なぜ、新規開拓に必死なのに売上が安定しないのか? 経営者が見落としがちな「売上の方程式」の正しい使い方

はじめに ── あなたのビジネスに羅針盤はありますか?
日々の業務に追われていると、つい目の前の仕事をこなすことだけで精一杯になってしまいます。
新規のお客様を増やさなければ、売上を伸ばさなければ。
そんな焦りを感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。
でも、ふと立ち止まって考えてみてください。
売上はどのような仕組みで成り立っているのか、その構造を正しく理解しているでしょうか。
今回ご紹介する売上の方程式は、ビジネスを正しく導く羅針盤となってくれます。
売上 = 客数 × 客単価
ただし、これだけでは静的な姿に過ぎません。
継続的な成長を実現するためには、もう一つの重要な要素を加える必要があります。
それが購買頻度、つまりリピートです。
売上 = 客数 × 客単価 × 購買頻度
この3つの要素を理解し、それぞれを育てる仕組みを構築することが、ビジネス成功への確かな第一歩となります。
売上を分解する ── ビジネスを動かす3つの歯車
売上の方程式は、ビジネスを動かす3つの独立した歯車だと考えてみてください。
客数は、商品やサービスを購入してくれるお客様の総数です。
客単価は、お客様一人が一度の買い物で支払う平均金額を指します。
購買頻度は、お客様が繰り返し購入してくれる回数、いわゆるリピートを意味します。
ビジネスを始めると、多くの人がまず客数を増やすことに全力を注ぎます。
しかし一つの歯車だけを無理に回そうとすると、やがて全体が軋み始めてしまいます。
安定したビジネスを築くためには、3つの歯車をバランス良く育てることが何よりも大切です。
ビジネス安定の心臓部 ── リピートを生み出す3つのパターン
新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍から10倍かかると言われています。
限られたリソースで戦う中小企業にとって、リピートの促進がいかに重要かがお分かりいただけるでしょう。
リピートには3つの異なるパターンが存在します。
同経験のリピート
同じ商品を同じ目的で再度購入するパターンです。
お気に入りのラーメン屋で毎回同じラーメンを注文するケースがこれに当たります。
意外かもしれませんが、このパターンは維持が難しいという特徴があります。
お客様の心には「もっと美味しいものがあるかもしれない」という心理が常に働いているからです。
異経験のリピート
同じ商品を異なる目的で購入するパターンです。
自宅用に購入したテレビを気に入り、今度はお子さんの引越し祝いにプレゼントするようなケースがこれに該当します。
自己用と贈答用、個人向けと法人向けなど、異なる使い方を提案することがポイントです。
時系列のリピート
ある商品Aを購入した後に、関連する商品Bを購入するパターンです。
高画質なテレビを購入した後、ホームシアターセットを買い足すようなケースを想像してみてください。
お客様が商品購入後にどんな行動をとるかを予測し、関連商品やサービスを提供することが鍵となります。
パン屋が紅茶教室を始めて売上4倍に
特に注目すべきなのが時系列のリピートです。
私が聞いたあるパン屋さんの実例をご紹介しましょう。
当初このお店ではポイントカードを活用していましたが、なかなかお客様が定着しませんでした。
そこで発想を転換したのです。
「パンを買ったお客様は、次に何をするだろう?」と考えました。
答えは「パンを食べる」です。
ここから発想を広げ、パンを美味しく食べるための紅茶教室を開催することにしました。
これが大成功を収め、高級茶葉の販売やアフタヌーンティー教室へと展開していきました。
パン屋が紅茶教室を開く。
多くの人が無意識に作ってしまう業種の壁を越えた結果、売上はなんと約4倍にまで成長したのです。
リピートの本当の理由
お客様がリピートしてくれる本当の理由をご存知でしょうか。
品質や人柄も関係していますが、実は後付けの理由であることが多いのです。
一番の理由は「面倒くさいから」です。
他のお店を調べたり試したりするのは面倒だから、いつものお店でいいやとなってしまいます。
先ほどのパン屋さんは、パンから紅茶まで全て一箇所で揃えられるようにすることで、この心理を上手く活用したのです。
仕組みで新しいお客様を呼び込む ── 4ステップの新規開拓術
リピートの仕組みが整ったら、次は新規開拓を仕組み化しましょう。
