売上は過去最高なのに通帳残高が増えない…その原因は新規客の追いすぎかもしれません

はじめに:決算書が教えてくれる会社の本当の姿
私は日々、中小企業の決算書と向き合っています。
決算書というのは正直なものです。
社長がどれだけ今年は忙しかった、売上は過去最高だと胸を張っても、損益計算書の営業利益と貸借対照表の現預金を見れば、その会社の本当の健康状態がわかってしまいます。
ここ数年、ある相談が急増しています。
「売上は伸びているのに、手元にお金が全然残らないんです。むしろ、資金繰りは以前より苦しくなっています」
決算書を見れば、理由は明白でした。
売上総利益は増えている。
しかし、それ以上に販売費及び一般管理費、特に広告宣伝費と採用教育費が膨れ上がっていたのです。
実は、お金が残らない大きな原因のひとつは、新規顧客獲得に依存しすぎていることにあります。
もちろん、創業期であれば新規獲得は生命線です。
しかし、ある程度事業が回っている段階で、既存のお客様を蔑ろにし、高いコストを払って新規客を追いかけ続ける経営は、財務的に見れば危険と言わざるを得ません。
今回は、なぜ新規顧客ばかり追う会社は利益が出ないのか。
その財務的な構造と、そこから脱却するための方法について解説していきます。
新規獲得コストは利益を食い尽くすほど高騰している
1:5の法則が示す現実
マーケティングの世界には、古くから1:5の法則という言葉があります。
これは、新規顧客に商品を販売するコストが、既存顧客に販売するコストの5倍かかるという経験則です。
しかし、調査会社が示す最新のデータでは、この比率は1:5どころではありません。
業種によっては1:10や1:16にまで広がっています。
なぜこれほど広がっているのでしょうか。
理由はシンプルで、市場環境が激変したからです。
どの業界も競合だらけになり、Web広告の入札単価は年々上がり続けています。
さらに、情報過多により消費者は広告を無視するスキルを身につけてしまいました。
数字によるシミュレーション
簡単にシミュレーションしてみましょう。
A社は常に新規客を追い求めている会社、B社は既存客との関係を重視している会社です。
どちらも1万円の商品を売るとし、粗利率は50%とします。
A社の場合、昨今の高騰した広告費を考えると、新規客を一人獲得するコストに4,000円かかることは珍しくありません。
売上10,000円から原価5,000円と広告費4,000円を引くと、残る利益はわずか1,000円です。
一方、B社の場合はどうでしょう。
一度信頼関係のできた既存客であれば、LINE一通やメルマガ一通で購入してもらえることがあります。
コストは仮に500円としましょう。
売上10,000円から原価5,000円と販促費500円を引くと、残る利益は4,500円になります。
同じ売上1万円です。
しかし、残る利益は、A社1,000円、B社4,500円。その差は4.5倍もあります。
これが、売上は上がっているのにお金が残らないという現象の正体です。
A社の社長は、B社の4.5倍働いて、やっと同じ利益を手にできることになります。
地味な作業の積み重ねが最強の利益を生む
リピーター戦略は地味に見えます。
既存のお客様にお礼状を書く、クレーム対応を丁寧に行う、顧客台帳を整理して誕生日にメッセージを送る。
派手な広告キャンペーンに比べて地味で泥臭い作業です。
しかし、この地味な作業の積み重ねこそが、最強の利益を生み出します。
会社を倒産から守るのは過去最高の売上ではありません。手元の現預金です。
そして、その現預金を最も効率よく積み上げてくれるのは、間違いなくリピーターのお客様です。
見落とされがちな組織へのダメージ
新規偏重の経営が及ぼす悪影響は、財務面だけにとどまりません。
実は、組織や従業員にも深刻なダメージを与えています。
新規客対応は従業員を疲弊させる
考えてみてください。
初めて来るお客様と常連のお客様、どちらの対応が大変でしょうか。
新規のお客様は、まだあなたの会社を信頼していません。
商品の使い方も知りませんし、期待値と現実のギャップが起きやすく、クレームが発生する確率も高くなります。
従業員は常に緊張を強いられ、精神的な負荷がかかります。
一方、リピーターのお客様はあなたの会社の常連さんです。
阿吽の呼吸で話が通じ、「いつもありがとう」と感謝の言葉をくれることもあります。
顧客生涯価値という視点への転換
今月の売上ではなくLTVを見る
これまでの経営は、今月いくら売ったかというフローの視点でした。
これからは、一人の顧客が生涯でいくら利益をもたらしてくれるかというLTV(顧客生涯価値)の視点に切り替えてみてください。
たとえば、初回購入で赤字が出ても、その後1年間で3回リピートしてくれれば黒字になるなら、そのビジネスは健全です。
しかし、そのためには2回目、3回目に来てもらうための仕組みが必要になります。
2026年に求められるリピート戦略の本質
リピート戦略というとポイントカードを作ればいいのか、メルマガを送ればいいのかと考える方がいらっしゃいますが、それは本質ではありません。
今、求められているのは所有満足ではなく関係性満足です。
お客様は商品そのものではなく、誰から買うか、どんな体験ができるかにお金を払っています。
具体的には、以下の3つの視点が重要です。
まず、データの活用です。
勘や経験に頼るのではなく、購買データを分析してみてください。
この商品を買った人は3ヶ月後にこの商品を買う傾向があるといったデータがあれば、最適なタイミングで案内ができます。
次に、どうされましたか?という精神です。
商品を売り込むのではなく、顧客の課題に寄り添うことを意識してください。
売るのではなく手伝う。
このスタンスの変化が、顧客をファンに変えていきます。
そして、異経験リピートという発想も大切です。
同じ商品を同じ目的で何度も買ってもらうだけがリピートではありません。
自分用に買ったお客様に、次にギフトで買っていただけるような導線をつくる。法人契約を用意する。
このように別の目的で再来店してもらうルートを設計してみてはいかがでしょうか。
財務体質が大きく変わる
リピーター戦略が軌道に乗ると、決算書が美しくなります。
販管費率が下がり、営業利益率が跳ね上がります。
リピーターの売上は予測しやすいため、キャッシュフローが安定し、資金繰りの見通しが立ちやすくなります。
そして、安定した顧客基盤を持つ会社は、銀行融資の際にも高く評価されます。
おわりに:利益とは感謝の総量である
利益とは何でしょうか。
会計的には収益から費用を引いたものですが、経営的にはお客様からの感謝の総量だと私は考えています。
新規顧客を追いかけ回し、営業力にものを言わせて積み上げた売上に、深い感謝はありません。
一方、既存のお客様を大切にし、深い関係を築き、長く愛用していただいた結果生まれる売上には、感謝が宿っています。
感謝の総量が多い会社ほど、盤石な財務基盤を持っているものです。
新規獲得への過度な依存を断ち切り、リピーターという資産を積み上げる経営へ。
まずは、既存のお客様に目を向けること。そこから、御社の高収益体質への改革を始めましょう。


