決算前の駆け込み出費、それ本当に「節税」ですか? 税理士が見てきた「お金が消える会社」の共通点

目次

「税金を払うくらいなら、何か買ってしまおう」という発想の落とし穴

決算が近づくと、こんな会話が社内で交わされることはありませんか。

「このままだと利益が出すぎてしまう。税金で持っていかれるくらいなら、今のうちに何か経費で使ってしまおうか」

慌てて備品を購入したり、接待を増やしたり、とにかくお金を使って利益を圧縮する。
そして決算を終えると、なんとなくホッとした気持ちになる。

もし、これが貴社の節税スタイルだとしたら、少し立ち止まって考えていただきたいことがあります。

その支出は、本当に会社のためになっているでしょうか。

税理士として多くの中小企業を見てきた経験から申し上げると、節税のつもりで行った出費が、結果的に会社の体力を奪っているケースは決して珍しくありません。
税金を減らすことだけに意識が向いてしまうと、大切な視点を見失ってしまうことがあります。

本当の節税とは何か ── 手元のお金を増やすことが目的です

ここで、節税という言葉の意味をあらためて整理させてください。

本記事では、節税を「納税額を減らし、結果として手元の現金を増やすこと」と定義します。

この定義に照らすと、たとえ税金の支払いが減ったとしても、それ以上のお金が会社から出ていってしまえば、手元のお金は減っています。
将来的にその支出が何らかの形で回収できる見込みもないのであれば、それは節税とは呼べません。単なる浪費にすぎないのです。

少し厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、ここをあいまいにしたままでは、いつまでも「節税したのにお金が残らない」という状態から抜け出せなくなってしまいます。

節税には「種まき」と「収穫」という構造が欠かせません

では、手元のお金を増やす節税とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

大切なのは「種まき」と「収穫」という考え方です。

今期に使った経費が「種まき」となり、来期以降に「収穫」として戻ってくる
つまり、今期の支出が将来それ以上の現金を生み出す見込みがあるかどうか。この視点で経費を見つめ直すと、どの支出が本当の節税で、どの支出が浪費なのかが見えてきます。

この「種まき」には、大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは利益に直接つながる「直接投資型」、もう一つは組織の土台を強くする「土壌改良型」です。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

直接投資型の節税 ── 利益を生むための種をまく

直接投資型とは、その支出が将来の利益を直接的に生み出すタイプの経費です。
いわば、収穫に直結する種をまくイメージになります。

具体的にはどんな支出でしょうか

代表的なものとしては、広告宣伝費があります。
新規顧客を獲得するためのWeb広告やチラシ、展示会への出展費用などがこれにあたります。

また、生産設備への投資も該当します。
新しい機械を導入することで生産効率が上がり、より多くの製品を作れるようになったり、品質が向上して単価を上げられるようになったりすれば、その投資は将来の売上増加に直結します。

業務効率化のためのシステム導入も同様です。
人手で行っていた作業を自動化することで、従業員がより付加価値の高い業務に時間を使えるようになれば、会社全体の生産性が向上していきます。

収穫のイメージを具体的に描いてみましょう

たとえば、広告費として100万円を投じたとします。この支出によって今期の利益は圧縮され、税金の支払いは確かに減るでしょう。

しかし、それだけでは節税とは言えません。大切なのはその先です。

来期以降、その広告を見た新規顧客からの注文が入り、300万円の粗利が生まれたとしたらどうでしょうか。
100万円の支出に対して300万円のリターン。差し引き200万円のプラスです。
税金を減らしながら、同時に将来の利益も確保している。これこそが、手元のお金を増やす王道の節税です。

御社の広告費は、来期どれくらいの売上につながる見込みがありますか。

土壌改良型の節税 ── 組織の力を底上げする

もう一つのタイプは、土壌改良型です。
こちらは直接利益を生むわけではありませんが、従業員のモチベーションやチームの結束力といった組織の「土壌」を豊かにし、間接的に会社の利益につなげていく支出になります。

具体的にはどんな支出でしょうか

たとえば、決算賞与があります。
頑張った従業員に対して報いることで、来期以降もモチベーション高く働いてもらうための投資と考えることができます。

社員旅行や福利厚生の充実も該当します。
日常の業務を離れて同僚と過ごす時間は、チームワークを深めるきっかけになりますし、働きやすい環境を整えることは優秀な人材の定着につながります。

取引先との交際費も、良好な関係を維持し、ビジネスを円滑に進めるための土壌づくりの一環といえるでしょう。

収穫のイメージはこのように考えます

土壌改良型の支出は、効果が見えにくいという特徴があります。
しかし、だからといってリターンを考えなくてよいわけではありません。

たとえば、充実した福利厚生によって従業員の満足度が上がり、離職率が下がったとしましょう。
新しい人を採用して一人前に育てるまでには、求人広告費、面接にかける時間、研修期間中の生産性低下など、目に見えにくいコストがたくさんかかっています。
離職を防ぐことで、こうした採用・育成コストを削減できるのです。

あるいは、社員旅行でチームの親睦が深まり、部署間の連携がスムーズになったとします。
それまで縦割りで進まなかったプロジェクトが動き出せば、それは明らかに会社の利益につながっています。

