節税保険で安心していませんか? 800万円が1円も減らず戻る倒産防止共済を先に使うべき本当の理由

決算月が近づいてくると、少しソワソワしませんか。
今期は予想以上に利益が出そうだ。
嬉しい反面、このままでは税金がかなり持っていかれてしまう。
そんな焦りを感じ始めた絶妙なタイミングで、まるで心を読んだかのように銀行員や保険の営業担当者が訪ねてきます。
「社長、今年の利益対策に法人保険はいかがですか? 掛金が経費になって、将来は退職金の準備にもなりますよ」
この提案を聞くと税金を減らしながら将来の備えもできる一石二鳥に思えるかもしれません。
しかし、25年にわたって500件以上の決算を手がけてきた税理士として、はっきりお伝えしたいことがあります。
あなたの会社がまだ倒産防止共済(経営セーフティ共済)の上限800万円まで積み立てを終えていないなら、民間保険での節税は後回しにしてください。
これは個人的な好みではなく、会社の現金を最大限に守るための合理的な結論です。
なぜそこまで倒産防止共済をおすすめするのか、民間保険とはどう付き合うべきなのか、今回はその理由をできるだけ分かりやすくお話しします。
民間の節税保険は、もう昔ほどお得ではありません
まず、法人向けの生命保険、いわゆる節税保険の現状を整理しておきましょう。
少し前まで、法人保険は中小企業の利益対策として人気がありました。
保険料が経費になり、数年後にはほぼ100%のお金が解約返戻金として戻ってくる。
そんな夢のような商品が実際に売られていた時代があったのは事実です。
ところが国税庁がこの流れを問題視し、税務ルールを何度も厳しく改正しました。
その結果、いま販売されている保険商品の多くは、かつてほどの節税メリットを持っていません。
現在の仕組みを簡単に説明しましょう。
経費として認められる割合を大きくしようとすると、解約時に戻ってくるお金(返戻率)はせいぜい70~80%台前半にとどまります。
逆に、返戻率がほぼ100%の手堅い商品は、経費に計上できる金額が少なく設定されているのが実情です。
ここで少し立ち止まって考えてみてください。
税金を払うのが嫌だからと保険に入り、結果的に掛金の20%が消えてしまうとしたら、それは本当にお得な選択でしょうか。
保険会社にも運営コストがかかるので、保険料から手数料や保障コストが差し引かれるのは仕方のないことです。
ただし、純粋にお金を貯める箱として見た場合、民間保険は効率があまり良くない仕組みになっています。
保険はあくまで万が一のリスクに備えるものであって、現金をプールする手段としての役割は薄れていると言わざるを得ません。
倒産防止共済はなぜ優秀なのか
では、私が最優先で活用すべきだとお伝えしている倒産防止共済とは、どんな制度でしょうか。
正式名称は経営セーフティ共済といい、国の機関である中小企業基盤整備機構が運営する公的な共済です。
そのスペックを見ると、民間保険との差は歴然としています。
掛金の全額がそのまま経費になります
民間保険のような複雑な計算は一切いりません。
毎月の掛金は最大20万円(年間240万円)で、支払った分がそのまま全額経費として認められます。
さらに、短期前払費用の特例という合法的な方法を使えば、決算直前に翌1年分をまとめて前払いすることも可能です。
これほどシンプルで即効性のある利益対策は、ほかにはなかなか見当たりません。
40か月(3年4か月)で返戻率100%に到達します
ここが民間保険との最大の違いです。
倒産防止共済は加入から40か月が経てば、いつ解約しても積み立てた掛金が1円も減らず全額戻ってきます。
民間保険のように保険会社の運営費や営業コストが差し引かれることはありません。
あなたが支払ったお金は、国の機関にそのままプールされ続けます。
経営者の健康状態を問われません
生命保険では、経営者の年齢や病歴によって保険料が大幅に上がったり、加入を断られたりすることも珍しくありません。
一方、倒産防止共済は会社の業歴が1年以上あるなどの簡単な条件を満たせば、経営者の健康状態に関係なく加入が可能です。
銀行からの評価にもプラスに働きます
もうひとつ見逃せないポイントがあります。
倒産防止共済の積立金は決算書の表面上は経費として消えますが、裏側では100%の現金がしっかり貯まっている状態です。
銀行はこの簿外資産(決算書に載らない隠れた財産)の存在をきちんと把握しているため、上限まで積み立てている企業は信用評価が高まり、融資条件が有利になるケースもあります。
お金が必要になったとき差が出ます
会社経営で本当に怖いのは、利益が出たときの税金よりも、売上が落ち込んで資金繰りに追われる瞬間です。
突然まとまった現金が必要になったとき、民間保険と倒産防止共済では対応力に大きな差が出ます。
民間保険で急な資金が必要になると
契約者貸付という仕組みを使って、解約返戻金の範囲内で保険会社からお金を借りることは可能です。
しかし金利は意外と高めに設定されています。
加入から数年しか経っていなければ解約返戻金自体が少なく、十分な金額を確保するのが難しいかもしれません。
耐えきれず解約すれば、大きく元本割れしてしまうでしょう。
倒産防止共済なら低金利でスピーディーに対応できます
倒産防止共済には一時貸付金という仕組みが用意されています。
積み立てた解約手当金の95%を上限に、審査なし・最短数日で現金を受け取れるのが特徴です。
しかも令和6年時点の金利は0.9%程度と、非常に低い水準に抑えられています。
すばやく低金利で現金を補充できるこの安心感こそ、私が中小企業の経営者にこの制度を強くおすすめする最大の理由といえます。
あなたの会社には、いざという時にすぐ動かせるお金がどれくらいあるでしょうか。
加入からわずか3年半ほど我慢すれば、元本割れの心配がなくなり、同時にいつでも低金利で引き出せる予備資金が完成します。
正しい使い分けの考え方
ここまで倒産防止共済の優位性をお伝えしてきましたが、民間保険がまったく不要かといえば、そうではありません。
大切なのは、使う順番と目的を間違えないことです。
倒産防止共済には、累計800万円までしか積み立てられないという上限があります。
順調に利益を出している企業であれば、数年で上限に届いてしまうかもしれません。
民間保険の出番は、この800万円の枠を使い切った後にやってきます。
あるいは、節税とは関係なく、純粋にリスクへ備える場面で活用するのが正しい考え方でしょう。
経営者の死亡リスクには掛け捨ての生命保険が合理的です
経営者に万が一のことがあった場合、借入金の返済、従業員の給与、遺族への退職金など、一度に多額の現金が必要です。
手元の資金だけではまかなえない事態に備えるには、掛け捨ての定期保険で大きな保障額を確保するのが合理的でしょう。
これは節税のためではなく、残された会社と家族を守るための純粋なコストとして割り切ることが大切です。
つまり、まず倒産防止共済で800万円を経費に落としながら積み立てる。
それが完成してから、共済だけではカバーしきれない特定のリスクに対して民間保険をピンポイントで使う。
この順番を守ることが、手元資金を最大限に守りながらリスクにも備える正しい方法です。
まとめ
経費になるからという理由だけで、仕組みをよく理解しないまま民間保険に年間何百万円も払い続けている状態は、実は会社の体力を少しずつ奪っているかもしれません。
令和6年の税制改正によって、倒産防止共済を短期間で解約・再加入を繰り返すような節税テクニックは使えなくなりました。
しかし、この制度が持つ本質的な強み、つまり100%戻ってくる簿外資産の形成と、緊急時の資金調達機能は何ひとつ損なわれていません。
会社を本当に守れるのは、いざという時に自由に動かせる現金です。


