売上よりも大切なこと~小さなナンバーワン市場で「税引き後のお金」を残す経営~

「売上は順調に伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない…」
もしかすると、あなたもこんな悩みを抱えていません――
税理士として多くの経営者の方とお話しする中で、こうした声をよく耳にします。そこで決算書を拝見させていただくと、ある共通点が浮かび上がってきます。
それは「売上目標は明確なのに、税引き後にいくら残すかの目標がない」ということ。
今日は、ランチェスター戦略の考え方を活かしながら、「本当にお金が残る経営」について一緒に考えていきたいと思います。
きっと、あなたの会社の経営が変わるヒントが見つかるはずです。
なぜ売上目標だけでは、お金が残らないのか
経営計画を立てるとき、多くの中小企業でこんな目標設定を見かけます。
「今年は売上○億を目指すぞ!」 「まずは売上、利益はあとからついてくる!」
もちろん、売上目標を持つことは大切です。目標があるから頑張れる、というのも事実です。
でも、1年後に決算を迎えてみると…
- 確かに売上は増えた。でも利益はそれほど増えていない
- 利益が出ても、税金と借入の返済でほぼ消えてしまう
- 結局、社長の手取りも会社の内部留保も増えていない
こんな結果になっていませんか?
実は、これには明確な理由があります。売上を追いかけているうちに、原価率が上がったり、人件費や広告費がかさんだりして、気づいたら利益率が下がっているケースが多いんです。
ここで、ちょっと発想を変えてみてください。
「今年は税引き後にいくらお金を残したいか」から逆算して、売上やコストを設計する。
この順番で考えると、経営の景色がガラリと変わります。
ランチェスター戦略が教えてくれること
「ランチェスター戦略」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もともとは軍事理論だったのですが、今では中小企業の経営戦略として広く知られています。その核心は、こんなところにあります。
- 大企業と同じ土俵では戦わない
- 狭い市場で、濃くシェアを取る
- その中で価格主導権を握る
これは、中小企業にとっては「薄利多売からの卒業」でもあります。
考えてみてください。粗利が薄いまま売上だけ追いかけると、どうなるか。
- 原価や人件費がじわじわ増えていく
- 広告費も積み上がっていく
- 結果として「忙しいのに儲からない」状態に
これではスタッフも社長も疲弊してしまいます。
しかし、ランチェスター戦略の教えに沿って、
- 地域や顧客を絞る
- 商品を絞る
- その代わりに単価と粗利率を上げる
という「スモールマーケット・ビッグシェア」の形を作ると、1件あたりの儲けが大きくなります。
すると、無理な残業や大量の広告を打たなくても、自然と利益が残りやすくなります。社長の精神的な余裕も生まれます。
本質的な節税とは何か
さて、ここで節税について考えてみましょう。
「節税」と聞くと、どんなイメージを持ちますか? 多くの方は「税金を減らすこと」と考えているかもしれません。
しかし、税理士として長年お客様を見てきた実感として、本質的な節税とは少し違います。
本質的な節税とは、「税金を減らすこと」そのものではありません。
「税金を払っても、社長と会社にしっかりお金が残るように、お金の流れとタイミングを設計すること」これが本当の節税だと私は考えています。
税金は、利益が出ている証でもあります。だから、税金を払うこと自体は悪いことではありません。
大切なのは、税金を払った後に「使えるお金」がきちんと残っているかどうかです。
やってはいけない「思いつき節税」
節税の話をすると、こんな場面によく遭遇します。
決算が近づいてきて、税理士から「このままだと税金が○○万円かかりますよ」と言われて、慌てて
- とりあえず車を買う
- 広告を大量に打つ
- 本当はいらない備品をまとめ買いする
こうした「思いつき節税」をしてしまうケースです。