土壌改良型の節税が正当化されるのは、このように「投じた経費以上のリターンが見込めるシナリオ」を描ける場合に限られます。

ここが分かれ道 ── 「浪費」と「否認」という二つの落とし穴

さて、ここまで読んでいただいて、「うちの経費は大丈夫だろうか」と感じ始めた方もいらっしゃるかもしれません。実際、この「種まき」の視点を持たない支出には、二つの大きなリスクが潜んでいます。

落とし穴その1 ── リターンのない支出は「浪費」です

最初に認識していただきたいのは、収穫が見込めない支出は、たとえ経費として計上できたとしても、それは会社にとって浪費であるという点です。

たとえば、従業員のモチベーションアップを名目に飲み会を頻繁に開催しているとしましょう。
もちろん、適度な親睦の機会は組織にとってプラスに働くことがあります。

しかし、その飲み会が翌日以降の業務パフォーマンスにまったく良い影響を与えていないとしたらどうでしょうか。
チームの結束力が高まるわけでもなく、新しいアイデアが生まれるわけでもなく、ただなんとなく続いているだけ。

この場合、会社のお金は単に流出しただけです。
税金の支払いは確かに減りましたが、それ以上に現金が減っています。手元のお金が減っている以上、これは節税の定義から明らかに外れてしまっています。

そして厄介なのは、こうした浪費が習慣化すると、経営体力がじわじわと削られていくことです。
一回一回は小さな金額でも、積み重なれば大きなダメージになります。

落とし穴その2 ── 説明できなければ「否認」されます

もう一つ、特に土壌改良型の支出で注意していただきたいのが、税務調査における否認リスクです。

土壌改良型の経費は、その性質上、私的な支出との境界線があいまいになりがちです。
税務署もそこはよく心得ていて、この領域は厳しくチェックされる傾向にあります。

たとえば、取引先との会食費用。これが本当にビジネス上必要な支出だったのか、それとも単なる友人との食事だったのか。接待ゴルフの費用は、商談を進めるために不可欠だったのか、それとも経営者個人の趣味の延長だったのか。

「なぜその支出が事業の成長に必要だったのか」「将来どのような形で会社の利益につながると考えていたのか」という問いに対して、論理的に説明できなければ、その経費は否認される可能性があります。

経費として認められなければ、その分の税金を追加で支払うことになります。
さらに延滞税や加算税といったペナルティも上乗せされるため、結果として当初納めるはずだった税金よりも多くの支払いが発生してしまうのです。

これでは節税どころか、まったくの逆効果になってしまいます。

では、どのように考えればよいのでしょうか

ここまで少し厳しいことをお伝えしてきましたが、決して「経費を使うな」と言いたいわけではありません。

お伝えしたいのは、経費を使う前に「投資対効果」を考える習慣を持っていただきたいということです。

一つの問いを自分に投げかけてみてください

何かの支出を検討するとき、こう自問してみてはいかがでしょうか。

この経費は、来期以降に支払った金額以上の現金を会社にもたらしてくれるだろうか。

直接売上につながるのか。それとも、組織の土壌を改良して間接的にリターンを生むのか。
いずれにしても、「収穫」の具体的なイメージが描けるかどうか。ここが判断の分かれ目になります。

もし収穫のイメージがまったく浮かばないのであれば、その支出は見送ったほうがよいかもしれません。
税金を払ってでも手元に現金を残しておくほうが、会社の将来にとってはプラスになることも多いのです。

税金を払うことは、必ずしも損ではありません

ここで一つ、発想を転換していただきたいことがあります。

税金を払うということは、その分だけ利益が出ているということです。
利益が出ているということは、事業がうまくいっている証拠でもあります。

もちろん、合法的な範囲で税負担を軽減することは、経営者として当然考えるべきことです。
しかし、税金を払いたくないがために、リターンのない支出をしてしまっては本末転倒です。

たとえば、100万円の利益に対して30万円の税金を払えば、手元には70万円が残ります。
一方、税金を減らすために100万円をすべて使ってしまえば、手元に残るのはゼロです。
どちらが会社のためになるかは明白ではないでしょうか。

戦略的な支出で、会社の未来をつくっていきましょう

あらためて整理すると、本当の意味での節税とは納税額を減らしながら、手元の現金を増やすことです。

そのためには、すべての支出を「種まき」として捉え、来期以降にどのような「収穫」が得られるかを具体的にイメージすることが大切になります。

直接投資型であれ土壌改良型であれ、投資対効果のストーリーを描けない支出は、どれほど名目が立派でも浪費にすぎません。
そして、浪費を繰り返すことは、自ら会社の寿命を縮める行為に他なりません。

逆に言えば、この視点を持って経費を吟味できるようになれば、一つひとつの支出が会社の成長を後押しする力に変わります。
節税と成長を両立させることが可能になるのです。

決算が近づいて「何かに使わなければ」と焦る気持ちはよくわかります。
しかし、そんなときこそ一度立ち止まって考えてみてください。

その支出は、来年の御社に何を返してくれるでしょうか。

この問いに自信を持って答えられる支出だけを選んでいくこと。
それが、中小企業の経営者にとって最も賢い節税の在り方だと私は考えています。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
もっと会社にお金を残したい社長へ。利益最大化と合理的節税で通帳残高を増やす、ご機嫌な未来志向の経営をサポートしています

【執筆税務論文】
組織再編税制に係る行為計算否認規定の解釈とその適用

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