リピート客とお金を生む節税で、社長をご機嫌にするキャッシュフロー設計

社長の機嫌を安定させる一番の薬は、売上の安定化とお金を生む節税の組み合わせです。
つまり、会社のお金の流れを設計することにより、社長の機嫌は格段に晴れやかになります。
今回の記事では、社長が自然とご機嫌になれる仕組みの作り方についてご紹介します。
なぜ社長は不機嫌になってしまうのか
社長がイライラしてしまう大きな要因のひとつは、お金の不安です。
来月の入金は、期日通りに入ってくるのだろうか。
ボーナスを払ったあと、通帳がスカスカにならないだろうか。
こうした不安が頭から離れない状態では、どれだけ人格者であっても穏やかでいるのは難しいものです。
不安が強まると、脳はいわゆる決断疲れを起こします。
その結果、面倒なことは先送りにして何もしないか、逆に一発逆転を狙って無謀な勝負に出るか、どちらかの極端な行動に走りやすくなります。
これは、会社のお金を失いかねない危険な状態です。
しかも、社長の不機嫌は毛穴から出る毒ガスのように現場に広がっていきます。
社員は萎縮し、連携が悪くなり、口数も減ります。
お客様もなんとなく居心地が悪いと感じて足が遠のきます。
まさに、売上が減る仕組みが社長の不機嫌からスタートしているのです。
では、どうすればこの悪循環を断ち切れるのでしょうか。
不機嫌の根っこを断つリピート売上の力
この悪循環を断ち切るには、売上の構造を変えてお金の不安を和らげるのが近道です。
ポイントは、毎月の売上がある程度読める事業構造をつくることにあります。
たとえば、顧問契約やサブスク型の商品、定期購入や定期メンテナンス、年間契約や月額保守料など、来月以降の売上があらかじめ予約されている状態を増やしていきます。
リピート売上が積み上がると、さまざまな変化が起こります。
ゼロから売上を作らなければならない月が減ります。最低でもこれくらいは入るという下支えができます。
売上予測が立つので、利益や税金、キャッシュの予測もしやすくなります。
私は経営者の方に、いま何もしなくても自動的に入ってくる月間売上はいくらですか、とよく質問します。
この数字が増えれば増えるほど、社長の表情は穏やかになっていきます。
逆に言えば、この数字が小さいままだと、どれだけ売上総額が大きくても心の安定は得られにくいです。
「うちはリピート売上が生まれる業種じゃない」と初めから諦めている経営者もいます。
しかし、どんな会社であっても、切り口次第で必ずリピート売上を生むことはできます。
思考を停止しないことがご機嫌な経営の第一歩です。
年度初めに決めておくからお金の不安が消えていく
リピート売上がある程度読めるようになったら、次はお金の年間設計に取り組みましょう。
最低限やっていただきたいのは、ざっくりで構わないので、年度初めに売上、利益、税金、税引後キャッシュの年間計画を作ることです。
税引後キャッシュとは、税金を払ったあとに手元に残る現金の増減のことです。
さらに、月次で経営数字をタイムリーに確認し、このペースでいくと今年は利益がいくらくらいで着地しそうかを毎月アップデートしていきます。
こうして利益の着地点が見えれば、設備投資、賞与、給与アップ、社員研修など、大きな支出や節税策を決算前ではなく、年度の早い段階で設計できるようになります。
ここまで来ると、社長の頭の中は大きく変わります。
今年の税金いくらになるんだろう、という漠然とした不安ではなく、この利益水準なら、いつ何に投資すると一番お金が増えるか、という前向きな思考が増えていきます。
この変化は、日々の経営判断の質にも確実に影響してきます。
お金を生む節税にするための4つのフィルター
では、その投資や節税策をどう選べばよいのでしょうか。
ここで必ず押さえてほしいのが、節税のゴールの再定義です。
節税の目的は税金を減らすことではありません。
税金を減らして、手元に残る現金を最大化することです。
この違いは決定的に重要です。
そのうえで、経費を使う前に次の4つを自問してください。
- 将来キャッシュを生む投資かどうか
その支出は、将来の売上や利益につながるでしょうか。 - 生産性や利益率が改善するかどうか
