売上は伸びているのに、なぜ手元にお金が残らないのか?価格設計の盲点

はじめに:なぜ忙しいのに儲からないのか
売上は順調に伸びている。社員も頑張っている。それなのに、なぜか手元にお金が残らない。
中小企業の経営者から、こうした相談を受けることが少なくありません。
決算書を見せていただくと、原因の多くは価格設定と利益管理の仕組みにあることがわかります。
多くの会社では、価格は市場相場や原価の積み上げで何となく決まっています。
競合がこの値段だからウチも同じくらいだろう。
原価にいくらか乗せて、まあこんなものかな。
そうした受け身の価格設定が、じわじわと利益を削っているのかもしれません。
一方で、しっかり利益を出している会社は違います。
お客様の心理とコスト構造を緻密に組み合わせて、価格を設計しているのです。
価格は決めるものではなく、設計するものという発想を持っています。
このブログでは、利益が残る価格の作り方と、せっかくの利益を流出させない値引き管理について、具体的にお伝えしていきます。
値上げは悪ではない:お客様が納得する価格の見せ方
値上げや高単価商品の販売と聞くと、お客様に申し訳ないと感じる方もいるでしょう。
しかし、適正な利益がなければ、サービスの質を維持することも、社員に報いることもできません。
大切なのは、お客様がその価格に納得して選べる仕組みを作ることです。
そして、価格に見合った価値は必ず提供しなければなりません。
ここにいくつかの方法をご紹介します。
段階的な値上げで抵抗感を減らす
いきなり大幅な値上げをすれば、お客様は驚いてしまいます。
そこで有効なのが、時間軸を使った段階的な値上げです。
たとえば、新商品をリリースするとき、最初は早期割引として少し安めの価格でスタートします。
この段階で実績と評判を積み上げておきましょう。
その後、認知が広まったタイミングで正規価格へ移行するのです。
この方法には心理的な効果もあります。
今買わないと損をするかもしれないという気持ちが生まれ、お客様の背中を押してくれます。
3つの選択肢を用意する
人は極端な選択を避ける傾向があります。
一番高いものは贅沢に感じるし、一番安いものは物足りない気がする。
だから真ん中を選びやすいのです。
この心理を活かして、商品やサービスに三段階の価格帯を設けてみましょう。
上位プランは、最も高機能で高価格に設定します。これは本命ではなく、基準を示す役割を担います。
中位プランこそが、実際に売りたい主力商品です。
下位プランより明らかに内容が良く、上位プランほど高くない絶妙な位置に置きます。
下位プランは、参入のハードルを下げる役割です。機能を絞って低価格にし、まずは使っていただく入口にします。
多くのお客様は中位プランを選びます。
そしてこの中位プランの利益率をしっかり設計しておけば、自然と収益性が高まっていきます。
オプションで利益を積み上げる
本体の価格を抑えて買いやすくし、オプションで利益を確保する方法もあります。
まず本体を競争力のある価格で提供し、お客様との接点を作ります。
そのうえで、保証の延長やアクセサリー、優先サポートといった付加価値の高いオプションを用意するのです。
これらは利益率が高いことが多く、最終的な購入金額を無理なく引き上げることができます。
原価を見直す:利益が残る商品の作り方
売上を追いかけるだけでは、忙しいのに儲からないという状態に陥ってしまいます。
コストの性質を理解し、利益が残る構造を設計することが欠かせません。
コストの3つの性質を知る
コストには大きく分けて三つの性質があります。
変動費
売上に比例して増えるコストです。
材料費や外注費、販売手数料などがこれにあたります。
仕入先との交渉や歩留まりの改善、業務のデジタル化などで削減を図ることができます。
固定費
売上に関係なく毎月発生するコストです。
家賃や正社員の人件費などが該当します。
固定費は適正額を保ち、稼働率を上げて回収することがポイントになります。
準固定費
一定の範囲を超えると段階的に増えるコストです。
残業代や追加で借りる倉庫の賃料などが例として挙げられます。
段階が上がる直前、つまりリソースを最大限に活用している状態が最も効率的といえるでしょう。
売価から逆算して原価を決める
御社では、商品の価格をどのように決めていますか?
原価に利益を乗せて売価を決めるという発想は自然に思えます。
しかし、この考え方だと原価が上がれば売価も上がり、市場で受け入れられなくなるリスクがあります。
発想を逆転させてみましょう。
まず、お客様がいくらなら払えるかという市場で受け入れられる価格を調べます。
次に、確保したい利益を先に引きます。
そして残った金額の中で製品を作れるよう、仕様や製造プロセスを見直すのです。
つまり、原価に利益を足して売価を決めるのではなく、売価から利益を引いて許容できる原価を決めるということです。
この考え方を取り入れるだけで、利益体質への転換が大きく進みます。
値引きを管理する:利益の流出を止める仕組み
現場の営業担当者が安易に値引きをしてしまうと、利益は一瞬で溶けていきます。
たとえば、粗利率が20%の商品を10%値引きしたとしましょう。同じ利益額を確保するには、販売数量を2倍にしなければなりません。
値引きのインパクトは、想像以上に大きいのです。
御社の現場では、どのような基準で値引きが行われていますか?
値引きできる条件を明確にする
何となくの値引きをなくすために、値引きが許される条件を明文化しておくことをお勧めします。
大口発注の場合は、一度の配送や手続きで済むため、浮いた販管費の分を還元するのは合理的です。
長期契約の場合は、お客様の生涯価値が見込めるので、ある程度の値引きに応じる意味があります。
著名な企業のロゴ掲載を許可してもらえるなど、マーケティング上の価値がある場合も検討に値するでしょう。
こうした明確な理由がない値引きは、原則として認めないというルールを作るのです。
承認のハードルを設ける
値引き率に応じて、誰が決裁するかを決めておくことも効果的です。
5%までなら現場のマネージャー、10%までなら部長や事業責任者、それ以上なら役員や社長の承認が必要といったルールを設定します。
承認を得る手間がかかることで、営業担当者は定価で売る努力をするようになります。
値引きに頼らない営業力が、自然と育っていくのです。
断り方のカードを用意しておく
とはいえ、ただ安くできませんと断るだけでは、せっかくの商談が流れてしまうこともあるでしょう。
そこで、価格は維持しながら価値を変えるという交渉の選択肢を用意しておくことをお勧めします。
予算が厳しいお客様には、機能を絞った下位プランへ誘導します。
値引きが難しい代わりに、通常は有償のオプションを一定期間無料で提供する方法もあります。
あるいは納期を調整することで、閑散期にあたる分コストを抑えられる場合もあるかもしれません。
営業担当者がこうした引き出しを持っていれば、値引きに頼らずに交渉を進められるようになります。
おわりに:仕組みで利益を守る
利益を伴った成長を実現するために、3つのポイントを押さえておきましょう。
1つ目は、価格に根拠を持たせることです。
なぜその価格なのか、お客様の心理や商品の機能を踏まえたロジックを明確にしておきます。
2つ目は、原価を聖域なく見直すことです。
売価から逆算して許容できるコストを決める発想で、開発や調達の段階から利益を作り込んでいきます。
3つ目は、値引きに規律を設けることです。
明確なルールと代替提案のカードを用意して、利益の流出を防ぎます。
これらを現場の勘に頼るのではなく、組織の仕組みとして落とし込むことが大切です。
仕組みがあれば、担当者が変わっても利益を守り続けることができます。
価格設定と利益管理を見直すことで、同じ忙しさでも手元に残るお金は大きく変わってきます。
まずは自社の現状を棚卸しするところから、始めてみてはいかがでしょうか。


