従業員の給料を上げると税金が安くなる?賃上げ促進税制をやさしく解説

物価高の折、従業員の給料を上げてあげたいけれど、正直なところ会社の負担が心配……。
そんな風に感じている経営者の方は多いのではないでしょうか。

実は、従業員の給料を上げた会社に対して、国が税金を安くしてくれる制度があります。
その名も賃上げ促進税制です。

この記事では、この制度の仕組みをできるだけわかりやすくお伝えします。
知っているのと知らないのとでは大きな差が生まれますので、ぜひ最後までお付き合いください。

目次

賃上げ促進税制とは

この制度を一言でいうと、従業員のお給料を増やした会社は、増やした金額の一部を法人税から直接引いてもらえるというものです。

国としては、企業が積極的に賃上げを行うことで、働く人たちの生活が豊かになり、経済全体が元気になることを期待しています。
そのための後押しとして、頑張って給料を上げた会社を税金の面から応援してくれるわけです。

この制度は令和9年3月31日までに始まる事業年度が対象となっていますので、今から活用を検討しても十分に間に合います。

※ここでは中小企業向け「賃上げ促進税制」を前提に解説しています。

うちの会社も使える?対象になる条件

まず気になるのは、自分の会社がこの制度を使えるかどうかですよね。
確認すべきポイントは3つあります。

1つ目は、中小企業であることです。資本金1億円以下が基本的な条件となります。
ただし、親会社が大企業である場合や、過去3年間の平均所得が15億円を超える場合は対象外となることがあります。

2つ目は、青色申告をしていることです。白色申告では残念ながらこの制度は使えません。

3つ目は、設立初年度ではないことです。前年との比較が必要な制度のため、新しく事業を始めた年は対象外となります。

この3つをクリアしていれば、制度を活用できる可能性が高いです。

税金が安くなる仕組み

では、具体的にどうすれば税金が安くなるのでしょうか。
基本的なルールはとてもシンプルです。

まず、前年に支払った給与の総額と比べて、今年支払った給与の総額を1.5%以上増やすと、増やした金額の15%が税金から差し引かれます

さらに、2.5%以上増やした場合は、控除率が30%に上がります。
つまり、より頑張って賃上げした会社ほど、大きな税金のメリットを受けられる仕組みです。

たとえば、前年度の給与総額が5000万円だった会社が、今年度は5150万円に増やしたとします。
増加率は3%ですから、30%の控除率が適用されます。
増やした150万円の30%、つまり45万円が法人税から直接差し引かれる計算です。

給料を上げることで従業員のモチベーションが上がり、さらに税金も安くなる。
これはかなりお得な話ではないでしょうか。

控除率をさらに上げる方法

上記の控除率だけでも十分魅力的ですが、実はさらに上乗せできる方法が2つあります。

1つ目は、社員教育への投資です。
従業員のスキルアップのために使った教育訓練費を前年より5%以上増やし、かつ、その金額が給与総額の0.05%以上であれば、控除率が10%上乗せされます。

教育訓練費として認められるのは、外部の研修やセミナーの受講料、外部講師への謝礼、研修で使う施設のレンタル料などです。
一方で、研修中の従業員のお給料や交通費、宿泊費、自社の社員が講師を務めた場合の人件費などは対象外となりますのでご注意ください。

2つ目は、働きやすい職場づくりです。
子育て支援に積極的な企業として認定されるくるみん認定や、女性活躍を推進する企業として認定されるえるぼし認定の2段階目以上を取得すると、控除率が5%上乗せされます。

これらをすべて組み合わせると、基本の30%に教育訓練の10%、職場環境の5%が加わり、最大で45%もの控除を受けることができます。

知っておきたい3つのポイント

この制度を賢く活用するために、経営者として押さえておくべきポイントが3つあります。

1つ目は、控除額には上限があるということです。
計算した控除額がその年の税額の20%を超える場合、実際に控除できるのは税額の20%までとなります。

2つ目は、使い切れなかった分を繰り越せることです。
これは経営戦略上、非常に重要なポイントです。
赤字の年や上限に達して使い切れなかった控除額は、最大5年間繰り越すことができます。
つまり、今は利益が少なくても、将来の黒字を見越して先行投資として賃上げを行うという選択肢が取れるのです。
ただし、繰り越した控除を使う年度でも、その年の給与総額が前年を上回っている必要がありますのでご注意ください。

3つ目は、対象となる給与の範囲です。
対象となるのは国内で働く従業員への給与で、パートやアルバイトの方も含まれます。一方で、役員や役員の親族への給与は計算対象から除外されます。

【補足として注意点】
税負担の軽減がされるのは賃上げした年のみですが、賃上げ後の給与はその後も毎年支払うこととなります。
税負担の軽減を目的とした無計画な賃上げは、その後の経営を圧迫するので避けましょう。

手続きはとてもシンプル

手続きが面倒そうだと感じるかもしれませんが、実はとても簡単です。
事前の申請は必要なく、確定申告の際に必要書類を添付して申告するだけで完了します。

ただし、教育訓練費の上乗せを受ける場合は、費用の明細がわかる領収書などを社内で保存しておく必要があります。税務署への提出は不要ですが、いざというときのために月ごとに整理しておくことをお勧めします。

事前申請が不要だからといって、計画なしで進めてよいわけではありません。
年度初めから賃上げの目標と教育訓練費の予算を立て、計画的に取り組むことが成功の鍵です。

まとめ

最後に、この記事のポイントを整理します。

従業員の給与を上げると、増やした金額の最大45%が税金から直接差し引かれます。
社員教育や働きやすい職場づくりに取り組むことで、さらに大きな優遇を受けられます。
そして、赤字などで使い切れなくても5年間は繰り越せるため、無駄になりません。

この制度は、従業員の満足度を高めながら会社の税負担を軽減できる、まさに一石二鳥の仕組みです。

ぜひこの機会に活用を検討してみてください。

 

【免責事項】
本記事は2025年12月時点の税制に基づいて作成されています。
税制は随時改正されるため、実際の適用にあたっては最新の情報を確認し、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

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