売上は伸びたのに、なぜ通帳の残高は増えないのか? 税理士が明かす儲からない会社の決定的な違い

はじめに:過去最高売上なのに、お金が残らない不思議
「今期は過去最高の売上を達成しました。それなのに、決算を締めてみたら手元にほとんどお金が残っていなくて……」
決算報告の時期になると、こうした相談が増えてきます。
社長の表情には達成感よりも、どこか腑に落ちない困惑が浮かんでいるものです。
税理士として数多くの決算書を見てきた中で、私が確信していることがあります。
それは、売上だけを追いかけている会社ほど、実は利益が残りにくいという皮肉な現実です。
多くの経営者は売上を伸ばすために新規顧客の獲得に力を注ぎます。
営業にハッパをかけ、広告費を投じ、新しい市場を開拓していく。
企業として当然の努力であり、決して間違いではありません。
しかし、その当たり前の努力がかえって会社の利益を食いつぶし、最悪の場合は黒字倒産への道を開いてしまうとしたらどうでしょうか?
今回は、最新のマーケティングデータと税務の現場で見てきたお金の動きを照らし合わせながら、社長が今すぐ見直すべき利益構造についてお話しします。
新規顧客の獲得コストが利益を圧迫している
1対5の法則が示す厳しい現実
マーケティングの世界には、昔から1対5の法則と呼ばれる経験則があります。
新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかるという考え方です。
ところが、最新の調査によると、この比率はもはや過去のものになりつつあるようです。
現代の激しい競争環境では、そのコスト差は5倍から25倍にまで広がっているとも言われています。
この数字を会計的な視点で見てみましょう。
たとえば、既存のお客様にリピート購入してもらうためのコストが1社あたり1万円だとします。
メルマガの配信や定期的なフォローにかかる人件費などを含めた金額です。
一方で、同じ売上を新規のお客様から得ようとすると、最低でも5万円、場合によっては25万円ものコストがかかる計算になります。
売上という数字だけを見れば、既存客からの100万円も新規客からの100万円も同じ100万円に変わりありません。
しかし利益という視点で見ると、話はまったく違ってきます。
既存客からの売上100万円でコストが1万円なら、利益は99万円です。
新規客からの売上100万円でコストが25万円なら、利益は75万円になります。
同じ売上を作っても、利益ベースでは24万円もの差が生まれてしまいます。
これが10社、100社と積み重なれば、その差は数百万円、数千万円となり、会社の経営を大きく左右することになるでしょう。
顧客維持率をわずか5パーセント改善するだけで利益は大きく変わる
小さな改善が生む大きなインパクト
ある調査によれば、顧客維持率をたった5パーセント改善するだけで、利益は25パーセントから95パーセント増加したそうです。
たった5パーセントの改善で利益が2倍近くになるなんて本当だろうか。
そう思われたかもしれません。
しかし、これは会計の理屈できちんと説明がつきます。
既存顧客には高額な広告費がかかりません。
また、一度取引があるので信頼関係ができており、営業マンが何度も足を運ぶ必要もありません。
さらに、既存客は価格だけで判断しない傾向があり、より高い商品を購入したり、別の商品も一緒に買ってくれたりすることが多いものです。
つまり、既存顧客からの売上は新規顧客からの売上よりも利益率が圧倒的に高くなります。
固定費が変わらない状態で利益率の高い売上が積み上がれば、それはそのまま純利益として残ります。
だからこそ、わずかな維持率の向上で最終利益が大きく跳ね上がるのです。
穴の空いたバケツに水を注いでいませんか?
多くの中小企業は既存顧客流出の穴を塞ぐことを後回しにしてしまいます。
御社ではいかがでしょうか?
既存のお客様がなぜ離れていったのか。
2回目の購入に至らなかった理由は何か。
そこを分析せず、ひたすら新規集客やWeb広告に資金を投じていないでしょうか?
穴の空いたバケツにどれだけ高価な水を注いでも、水はどんどん漏れていきます。
漏れた水はすべて無駄なお金です。
顧客を増やす努力の多くが損失となっているとしたら、これほど怖いことはないかもしれません。
利益を出し続けている会社の共通点
決算書に表れる違い
私はこれまで何百社という決算書を見てきました。
業績が良く、かつ現預金が潤沢な強い会社の決算書には、ある共通の特徴があります。
それは、売上高に対する広告宣伝費の比率が低く、交際費や通信費といった顧客フォローに関する費用が効果的に使われているという点です。
強い会社は広告でお客様を買うのではなく、サービスや商品の質、そして徹底した顧客フォローによってお客様との関係を育てることに投資しています。
紹介という最も効率の良い集客方法
満足度の高い既存顧客は、新たなお客様を連れてきてくれます。
データによると、紹介で獲得した顧客にかかるコストは通常の新規獲得コストの30パーセントから50パーセント程度で済みます。
しかも紹介客は成約率が高く、最初からロイヤリティが高い傾向にあります。
もし40万円かけて広告で1件の契約を取る代わりに、既存客への感謝イベントや手厚いサポートに10万円を使い、そこから紹介が1件生まれたとしたらどうなるでしょうか?
30万円のコスト削減です。この30万円は売上を増やすことなく生み出された、まさに真水の利益と言えます。
今すぐ始められる具体的なアクション
既存顧客への投資を増やす
既存顧客への投資を増やすとは、具体的には以下のような投資を指します。
まず、カスタマーサクセスの強化です。
売って終わりの営業スタイルを見直し、お客様の成功をサポートする担当者を置くことを検討してみてください。
その人件費はコストではなく、将来の利益を生む投資と捉えるべきでしょう。
次に、顧客管理システムの導入や活用があります。
お客様の誕生日や購入履歴、会話の内容をデータ化しておけば、そろそろ在庫がなくなる頃ですねなど、絶妙なタイミングで連絡を入れる仕組みを作ることができます。
そして、特別扱いの演出も大切です。
一律のメルマガではなく、優良顧客限定のシークレットセールを開催したり、手書きの手紙を送ったりする。
既存客をVIPとして扱うための予算をしっかり確保しておきたいところです。
経営者の意識を変えることがスタートライン
これらの施策は地味に見えるかもしれません。
派手な広告を打って問い合わせが鳴り止まないという高揚感はないでしょう。
しかし、経営の目的は高揚感を得ることではありません。
事業を継続させ、社員とその家族を守る利益を出すことが本来の目的のはずです。
売上という見た目の数字に惑わされてはいけません。規模を追うあまり、足元の利益率を犠牲にしてはなりません。
おわりに:顧客を大切にすることが最大の経営戦略である
新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストの差が25倍にもなり得る時代です。
この現実から目を背けて、いつか景気が良くなればとか、もっと広告を出せばなんとかなると願っても、事態は好転しないでしょう。
私たち中小企業には大手企業のような潤沢な資金がありません。
だからこそ、一人ひとりのお客様を大切にし、一度つかんだ縁を絶対に離さないという姿勢が必要です。
それは精神論ではなく、最も合理的で投資対効果の高い、正しい経営戦略だと私は考えています。
売上ではなく手残りを最大化する。
そのために今あるお客様との関係に、もっとお金と心を注いでみてください。
来期の決算書は見違えるほど筋肉質なものになっているはずです。


