節税が会社を弱くする?利益が出てもお金が残らない本当の理由と、正しい借金の考え方

売上は伸びているのに、なぜかお金が残らない──その正体とは
今月も売上は悪くなかったはずなのに、通帳を見るとなぜか残高が増えていない。
経営者の方とお話ししていると、こうした悩みをよく耳にします。
決して経営をサボっているわけではありません。
むしろ一生懸命に売上を伸ばし、利益も出している。それなのに、手元のお金がなかなか増えていきません。
東京商工リサーチの調査によると、倒産原因として最も多く記録されるのは販売不振です。
しかし注目すべきは、直近の決算が黒字であったにもかかわらず倒産に至る、いわゆる黒字倒産が一定数存在しているという事実です。
利益が出ているのに会社が立ち行かなくなる。
この一見矛盾した現象の裏には、お金の流れに対する根本的な誤解があります。
今回は、会社が本当に守るべきものは何なのか、そしてお金が残る会社になるために必要な考え方についてご紹介していきます。
会社が潰れる本当の理由は借金ではない
うちは借金が多いから不安だ、とおっしゃる社長さんがいます。
たしかに借金は少ないに越したことはありません。しかし、会社が潰れる一番の原因は、借金の多さではありません。
会社が倒産する最大の理由は、手元資金の枯渇です。
つまり、支払いに充てるお金がなくなったときに、会社は立ち行かなくなります。
逆に言えば、たとえ借金があっても、手元にしっかりとお金があれば、会社は回り続けることができるのです。
近年は、コロナ禍で多くの企業が利用した実質無利子・無担保融資、いわゆるゼロゼロ融資の返済が本格化しています。加えて、物価高や人手不足によるコスト増も重なり、利益は出ていても資金繰りに行き詰まるケースが増えることが懸念されています。
中小企業白書でも、こうした環境変化への警戒が示されており、手元資金の重要性はかつてないほど高まっていると言えます。
手元資金が厚いと、ビジネスの選択肢が増える
資本主義の原理は、とてもシンプルです。
お金があるから利益が出せるし、利益が出るからお金が増える。この好循環こそが、企業を強くしていきます。
手元資金に余裕がある会社は、さまざまな場面で有利に立つことができます。
たとえば、仕入れの際にまとめ買いによる値引き交渉ができます。
良い立地に空きが出たとき、すぐに決断して押さえることもできます。
優秀な人材を見つけたら、思い切って採用に踏み切れます。
そして何より、銀行からの信頼も得やすくなります。この会社は資金繰りがしっかりしていると見てもらえれば、いざというときの融資もスムーズに進むものです。
このように、手元資金の厚さは選択肢の多さにつながります。そしてビジネスにおいて、選択肢が多いということは、それだけで大きな武器になります。
目標は月商3か月分の現金を手元に置くこと
では、どのくらいの手元資金があれば安心なのでしょうか。
私がお勧めしている目安は、次のとおりです。
最低ライン:月商1か月分
標準ライン:月商2か月分
理想ライン:月商3か月分
財務省の法人企業統計調査によると、中小企業の手元流動性比率、つまり月商の何倍の現預金を持っているかという指標は、平均して約1.8から2.0か月分程度で推移しています。
つまり、3か月分という目標は全企業の平均値を上回る水準であり、不測の事態に備えるための安全性の高い目標値と言えます。
まずはこの数字をゴールの物差しとして持っておいてください。
現状がどのラインにあるのかを把握し、少しずつでも理想に近づけていく。この意識を持つだけで、お金に対する向き合い方が変わってきます。
利益が出ているのにお金が残らない犯人
なぜ利益が出ているのに、お金が手元に残らないのでしょうか。
その犯人は、増加運転資金と呼ばれるものです。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、仕組みはシンプルです。
売上を伸ばそうとすると、次のようなお金が増えていきます。
まず売掛金です。
商品やサービスを提供しても、お金が入ってくるのは翌月や翌々月ということが多いです。この未回収の売上が、売上の成長とともに膨らんでいきます。
次に在庫です。
売上が伸びれば、それだけ多くの商品を仕入れておく必要があります。倉庫に積まれた在庫は、言ってみれば現金が形を変えて眠っている状態です。
そして先払いの支出です。
従業員の給料などは、売上の入金を待たずに出ていきます。売上が増えれば、この先払いの金額も当然増えていきます。
事業が成長すればするほど、これらにお金が一時的にロックされていきます。
帳簿上は利益が出ていても、実際の現金は商品や売掛金という形に変わっているだけ。
これが売上は伸びているのに通帳の残高が苦しいという現象の正体です。
前向きな資金不足だからこそ銀行は融資を検討してくれる
