年商3億円でも資金繰りに追われる会社と、年商8000万円で余裕のある会社の決定的な違い

毎月の試算表を見るとき、心から安心できていますか?
今月は大きな案件が決まったから黒字だ。
来月は入金の予定が少ないから資金繰りが心配だな。
納税資金を確保するために、もっと新規の仕事を取らないと……。
もしこのような一喜一憂を毎月繰り返しているなら、それは経営の構造そのものに問題があるかもしれません。
私は仕事柄、何百社という中小企業の決算書を見てきました。
そこで気づいたのは、売上の大きさと経営の安定度は必ずしも比例しないという事実です。
年商が数億円あっても、毎月資金繰りに追われている会社があります。
一方で、年商はそこまで大きくなくても、穏やかな表情で現預金を積み上げ、無借金で堅実な経営をしている会社もあります。
この両者を分ける決定的な違いは何でしょうか。
節税テクニックでもなければ、ヒット商品でもありません。
リピート、つまり繰り返しの購入を経営の柱として構造化できているかどうかです。
今回は、多くの経営者が陥りがちな不安定な経営スタイルと、そこから抜け出すための考え方について、税理士の視点からお伝えします。
多くの企業が陥る新規依存の落とし穴
多くの社長は新規顧客の獲得が好きです。
新しい契約が取れたときの高揚感や、売上グラフが跳ね上がる瞬間は、経営の醍醐味と言えるでしょう。
しかし、税務とキャッシュフローの専門家として申し上げると、新規獲得に依存する経営は最もコストがかかり、最も不安定なモデルです。
マーケティングの世界には、新規顧客を獲得するコストは既存顧客に再購入してもらうコストの5倍かかるという法則があります。
実際にはもっと差が開くケースも珍しくありません。
業種によっては、既存顧客への販売に比べて新規獲得に10倍以上のコストがかかることもあります。
サイコロを積み続ける経営の危うさ
新規客中心の経営を、私はサイコロ積みと呼んでいます。
サイコロを高く積み上げるゲームを思い浮かべてみてください。
一つ積むたびに売上は伸びていきます。
しかし、そのタワーは細い接点でしかつながっておらず、とても不安定です。
競合他社が値下げをしたり、担当者が退職したり、景気が少し悪くなったりするだけで、積み上げたタワーはあっという間に崩れてしまいます。
崩れたらどうなるか。
また必死になって新しいサイコロ、つまり新規客を探しに行かなければなりません。
これでは過去の努力が資産として積み上がらず、毎月ゼロからのスタートを強いられることになります。
財務的に言えば、高コスト体質によるキャッシュフローの圧迫という状態です。
御社は今、サイコロを積み続けていませんか?
目指すべきはルービックキューブのような経営
では、利益をしっかり残し、現金を積み上げている会社はどうしているのでしょうか。
彼らはサイコロを積んでいません。ルービックキューブを組んでいます。
ルービックキューブを思い浮かべてください。
縦、横、奥行き。それぞれのブロックが複雑に噛み合い、簡単にはバラバラになりません。
顧客との関係を、このルービックキューブのように多方向から設計すること。
これが私がお伝えしたいリピートの3つの方向です。
リピートと聞くと、単にまた買ってもらうことと考えがちですが、それだけでは不十分です。
以下の3つの軸で設計して初めて、強固な経営基盤が出来上がります。
横の軸である同じ体験の繰り返し
これは最も一般的なリピートです。
いつものお店でいつものラーメンを食べる。いつもの消耗品を発注する。
同じ商品を同じ目的で繰り返し買ってもらうパターンを指します。
しかし、これだけでは心もとない面があります。
なぜなら、人には新しいものを試してみたいという本能があるからです。
隣に新しいラーメン屋ができたから行ってみよう。
あっちの業者がキャンペーンをやっているから変えてみよう。
横のリピートだけでは、お客様は簡単に他へ移ってしまいます。
価格競争に巻き込まれやすいのもこの層です。
縦の軸である用途の広がり
ここからが経営の腕の見せどころになります。
同じ商品を、これまでとは違う目的や場面で買っていただくという考え方です。
たとえば、おいしいパン屋さんがあるとしましょう。
普段は自分たちの朝食用として買っているお客様の目につくように、こんなPOPを掲示してみます。
「取引先への手土産にいかがですか。贈り物用セット販売中!」
すると何が起きるでしょうか。
お客様の中で、そのパンの意味が変わります。
それまでは家計の食費から出ていたお金が、会社の交際費や贈答用の予算から出るようになります。
個人の財布よりも会社の経費として使うお金のほうが、心理的なハードルが低くなる傾向があります。
自分用のランチに千円払うのは悩んでも、大事な商談の手土産に三千円払うのは安いと感じる方が多いです。
このように、利用場面や予算の出どころをずらす提案をすることで、お客様一人あたりの売上を大きく伸ばすことができます。
