7つの習慣「まず理解に徹する」と利益構造ー値引きと節税に追われる経営からの脱出

「売上は順調なはずなのに、なぜか手元にお金が残らない…」
このような悩みを抱えている経営者の方は、決して少なくありません。
実は、その背景には「知らないうちに利益を削ってしまっている」という構造が隠れています。
値引きのし過ぎ、サービスの提供範囲の曖昧さ、原価管理の甘さ。
これらはすべて、日々の業務の中で見過ごされがちな「利益の漏れ」です。本来受け取れるはずの利益を逃してしまっている状態です。
そして多くの社長が「それなら節税で何とかしよう」と考えます。もちろん、適切な節税は大切です。しかし実は、その前にもっと本質的なアプローチがあります。
それが、スティーブン・R・コヴィー博士の名著『7つの習慣』で語られている第5の習慣、「まず理解に徹し、そして理解される」を、利益構造の改善に当てはめていくという考え方です。
お客様を本当に理解していますか?
『7つの習慣』では、相手を共感的に理解する前に、自分の都合で解決策を押しつけてしまうことを診断せずに処方する医者に例えています。
実は値引きも、これとよく似た構造を持っているのです。
「この金額では、お客様は買ってくれないだろうな…」
「ちょっと高いと言われたから、とりあえず下げておこう」
こんな風に考えたことはありませんか?
本来であれば、お客様が何に価値を感じているのか、何に困っているのか、他にどんな選択肢を検討しているのかを、じっくりと聴く必要があります。
ところが、その大切なプロセスを飛ばして「それでは、お安くしておきますね」で話を終わらせてしまう。
これは実のところ、お客様を理解したつもりになって、自分の不安を解消しているだけなのかもしれません。
今求められているのは「値引き」ではなく「適切な価格転嫁」
実は、中小企業庁が公表している「2024年版 中小企業白書」では、物価高や人手不足が進む中で、企業が賃上げの原資を確保するためには価格転嫁が極めて重要であると分析されています。
多くの企業で、コスト上昇分を十分に価格へ転嫁できていない状況が続いており、これが利益率の低下につながっているのです。
では、適切な価格転嫁を実現するには何が必要なのでしょうか。
白書では、以下の事前準備が有効だと示されています。
- 商品別、製品別の原価構成(材料費、加工費、管理費、粗利等)の把握
- 理想的な価格(提示価格)と譲歩できる価格(留保価格)の設定
これはまさに、診断せずに処方しないという姿勢そのものです。
自社の原価構造をしっかり理解し、どこまでなら譲歩できるのかを明確にする。その上で、お客様との対話を通じて適正な価格を決めていくというものです。
実際に、2025年版の白書では、値上げを実施した企業の事例が報告されています。
一部の顧客離れはあったものの、販売単価の上昇によって売上を維持し、原価低減の取り組みと合わせて利益率が改善したとされています。
共感的に聴くことで見えてくる「お金が残る値決め」
では、第5の習慣でいう「共感的傾聴」を、実際の営業や値決めの場面で実践するとどうなるでしょうか。
具体的には、こんな聴き方です。
- 相手の言葉を繰り返しながら、丁寧に確認する
- なぜそう感じるのか、もう一段深く聴いてみる
- 自分の意見を言う前に、まず相手の気持ちを言語化してあげる
こうした聴き方を続けていくと、お客様の本音が少しずつ見えてきます。
「価格も気になりますが、それより納期が間に合うかどうかが一番不安なんです」
「前にお願いしていた業者さんは、報告が遅くて心配でした」
「こちらの手間が増えるようなら、多少高くても丸投げできる方がありがたいです」
こうした声が聞こえてくれば、対応の仕方が変わります。
「とにかく単価を下げる」という発想ではなく、
- 納期保証をつけて、価格はそのままでご提案する
- 報告頻度を増やして、その分を適正に単価に反映する
- 手間を減らすプランを提示して、むしろ単価を上げる
といったお金が残る値決めができるようになります。
このような取り組みで利益率が上がれば、税金を払った後でもしっかりとお金が残るようになります。
銀行や税理士とも「理解し、理解される」関係を
第5の習慣は、お客様との関係だけでなく、銀行や税理士といった社外パートナーとの関係でも非常に重要な意味を持ちます。
金融庁が2024年6月に公表した企業アンケート調査の結果によると、メインバンクが自社の経営課題や悩みを「よく聞いてくれる」または「ある程度聞いてくれる」と回答した企業の割合は73.0%に達しています。
一方で興味深いのは、課題や悩みを「全く相談したことがない」企業も存在し、その理由として「アドバイスを期待できないから」「融資以上のことを期待していないから」といった声が挙がっていることです。
また、銀行からの提案に納得感がない理由として、「担当者の交代が多い」という回答が最も高い割合となっています。これは、継続的な相互理解を築く上での大きな障害となっています。
ただし、2024年版 中小企業白書では、日頃の面談頻度が高い企業ほど、金融機関から受けた経営支援について「効果があった」と回答する傾向が示されています。
さらに、金融機関からの経営支援が企業の収益力向上に寄与する可能性があると分析されているのです。
つまり、まず理解に徹し、そして理解される関係を金融機関と築くことは、単なる融資の話にとどまらず、実際の経営改善につながる可能性があるということです。
同じように、税理士に対しても、自社の業界の実情や将来のビジョンを丁寧に伝えていくことが大切です。
税金を減らすテクニックだけでなく、
- この利益率で本当に大丈夫なのか
- 今の投資ペースに無理はないか
- 社長個人の将来設計と法人の資金をどう連携させていくか
こうした内容を、信頼関係の中で相談できるようになると、節税もその場しのぎから将来につながる戦略的な一手へと変わっていきます。
税金を減らす前に、利益の漏れを減らす
共感的に聴く力が高まってくると、節税よりも先にやるべきことがはっきりしてきます。
- 値引きしなくても良かった案件
- やらなくても良かったサービス
- 伝え方を少し変えるだけで単価が上がったポイント
これらはすべて、利益の漏れを防ぐためのストッパーです。
節税によって税金を30万円減らすよりも、値決めと聴き方を変えることで粗利を毎月10万円増やす方が、長い目で見れば会社を圧倒的に楽にしてくれます。
第5の習慣は、節税で守りに入る前に、そもそもの利益を作り直すための強力な武器なのです。
まとめ
お客様を十分に理解しないまま値引きで対応してしまうのは、『7つの習慣』でいう診断せずに処方する医者と同じです。
今の時代に求められているのは、むしろ適切な価格転嫁です。
自社の原価構造を把握し、共感的に聴くことで、値段を下げなくても選ばれる理由が見えてきて、自然と利益率が上がっていきます。
また、銀行や税理士とも、まず理解に徹し、そして理解される関係を築くことで、節税が場当たり的なものではなく、戦略的なものへと変わります。
実際のデータでも、金融機関との定期的なコミュニケーションが経営改善につながることが示されています。
節税をする前に、まずは利益の漏れを止める。
この順番を意識するだけで、売上は今のままでも、お金が残る会社へと確実に近づいていくことができます。
経営者として忙しい毎日であっても、少し立ち止まって「本当に相手を理解しているだろうか」と自分に問いかけてみる。
そんな小さな習慣が、会社の利益構造を変えていきます。


