売上が上がってもお金が残らない理由と、見直すべき利益構造とは?

法人税務専門の税理士として、数多くの中小企業を見てきた中で、多く寄せられる悩みがこれです。
「売上は増えているのに、手元にお金が全然残らないんです」
この悩み、実は利益構造と節税の設計ミスが原因であることがほとんどです。
今回は、ランチェスター戦略の考え方も織り交ぜながら、中小企業が稼いでもお金が残らない構造と、そこからの脱却方法を解説します。
売上=儲けではない。重要なのは「構造」
まず、売上が上がっているのにお金が残らない理由のひとつに、労働集約型で単発の商品・サービス構造があります。
たとえば、毎回ゼロから作業するような仕事や、商品を1回売ったら終わりのモデルでは、売上が立ってもコスト(人件費や仕入れ)が重くのしかかります。
特に人手に頼る業種(例:士業、建設業、美容、整体など)は、売上と同じだけ人件費も伸びやすいため、利益率が改善しません。ここが最大の盲点です。
また、売上ばかり追いかけていると、忙しいのにお金が残らないという「経営の罠」に陥ります。
これは、時間も人手もお金もすべてが有限である中小企業にとって致命的です。
重要なのは、売上ではなく、売上1円あたりの利益がどれだけ残っているかです。
ここで考えたいのが、「ビジネスモデル全体の構造」です。
仕入れ、納品、請求、回収、そのすべてが利益に直結するか、無駄なリスクを負っていないか、一度紙に書き出して確認してみると改善点が明らかになります。
節税の前に「利益の源泉」を見直す
節税だけでお金が残るようになると思っていませんか?
節税とは、あくまで「利益が出た後の話」です。
そもそも利益が出ていなければ、いくら節税してもキャッシュは残りません。節税は経営の最後の仕上げであって、中心ではありません。
まずは、利益が出やすいビジネス構造に転換することが先決です。
ポイントは3つ
- 労働集約型からの脱却(1対1 → 1対多へ)
- 単発取引から継続課金モデルへ(都度請求 → 会費制・月額制)
- 有形取引から無形取引へ(在庫コストの削減)
このように、構造的に儲かる形にしておくことで、あとから節税が効いてきます。
たとえば、「毎月固定でお金が入ってくる商品・サービスがあるか?」という観点で商品構成を見直してみましょう。もし一度売って終わりの商品ばかりであれば、それを連鎖的に続けられるような設計に変えるだけで、キャッシュフローが劇的に改善します。
今のビジネスを捨てなければならないわけではありません。
今のビジネスの収益構造を変える、または新たな収益源をつくることで効果が表れます。
もちろん不採算事業は撤退という厳しい決断も必要です。
お金を残すための「ランチェスター的視点」
ランチェスター戦略では、弱者(中小企業)は大手と真っ向から戦ってはダメだと教えています。むしろ「小さく強く」を極めることが、中小企業の生き残りの鍵です。
広く浅く売るビジネスよりも、狭く深く、取引を続けてもらえる関係を築くことが、お金を残すコツになります。
具体的には、次のような仕組みをビジネスに取り入れていきます。
- リピート設計(1回売って終わり → 次の商品へつなぐ)
- 商品連鎖(サービス→教材→ツール販売…など)
- 潜在ニーズ→顕在ニーズへの展開(短期と長期の両方で収益化)
たとえば、「顧問契約を結んだお客様に、次はセミナーの案内を出し、さらにツールや教材を販売する」といった、時系列のリピート構造が重要になります。
これにより、1人のお客様から複数回の収益を得られるようになり、安定したキャッシュが手元に残るようになります。
さらに、そうした仕組みは広告費や営業工数の削減にもつながり、利益構造が改善されます。
税理士が見ている「キャッシュが残る会社」の共通点
お金が残る会社には、次のような特徴があります。
- 継続収益の柱がある(月額制、保守契約、会費など)
- 売上よりも粗利率を見ている(売上1億より、粗利5,000万の方が大事)
- 節税より「利益の質」を重視している(過剰な経費ではなく、未来に繋がる投資)
- 財務とマーケティングが連動している(売り方と資金繰りが一体として設計されている)
逆に、お金が残らない企業はこんな傾向があります。
- 安売り(利益を削って売上を追求する)
- 顧客の入れ替わりが激しい(常に新規顧客を追いかけている)
- 節税を経費を増やすことだと勘違いしている
- お金がなくなると借入に頼ってしまう(負のループ)
多くの社長が勘違いしているのは、「経費を使えば節税になる」という考えです。
確かに税金は減りますが、手元にお金も残らなくなります。節税のつもりが、会社の首を締めているケースも少なくありません。
今からできる3つの改善アクション
実際に何から始めればいいのか?まずは次の3つを意識して動いてみてください。
今の「主力商品」が本当に利益を生む構造かを確認する
粗利率が低ければ、高粗利率の新商品を開発するか、既存商品を月額モデルに転換する方法を考える。
商品別の損益を見える化することで、どこに集中すべきかがはっきりします。
「同じ顧客にリピートしてもらえる仕組み」があるかを考える
リピート設計を導入し、継続的な関係を構築する。商品が1つしかないなら、その次に繋がる商品を考案しましょう。目安は5商品ラインナップです。
節税は「目的」でなく「手段」と認識する
節税はお金が残るようになってから。無理にその場限りの経費を使わず、未来に繋がる投資にお金を回すことで、結果的に節税と成長の両立ができます。
まとめ
売上があってもお金が残らない最大の原因は、利益構造にあります。そして、その構造を見直さずに節税だけを頑張っても意味がありません。
まずは「儲かる仕組み」をビジネスの中に作り込むこと。 その上で、利益が出てきたら適切な節税を設計すること。
この順番を守るだけで、会社にお金がきちんと残り、未来への投資ができるようになります。
「売上があるのに通帳が寂しい…」そんなお悩みがあれば、ぜひ一度、自社の利益構造を一緒に見直してみましょう。構造が変われば、キャッシュは必ず増えていきます。

 
		 
		 
			 
			 
			 
			 
			 
			 
			