退職金にかかる税金の計算方法|経営者なら押さえておきたい3つのポイント

目次

はじめに|退職金の手取り額、把握できていますか?

長年会社に貢献してくれた社員に支払う退職金。あるいは、ご自身がいつか受け取る退職金。
その金額がそのまま手元に届くわけではないことは、多くの経営者の方がご存じかと思います。

退職金には税金がかかります。
そして、その税金の計算方法を正しく理解しているかどうかで、実際の手取り額に大きな差が生まれることがあります。

とはいえ、税金の計算と聞くと身構えてしまう方もいらっしゃるでしょう。
ご安心ください。退職金の税金は、ポイントさえ押さえれば決して難しいものではありません。

この記事では、退職金にかかる税金の仕組みと計算方法を、経営者向けに3つのステップでわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、退職金の税金について正しい知識を身につけてください。

退職金の税金計算|まずはこの基本式を押さえましょう

退職金にかかる税金を計算するうえで、すべての土台となるのが次の式です。

(退職金の収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2 = 課税退職所得金額

この式のポイントは2つあります。

1つ目は、退職所得控除額です。
これは、長年働いた功労に報いるために国が設けた、税負担を大きく軽減してくれる仕組みです。
いわば特別な割引枠のようなもので、この金額が大きいほど税金は少なくなります。

2つ目は、1/2をかけるという点です。
控除額を差し引いた後の金額を、さらに半分にして計算できます。
給与所得などと比べて、退職金の税負担が軽くなっている理由はここにあります。

では、この控除額はどのように決まるのでしょうか。
実は、勤続年数によって計算方法が変わります。

勤続年数20年が大きな分かれ目|退職所得控除額の計算方法

退職所得控除額は、勤続年数をもとに計算します。そして、その計算方法は勤続年数が20年以下か、20年を超えるかで大きく異なります。

勤続年数が20年以下の場合

勤続年数が20年以下の場合、計算式は次のとおりです。

40万円 × 勤続年数 = 退職所得控除額

ここで注意したいのが、勤続年数の端数の扱いです。
1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。
たとえば、10年と1日であっても、勤続年数は11年となります。

具体例として、勤続年数が10年2か月の場合を計算してみましょう。
端数を切り上げて11年となりますので、控除額は40万円×11年=440万円となります。

なお、計算結果が80万円に満たない場合は、80万円が最低保証額として適用されます。

勤続年数が20年を超える場合

勤続年数が20年を超えると、計算式が変わり、より優遇される仕組みになります。

800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) = 退職所得控除額

この式は、まず勤続20年分で800万円を確保し、それに加えて20年を超えた年数については1年あたり70万円を上乗せしていく構造になっています。

たとえば、勤続年数が30年の場合、控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円となります。

勤続年数別の控除額計算例

勤続年数による控除額の違いを計算してみました。

勤続年数別控除額の例

10年:40万円×10年=400万円
20年:40万円×20年=800万円
30年:800万円+70万円×10年=1,500万円
40年:800万円+70万円×20年=2,200万円

20年を境に、控除額の増え方が大きく変わることがおわかりいただけるかと思います。

具体例で確認|退職金の税金計算シミュレーション

ここからは、実際の数字を使って税金の計算をシミュレーションしてみます。

例1:勤続15年、退職金1,000万円の場合

  • ステップ1
    退職所得控除額を計算する 勤続年数が20年以下なので、40万円×15年=600万円となります。
  • ステップ2
    課税対象となる金額を計算する 基本式に当てはめると、(1,000万円-600万円)×1/2=200万円となります。
    この200万円が、税金の計算対象となる金額です。
  • ステップ3
    200万円に対する税額は、所得税等104,600円、住民税200,000円です。

例2:勤続35年、退職金2,500万円の場合

  • ステップ1
    退職所得控除額を計算する 勤続年数が20年を超えているので、800万円+70万円×15年=1,850万円となります。
  • ステップ2
    課税対象となる金額を計算する 基本式に当てはめると、(2,500万円-1,850万円)×1/2=325万円となります。
  • ステップ3
    この325万円に対する税額は、所得税等232,200円、住民税325,000円です。

注意が必要なケース|1/2が適用されない場合

退職金の税金計算では、1/2をかけることで税負担が軽減されますが、この優遇措置が適用されない例外があります。
役員も従業員も勤続年数5年が分かれ道になるとを覚えておきましょう。

勤続5年以下の役員の場合

勤続年数が5年以下の役員が受け取る退職金は、1/2の優遇措置が適用されません。
対象となる役員は、取締役や監査役などです。

該当する可能性がある場合は、税額が通常より高くなる点にご注意ください。

勤続5年以下の従業員の場合

役員以外の方でも、勤続年数が5年以下で退職した場合、計算方法が変わることがあります。

具体的には、退職所得控除額を差し引いた後の金額が300万円を超える部分については、1/2の措置が適用されません。短期間の勤務で高額な退職金を受け取る場合の税負担を調整するためのルールです。

確定申告は必要?|申告書の提出で手続きを簡単に

退職金の税金について、確定申告が必要かどうか気になる方も多いでしょう。
結論から申し上げると、ほとんどの場合、確定申告は不要です。

ポイントとなるのが、退職所得の受給に関する申告書という書類です。
この書類を退職金が支払われる前に会社に提出しておくと、会社が正しい方法で税額を計算し、源泉徴収を行ってくれます。
その結果、ご自身で確定申告をする必要がなくなります。

逆に、この書類を提出しなかった場合は、退職金の額面に対して一律20.42%という高い税率で源泉徴収されてしまいます。払い過ぎた税金を取り戻すには、後から確定申告が必要になりますので、忘れずに提出するようにしましょう。

まとめ|退職金の税金で押さえておきたい3つのポイント

この記事の要点を3つにまとめます。

第一に、退職金の税金は(収入-控除額)×1/2が基本です。
この式を覚えておけば、計算の流れが理解しやすくなります。

第二に、控除額は勤続年数が20年以下か20年超かで大きく変わります。
長く勤めるほど控除額が増え、税負担が軽くなる仕組みになっています。

第三に、退職所得の受給に関する申告書を事前に提出すれば、原則として確定申告は不要です。
手続きの負担を減らすためにも、忘れずに提出しましょう。

退職金の税金の仕組みは、ポイントを押さえれば決して難しくありません。この記事が、皆様の会社経営やライフプランの参考になれば幸いです。


【免責事項】
本記事は2025年12月時点の税制に基づいて作成されています。
税制は随時改正されるため、実際の適用にあたっては最新の情報を確認し、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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