売上3割減でも利益2倍、理想の顧客だけを選ぶ経営戦略

社長にお聞きします。御社のお客様とは、一体どなたのことでしょうか。
もしかすると、こうお考えかもしれません。
お金を払ってくれる人なら、誰でもお客様だと。来るもの拒まず、去る者追わずだと。
そのお気持ちは痛いほどわかります。売上が欲しいのは、どの経営者も同じですから。
しかし、税理士としてあえて申し上げます。
その考え方は、黄色信号どころか赤信号かもしれません。
売上を作っている顧客と利益を作っている顧客は違います。
誰でもいいから買ってほしいという全方位外交は、創業期なら許されるでしょう。
しかし、事業を継続・拡大させていくフェーズでは、それは自分の首を絞める行為に等しいと考えています。
本日は、マーケティング用語でいうICP、つまり理想的な顧客像についてお話しします。
誰と付き合い、誰と別れるか。
御社の経営資源をどこに投下して、利益率と経営の安定性を最大化するかという経営戦略の話です。
誰にでも売るという戦略が失敗する理由
まず、なぜ誰にでも売るのがダメなのか。財務とリソースの観点から解説させてください。
中小企業の経営資源には限りがあります。
営業マンの数、サポート要員の時間、広告宣伝費。
これらすべてに上限があります。
ここで、A社とB社という2つの顧客がいるとしましょう。
A社は理想の顧客です。
こちらの提案をすぐに理解し、適正価格で契約してくれます。
支払いも早く、理不尽なクレームを言わず、長く使い続けてくれる会社です。
一方、B社はミスマッチ顧客と呼べる存在です。
値引き交渉が激しく、契約までに半年もかかります。
導入後もあれができないこれができないと連日サポートに電話をかけてきて、挙句の果てに1年で解約してしまいます。
A社とB社、どちらも売上としては計上されます。
しかし、利益はどうでしょうか。
B社にかかった営業コストとサポートコストを差し引くと、実はB社との取引は赤字だったというケースは山ほどあります。
さらに恐ろしいのは、B社の対応に追われてA社への対応がおろそかになり、A社まで離れていってしまうリスクです。
お客様は神様ですという言葉がありますが、そこには招かざる神様もまぎれています。
だからこそ、誰をお客様とするのかを厳密に定義し、それ以外の方をお断りする勇気が必要になってきます。
理想の顧客像を明確にする
では、理想的な顧客像とは具体的に何を指すのでしょうか。
理想的な顧客像とは、自社の商品から最大の価値を受け取り、かつ自社に最大の利益をもたらしてくれる組織または個人の定義です。
以下の3つの要素が重なる部分が、御社の理想的なお客様となります。
1つ目は経済性で、予算があり長く使い続けてくれるかを見極めます。
2つ目は適合性で、御社の商品で相手の課題を本当に解決できるかが問われます。
3つ目は拡張性で、将来的にリピートが見込めるかを考えます。
この理想像が定まっていないと、営業マンは手っ取り早く売れそうなところに行きがちです。
マーケティングチームも質より量を重視した広告を打ってしまいます。
結果、組織全体が疲弊し、利益率は低下の一途をたどることになります。
逆に、理想像が明確になっていれば、そこに一点集中でリソースを投下できます。
勝率は上がり、商談期間は短縮され、契約後の解約率も下がるでしょう。これが高収益体質の正体です。
適合性と購買意欲のマトリクスで顧客を分類する
さらに解像度を上げてみましょう。
理想的な顧客像を運用する際に有効なのが、適合性と購買意欲のマトリクスです。
適合性とは、その企業属性が自社の理想像に合致しているかを指します。業種、規模、課題感などが該当します。
購買意欲とは、その企業が今まさに購買したいと思っているかどうかです。
この2軸で顧客を分類すると、4つの象限が生まれます。
最優先すべきは、適合性が高く購買意欲も高い層です。
いわゆるホットリードと呼ばれる存在で、営業リソースを全投入すべき対象です。
次に重要なのは、適合性が高いが購買意欲がまだ低い層です。
ここを捨ててはいけません。
無理に売り込むのではなく、長期的な関係構築を行い、相手の購買意欲が高まるタイミングを待ちます。
将来の優良顧客と言えるでしょう。
完全に無視すべきは、適合性も購買意欲も低い層です。
ここに営業をかけるのは時間の無駄ですから、リソースを割かないでください。
そして最も危険なのが、適合性は低いのに購買意欲だけが高い層です。
ここが一番の落とし穴になります。
御社の商品には合わない属性なのに、なぜか今すぐ欲しがっている。
たとえば、多機能なプロ用ツールなのに、セールにつられて問い合わせてきた初心者などが該当します。
営業マンは売れそうだからと飛びつきがちですが、売った後に地獄を見ます。
使いこなせない、思っていたのと違うとクレームになり、返金騒動や悪評につながってしまうからです。
この層には勇気を持ってお断りすることが、会社の利益を守るために不可欠です。
明日から始められる顧客分析の方法
では、明日からどうすればいいか。まずは過去の顧客分析から始めてみてください。
最初にやるべきは、利益貢献度ランキングの作成です。
過去3年間の取引で、売上ではなく利益を多くもたらしてくれた顧客上位20社をリストアップしてください。
次に、その20社の共通項を探します。
業種、年商、従業員数はどうか。抱えていた課題は何か。窓口担当者の役職や性格は。契約に至ったきっかけは何だったか。
これらを丁寧に洗い出してみてください。
同時に、お断りリストも作成します。
クレームが多かった顧客、利益が出なかった顧客の下位20社についても共通項を洗い出し、ターゲット外として明確に定義して営業チームに周知徹底することが重要です。
捨てる勇気が利益を生む
ターゲティングとは絞ることであり、すなわち捨てることです。
売上が欲しい時に、目の前の見込み客を捨てるのは、身を切るような怖さがあるでしょう。
しかし、誰にでもいい顔をする会社は、必ずジリ貧になります。
付き合う相手を選ぶ会社だけが、高収益とブランドを確立できます。
御社の商品は、素晴らしい価値を持っています。
その価値を100%理解し、正当な対価を払い、感謝してくれる運命の相手だけに届けてください。
ノイズを取り除くことで、組織の生産性は上がり、社員は誇りを持って働き、手元に残るキャッシュは最大化されます。
御社のお客様は誰ですか。
この問いに即座に、具体的に、自信を持って答えられるようになった時、御社の経営は次のステージへと上がっているはずです。