確かに当期の税金は減ります。でも、会社の体力は強くなっていません。むしろ、必要のない支出をしたことで、キャッシュが減って会社が弱くなっているかもしれません。
本当にやるべきなのは、
- 小さな市場でナンバーワンになれる商品・サービスに集中的に投資する
- その投資が将来の利益とキャッシュを生むかどうか、税金も含めて計算してから動く
ということです。
税務の視点から見ると、支出には2種類あります。
「これは将来の売上・利益を生む投資なのか?」 「それとも、単に当期の利益を減らすだけの支出なのか?」
ここを分けて考えないと、「節税はできたけど、会社が弱くなった」という最悪のパターンに陥ってしまいます。
ランチェスター×本質的節税の3ステップ
では、具体的にどう進めればいいのか。ランチェスター戦略と本質的な節税を組み合わせた、実務の流れを3つのステップに整理してみましょう。
ステップ1:小さな市場で高い粗利を確保する
まず最初にやるべきことは、利益を出せる体質を作ることです。
- エリア・客層・商品を絞り込む
- 価格競争から離れて、価値で選ばれるポジションを取る
- その結果として、粗利率と1件あたりの利益を高める
「狭い市場に絞って大丈夫なの?」と不安になるかもしれません。でも、考えてみてください。
広く浅くやって薄利多売になるよりも、狭くても確実に高い粗利が取れる方が、経営は安定します。
ここで初めて、「税金を払えるだけの力」が会社につきます。
ステップ2:税金を前提にした資金計画を立てる
次に、お金の配分を考えます。
ざっくりでいいので、「この利益なら税金はこれくらいかかるな」と想定してみてください。税理士に相談すれば、すぐに概算を出してもらえます。
そして、税金を払った後に残るお金を
- 会社に残す分(内部留保)
- 将来の備え(設備投資、借入返済など)
にどう配分するか、先に決めてしまうんです。
「え、税金を払う前に配分を決めちゃうの?」と思うかもしれませんね。
でも、これが大事なポイントです。先に「ゴール」を決めておくことで、次のように経営が逆算できるようになります。
ゴール(利益配分)
→ 利益+固定経費=粗利
→ 粗利+売上原価=目標売上
この段階では、まだ「変な節税策」は使いません。まず、あるべき姿を描くことが先決です。
ステップ3:将来の備えになる支出で税負担をコントロールする
最後に、本当に必要な節税支出を選んでいきます。
具体的には、こんな支出です。
- 会社の売上・利益を高めるための設備投資
- 社長や従業員の老後資金づくり(退職金共済、経営セーフティ共済など)
- 万一に備えるための保険など
お金が未来の自分たちの味方になるような支出を選んで、結果として税金を抑えていく。
これが正しい順番です。
節税は「目的」ではなく「結果」です。
この考え方こそが、「本質的な節税」と「単なる利益つぶし」との決定的な違いです。
まとめ:ナンバーワン戦略は「税引き後のお金」まで設計して完成する
ランチェスター戦略は、「どこで戦い、どうやって勝つか」を示す経営の地図です。
しかし、勝つだけでは不十分です。勝った結果として、お金がきちんと残らなければ意味がありません。
中小企業の社長にとって本当に大切なのは、
- 小さな市場でナンバーワンを取り、価格主導権を握ること
- そのうえで、税金を前提に税引き後のキャッシュの配分を設計すること
- 最後に、将来の備えになる節税支出を選んで、結果として税金を抑えること
この3つがつながったとき、初めて
「頑張って売上を増やしてもお金が残らない会社」から 「戦略的に利益とお金を残せる会社」へと生まれ変わります。
「でも、うちの会社で本当にできるかな…」
そう思われるかもしれませんが、大丈夫です。まずは小さく始めてみましょう。
この二つを、今すぐ紙に書き出してみてください。
- 「自社がナンバーワンになれる小さな市場はどこか?」
- 「今年、税引き後にいくらお金を残したいか?」
完璧な答えでなくていいです。今の時点で思いつく範囲で構いません。
ここから、あなたの会社の「ランチェスター×本質的節税」の第一歩がスタートします。
小さな一歩かもしれませんが、この一歩が、あなたの会社の未来を大きく変えることになるはずです。