ステップ1:認知
考えられる全てのメディアで一貫した情報発信を続けることが第一歩です。
「一つのメディアで100人に売る」ではなく、「100のメディアで一人ずつに売る」というイメージを持つことが大切です。
ステップ2:納得
同じことを様々なメディアで繰り返し発信し続けましょう。
人は何度も同じメッセージに触れると、「この人は本物かもしれない」と感じ始めます。
継続的な情報発信が信頼を生み出すのです。
ステップ3:想起
お客様が商品・サービスを「欲しい」と思ったときに思い出してもらえる存在になるためには、
接触頻度を増やすか、強烈な印象を残すことが必要です。
たとえば意外性やギャップのあるキャラクターは記憶に残りやすくなります。
ステップ4:自己投影
買い方や使い方を具体的に示し、お客様の声を積極的に活用しましょう。
「自分にもうまく使えるだろうか」という不安を取り除くことで、購入後の成功イメージを描いてもらえます。
成功への最短ルート ── 取り組むべき正しい順番
ビジネスを成長させたいとき、多くの経営者が「まずは新規開拓だ」と考えます。
しかし、これは非常に危険な落とし穴です。
成功確率を高める理想的な順番は以下の通りです。
第一優先:リピート促進の仕組みを作る
お客様が一度来店したら、次もその次もあなたのビジネスに関わり続けてくれる流れを設計します。
第二優先:新規開拓の仕組みを作る
リピートの受け皿ができた後で、その仕組みの中へお客様を導き入れる戦略を練ります。
第三優先:客単価向上の仕組みを組み合わせる
全体の流れができた上で、クロスセルなどの施策を加えていきます。
リピートの仕組みがないまま新規開拓に走ると、常に新規開拓に追われて既存顧客のフォローが疎かになります。
いわば忙しいけれども儲からないという悪循環です。
まずはダムを作り(リピート設計)、そこに新しい水を注ぐ(新規開拓)。
この順番を間違えないでください。
【応用編】お客様をファンに変える心理学
顧客満足の落とし穴
「顧客満足度を高めればファンになってくれる」と多くの人が信じていますが、ここには落とし穴があります。
喉が渇いた状態で自動販売機を見つけ、冷たい水を飲み干したとしましょう。
ニーズは満たされました。
でも、その自販機のファンになったでしょうか。
ニーズを満たすのは当たり前のことであり、そこから生まれる顧客満足度はゼロです。
ニーズを満たすだけでは、お客様はファンにはならないのです。
お客様の感情には3つの階層がある
では本当の顧客満足はどこから生まれるのでしょうか。
お客様の感情を3つの階層で捉えてみましょう。
ニーズは手に入れたいモノです。「ドリルが欲しい」(Have)という気持ちがこれに当たります。
ウォンツはやりたいコトを指します。「穴を開けたい」(Do)という目的です。
ウィッシュは実現したい状態やありたい姿を意味します。「家族と居心地のいい時間を過ごしたい」(Wish)という願いです。
このウィッシュこそが顧客満足の源泉です。
ウィッシュを発見する魔法の質問
お客様から価格や納期について質問されたとき、すぐに「できます」「できません」と答えないでください。
できる、できないの後に続くのは条件交渉です。
もはやウィッシュの入り込む余地がありません。
そうではなく、こう尋ねてみましょう。
どうされましたか?
たとえば「この納期、間に合いますか?」と聞かれたときに「どうされましたか?」と返すと、お客様は「実はクライアントのイベントで使うことになって…」とその背景を語り始めてくれます。
その背景の中にお客様が実現したい姿が隠されています。
その実現したい姿に共感し、実現に資する商品・サービスを提案しましょう。
まとめ ── 明日から実践できること
今回お伝えした内容で最も重要なポイントを3つにまとめます。
売上は客数、客単価、購買頻度という3つの歯車の掛け算で成り立っています。
どれか一つだけでなく、バランス良く育てることが大切です。
ビジネスを安定させるには、新規開拓よりも先にリピートの仕組みから作りましょう。
順番を間違えると、忙しいのに儲からないという状況に陥ってしまいます。
本当の顧客満足は、表面的なニーズの奥にあるウィッシュに寄り添うことで生まれます。
「どうされましたか?」という一言から、その扉を開くことができます。
あなたのお客様が商品を買った後、次にどんな行動をするか5つ考えてみてください。
そこから、あなたのビジネスの新たな可能性がきっと見えてくるはずです。