ここで知っておいていただきたいのは、この資金不足は前向きな資金不足だということです。
事業が縮小しているわけでも、赤字が続いているわけでもありません。
むしろ成長しているからこそ、一時的にお金が足りなくなっています。
金融庁は金融機関に対し、担保や保証のみに依存せず、企業の事業内容や成長可能性を評価して融資を行う事業性評価を推進しています。
これは、将来のキャッシュフローを見込んで融資判断を行うという考え方です。
売上が伸びるための運転資金というのは、まさにこの事業性評価においてプラスに評価されやすい要素です。
売上が伸びていて、そのための資金が必要なんですというストーリーは、銀行にとって最も理解しやすく、応援しやすい話です。
借金は怖いという気持ちはよく分かります。
しかし、成長のための借入と、赤字の穴埋めのための借入は、まったく性質が違うものです。
前向きな資金不足であれば、銀行を味方につけて乗り越えていくという選択肢も、ぜひ視野に入れてみてください。
節税の定義を間違えると、お金は確実に減っていく
さて、ここに節税という言葉が絡んでくると、話がややこしくなります。
私は節税を次のように定義しています。
節税とは、納税額を減らして、手元の現金を増やすこと。
つまり、結果としてお金が増えなければ、それは節税とは呼べないのです。
決算期が近づくと、こんな行動を取る方がいらっしゃいます。
利益が出すぎているから、何か経費を使わないと、と考えて、高い備品を買ったり、よく分からないリースを組んだり、効果の見えにくい接待を増やしたり。
たしかに、これらの支出によって経費が増え、税金は減ります。
しかし、その分だけ現金も一緒に出ていってしまいます。
数字で見る、節税のつもりが浪費だったケース
具体的な数字で見てみましょう。
日本の法人実効税率は、中小企業で所得800万円超の場合、約30パーセントが目安となっています。
たとえば、今年の利益が100万円だとします。
このまま何もしなければ、税金は30万円。手元には70万円が残ります。
ここで税金を減らしたいと考えて、80万円分の備品を購入したとしましょう。
経費が80万円増えるので、利益は20万円に減ります。
税金は20万円の30パーセントで6万円。たしかに税金は24万円も減りました。
しかし、手元に残るお金を計算してみてください。
100万円から、備品代80万円と税金6万円を引くと、残るのはたったの14万円です。
何もしなければ70万円残っていたはずなのに、節税のつもりで行動した結果、手元のお金は56万円も減ってしまいました。
もちろん、その80万円の備品が翌期以降に80万円以上の利益を生み出してくれるなら、それは立派な投資です。
しかし、そうした見込みがないまま税金を減らすためだけに支出するのは、節税ではなく、ただの浪費と言わざるを得ません。
本当にお金を生む節税とは何か
では、お金を生む節税とは具体的に何を指すのでしょうか。
国は、単なる浪費ではなく、生産性向上に資する設備投資を優遇する制度を用意しています。
その代表例が中小企業投資促進税制です。
この制度を活用すれば、一定の設備投資を行った場合に税額控除や特別償却が認められます。
投資によって事業の生産性が上がり、将来の利益につながる支出であれば、税制上も優遇される仕組みが既に用意されています。
支出の判断軸を変えてみてください。
この支出は経費で落ちるかではなく、この支出はいつ、どれくらいお金を増やして返ってくるのかと考えてみましょう。
この視点を持つだけで、無駄な支出が自然と減り、本当に必要な投資にお金を回せるようになっていきます。
お金が残る会社になるための3つのステップ
ここまでお読みいただいて、私がお伝えしたいことはとてもシンプルです。
売上を頑張ること自体は、まったく間違っていません。
問題なのは、お金が残る設計をしないまま走り続けてしまうことです。
では、何から始めればいいのでしょうか。私は次の3つをお勧めしています。
手元資金の目標を決める
まずは月商の何か月分を手元に置いておくかという目標を明確にしましょう。
理想は3か月分ですが、最初は1か月分を死守することから始めてください。目標があると、日々の判断に軸ができます。
増加運転資金を意識して、前向きに借入を検討する
売上が伸びていて資金が足りないというのは、銀行が事業性評価の観点から最も理解しやすいストーリーです。
成長のための資金不足であれば、借入を怖がる必要はありません。むしろ、銀行と良い関係を築くチャンスと捉えてください。
お金を生む節税以外はやらないと決める
来期以降に、使った金額以上の現金を生み出さない支出は、どんなに経費で落ちると言われても、それは節税ではありません。
中小企業投資促進税制のような制度を上手に活用しながら、節税という名前の浪費から卒業することが、お金が残る会社への第一歩です。

