるのです。
長期の節税策を安心して活用できる
節税の手法の中には、倒産防止共済や法人保険のように課税を先送りにするものがあります。
ただし、これらの手法には資金が長期間動かせなくなるというリスクがあります。
毎月積み立てたお金は、一定期間は簡単に引き出せません。
自転車操業の会社がこれに手を出すと、急にお金が必要になったとき解約せざるを得なくなります。
解約のタイミングによっては、節税効果が消えるどころか損失を出すことさえあるのです。
しかし、リピート売上でキャッシュフローが安定していれば話は別です。
資金が一定期間ロックされても経営は揺るぎません。
将来の退職金のために大きな金額を積み立てることも、安心して実行できるようになります。
経営者自身の老後資金を税金をかけずに準備できるのは、安定経営ならではの特権といえるでしょう。
果樹園のような経営を目指しませんか
リピーター戦略は、果樹園を育てることに似ています。
一過性の花火のような売上を追いかけるのではなく、丁寧に手入れをすれば毎年豊かな実りをもたらしてくれる木を育てていく。そんなイメージです。
花火は派手で目立ちますが、一瞬で消えてしまいます。
果樹園は地味に見えるかもしれませんが、何十年にもわたって実りをもたらしてくれます。
どちらが経営の土台として相応しいか。答えは明らかではないでしょうか。
お金が増える良い循環のつくり方
この果樹園が育つと、会社の中にお金が増える循環が生まれます。
その流れを具体的に見ていきましょう。
まず、リピート売上によって安定した利益が出ます。毎月ある程度の売上が見込めるので、利益の予測も立てやすくなります。
その利益に対して、システム導入や人材育成といった正しい投資を行います。焦って無駄なものを買う必要がないので、本当に必要なものだけを選べます。
投資によってサービスの質が上がり、お客様の満足度が高まります。満足したお客様は、また買いに来てくれますし、友人や知人にも紹介してくれるかもしれません。
そして結果として、会社に残る現金が着実に積み上がっていくのです。
この循環に入れるかどうかで、5年後、10年後の会社の姿は大きく変わってきます。
おわりに:リピーターを作る仕組みへの投資が最高の節税
「節税したいけれど、何にお金を使えばいいのか分からない」
そう悩む経営者の方に、税理士としての私からお伝えしたいことはシンプルです。
リピーターを作る仕組みを整えてください。
例えばお客様との関係を深めるための顧客管理ツール。
また来たいと思っていただくためのパンフレットや案内状。
スタッフの接客力を高める研修。
これらはすべて経費として認められますし、何より将来の安定した売上となって会社に返ってきます。
高級車を買っても、お客様は増えません。
でも、顧客管理システムを導入すれば、お客様との関係が深まり、売上が安定していきます。
同じ節税でも、その後の展開がまったく違います。
売上を安定させて節税の選択肢を広げるのか。
それとも売上が不安定なまま、その場しのぎの無駄遣いを続けるのか。
どちらがお金の残る経営かは明白でしょう。
まずは自社のリピート率を見直すところから始めてみてください。
その数字を把握するだけでも、大きな一歩になります。