その支出は、業務効率が上がったり、粗利率が改善したりする効果があるでしょうか。 - キャッシュフローを悪化させないかどうか
その支出は、一時的にでも資金繰りを圧迫しないでしょうか。 - 経営戦略との一貫性があるかどうか
その支出は、会社の方向性と合ったものでしょうか。
この4つすべてに「はい」と言えた支出だけを、お金を生む節税と認めるようにしてください。
それ以外は、たとえ経費で落ちても浪費です。
このフィルターを通すだけで、決算前の駆け込み節税による浪費の8割は防げます。
優遇税制を賢く使う
もう一歩踏み込むなら、優遇税制をうまく組み合わせることで、リピート売上を増やす投資と節税を同時に進めることができます。
代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
少額減価償却資産の特例は、30万円未満の資産を年間300万円まで一括で経費にできる制度です。
中小企業投資促進税制は、機械160万円以上やソフトウェア70万円以上などの投資に対して特別償却や税額控除が受けられます。
中小企業経営強化税制は、経営力向上計画の認定を受けることで即時償却や税額控除の適用を受けることができます。
これらを活用すれば、リピート客を増やすための顧客管理システム、生産性を上げる設備、新サービスのための機械やソフトへの投資をしながら、初年度の税金をグッと抑えることができます。
ただし、ここでも大切なのは順番です。
優遇税制はあくまでおまけであり、主役は将来の利益です。
優遇税制があるから買うのではなく、必要だから買う、そしてたまたま優遇が使える、という順序を忘れないでください。
ご機嫌経営を支えるキャッシュフロー設計のゴール
ここまでの話をまとめてみましょう。
社長をご機嫌にするキャッシュフロー設計は、次の順番で進めていきます。
- まず、リピート売上などで毎月の売上が読める事業構造をつくります。
- 次に、年度初めに売上、利益、税金、税引後キャッシュの年間計画をざっくり立てます。
- そして、月次で着地予測を見ながら、投資、賞与、節税策を前倒しで設計します。
- 支出は4つのフィルターを通し、将来お金を生むものだけに絞ります。
- 優遇税制を組み合わせて、ムダなく税負担を軽くしていきます。
この流れが回り始めると、社長の頭の中から今月大丈夫かな、というザワザワが減っていきます。
代わりに、このリピートをあと何件増やそう、この設備に投資すると3年でどれだけお金が増えるか、という前向きなことを考える時間が増えていきます。
その状態の社長から出ているのは、もはや毒ガスではなく、現場を明るくし、社員のパフォーマンスを引き出すご機嫌の空気です。
この空気は伝染します。
社員がイキイキすれば、お客様への対応も良くなり、リピート率も上がる。
こうして好循環が始まります。
今日からできる小さな一歩
最後に、今日からすぐにできることを3つご提案します。
1つ目は、現在のほっといても毎月入ってくる売上がいくらかを紙に書き出すことです。
頭の中でなんとなく把握しているのと、数字として目に見える形にするのとでは、効果がまったく違います。
2つ目は、その売上を1年後にいくらにしたいか、目標金額を書き足すことです。
現状と目標の差を認識できれば、その差を埋めるために何をすべきかが自然と浮かんできます。
3つ目は、大きめの支出をする前に4つのフィルターを声に出してチェックすることです。
頭の中で考えるだけでなく、声に出すことで不思議と判断の精度が上がります。
これだけでも、社長の感情とお金の流れは少しずつ変わり始めます。
仕組みで自然とご機嫌になる経営を
中小企業経営においては、社長の機嫌が業績を左右するのは事実です。
ただし、その機嫌を根性でコントロールする必要はありません。
リピート売上とお金を生む節税という仕組みで、自然とご機嫌になってしまうキャッシュフローをつくる。
それが、私が中小企業の社長にお勧めしたいご機嫌経営の形です。
お金の不安がなくなれば、人は自然と穏やかになります。
穏やかな社長のもとには、良い社員が集まり、良いお客様がリピートしてくれます。
この好循環をつくるのは、社長の精神力ではなく、お金を増やす仕組みです。
ぜひ今日から、小さな一歩を踏み出してみてください。