奥の軸である時間に沿ったつながり
そして最も重要なのが、この奥への展開です。
Aを買ったら、次は自然とBが必要になる。そんな時間の流れに沿ったニーズの連鎖を設計するという考え方です。
たとえば、大型テレビを買ったお客様は次に何が欲しくなるでしょうか。
もっと迫力のある音で楽しみたいからホームシアターセットが欲しい。映画を長時間観るために快適に座りたいから専用のソファが必要だ。ブルーレイも観たいからレコーダーを揃えたい。
このように、最初の商品から五番目くらいまで、お客様が次に欲しくなるものを先回りして道筋を作っておきます。
この奥へのリピートが深まれば深まるほど、お客様と御社の関係は強くなっていきます。
なぜかと言うと、ここまで深く付き合っていると、お客様は他社に乗り換えるのが面倒に感じるようになるからです。
今の取引先はうちの好みを全部わかってくれている。
新しい業者にまた一から説明するのは億劫だ。
このような関係を築いていくことこそが、お客様一人から得られる売上を最大化する鍵となります。
なぜルービックキューブ型が強いのか
ルービックキューブのような3方向のリピート構造がなぜ最強なのでしょうか。
それは、人間の心理を味方につけられるからです。
人は得をすることよりも損をすることを強く嫌がると言われています。
その差は二倍以上とも言われます。
サイコロ積みの経営では、お客様が他社に乗り換える際のリスクはほとんどありません。
むしろ、新しい発見が得られるかもしれないという期待があります。
しかし、ルービックキューブのようにがっちりと噛み合った関係においては、他社への乗り換えはリスクになります。
阿吽の呼吸で通じていた担当者との関係がなくなるかもしれない。
他社に乗り換えて失敗したくない。
お客様に、御社との取引をやめることは単なる切り替えではなく、積み上げてきた資産を手放すことだと感じていただければ、価格競争とは無縁の世界に行けます。
これこそが私が目指していただきたい盤石な経営の姿です。
どんなお客様と付き合うべきか
ここまでお話しすると、すぐに全部のお客様にこの3方向のアプローチを仕掛けようと意気込む方もいらっしゃいますが、少しお待ちください。
ルービックキューブを揃えるためには、そもそも形が合うピースが必要です。
すべてのお客様が御社の3方向の構造にフィットするわけではありません。
ここで重要になるのが、理想的なお客様像を明確にすることです。
御社の商品やサービスを最も高く評価してくれるのはどんな方でしょうか。
用途の広がりや時間に沿った連鎖の提案を受け入れてくれる体力やニーズがあるのはどんな会社でしょうか。
ここを明確にせずに手当たり次第に営業をかけるのは、形の合わないピースを無理やり押し込むようなものです。
いずれ壊れてしまいます。
たとえば、安さだけを求めてくるお客様に付加価値の提案をしても、高いからいらないと言われて終わりです。
これは営業の失敗ではなく、相手選びの失敗です。
勇気を持って絞り込む決断をしてください。
御社のリピート構造に合うお客様と、今まさにニーズが高まっているお客様。
この重なる部分にリソースを集中させます。
そうすることで営業効率は上がり、解約率は下がり、結果として利益率は驚くほど改善していきます。
税理士がリピート戦略を語る理由
最後に、なぜ私が税理士という立場でありながら、ここまでリピート戦略の話をするのか。
その理由をお伝えさせてください。
それは、リピートによる売上こそが、社長に未来への投資をさせる原資になるからです。
毎月、今月の売上はどうなるだろうと不安を抱えている状態で、大胆な設備投資ができるでしょうか。
優秀な人材を高い給与で採用できるでしょうか。
足元がぐらついているときには、どうしても縮こまるしかありません。
しかし、ルービックキューブのように強固なリピート構造があり、来月も再来月もこれくらいの入金は確実にあるという見通しが立っていれば、話は変わってきます。
今のうちに新しいシステムを導入しよう。
社員に決算賞与を出して還元しよう。
赤字覚悟で全く新しい事業の種をまこう。
このように、経営の視点が目の前の生き残りから将来の成長へとシフトしていきます。
これこそが本当の意味での強い会社です。
節税についても同じことが言えます。
突発的に出た利益を慌てて消すような節税は、ただの浪費になりがちです。
しかし、安定したリピート収益に基づいた計画的な節税は、会社の財務体質を筋肉質に変えていきます。
今日からできる最初の一歩
御社のビジネスモデルを、もう一度点検してみてください。
新規獲得のために、膨大なコストと労力を払い続けていないでしょうか。
既存のお客様に対して、同じものを売る以外の提案ができているでしょうか。
そもそも、御社にとっての理想のお客様は誰か、言葉にできているでしょうか。
リピートの設計をすることで、売上という数字は同じでも、その質は全く違うものになるはずです。


