売上は増えたのに通帳残高が減っていく——粗利率1%の落とし穴と抜け出し方

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売上は順調なのに、なぜかお金が残らない

売上は悪くない。むしろ去年より伸びている。
それなのに、通帳を見るたびに首をかしげてしまう。そんな経験はありませんか。

決算が近づくと気持ちが落ち着かなくなり、つい経費を探し始めてしまう。
保険に入ったり、必要かどうか微妙な備品を買ったり。
税金は減らしたはずなのに、年度が明けると手元資金が心もとない。

この繰り返しに疲れている経営者は、かなり多いのではないでしょうか。

こうした状態に陥る会社には共通点があります。
資金繰りの問題ではなく、粗利の設計と管理が弱いということです。
値引きが当たり前になっていたり、原価上昇を価格に反映できていなかったりすると、売上の数字は立派でも現金がなかなか残りません。
忙しく働いているのに報われない感覚が続くのは、本当につらいものですよね。

この記事では、粗利率を軸にした予実管理の考え方と、節税を投資に変える発想についてお伝えしていきます。

最初に見るべきは売上ではなく粗利率

中小企業の経営で真っ先に意識したいのは、売上目標よりも粗利率です。
粗利率が安定していると、固定費を吸収しやすくなり、手元資金の変動も小さくなります。

具体的な数字を見てみましょう。
年商1億円の会社で粗利率が30%なら粗利は3,000万円ですが、29%に下がると2,900万円になります。
たった1%の差で100万円が消えてしまいます。
営業利益が数百万円規模の会社であれば、この100万円は利益の大部分に相当することもあるでしょう。

今月の粗利率を、すぐに答えられますか。

売上だけを追いかけていると、値引きで受注を増やしても粗利は減っていることがあります。
受注が取れた達成感の裏で、利益が流れ出ているケースは珍しくありません。

ここを反転させる第一歩は、粗利率を予算化して毎月追い続けることです。

粗利率を守る予実管理のコツ

予実管理は、売上と経費を並べて差異をチェックする作業だと思われがちです。
しかし、粗利を守るための意思決定ツールとして設計し直すと、効果が大きく変わります。

コツ1:粗利率の予算を先に決める

年度予算を作るとき、売上目標から考え始めていませんか。
順番を変えてみてください。まず粗利率の目標を決めて、固定費と必要利益を賄うのに必要な売上を逆算します。

この順番で組み立てると、値引きや原価上昇が起きたときに利益への影響がすぐわかります。
見えた瞬間に手を打てるのが強みです。

コツ2:値上げの判断を感覚ではなく計算で決める

値上げは怖いものです。
お客様が離れてしまうのではないか、競合に取られるのではないか。
そんな不安が先に立って、つい先送りにしてしまう気持ちはよくわかります。

ただ、値上げを避け続けるほうが怖い局面もあります。
原価が上がっているのに価格を据え置いていると、売上は変わらなくても利益は確実に減っていきます。

粗利率を維持するために必要な価格を計算してみると、意外と数%の改定で済むこともあるでしょう。
逆に改定が遅れるほど、同じ利益を確保するために売上を大きく伸ばす必要が出てきます。
忙しさだけが増えていく経営になりがちです。

コツ3:値引きの許容ラインを決めておく

値引きがすべて悪いわけではありません。
新規顧客の獲得や長期契約のために、限定的に使うのは有効な手段です。
問題なのは、許容ラインがないまま毎回その場の空気で決めてしまうことにあります。

あらかじめ予算で粗利率の下限を決めておき、その下限を割る値引きは原則として行わない。
例外は、値引き分をいつまでにどう回収するか数字で説明できるときだけにする。

こうした運用ルールが粗利を守る実務につながります。

節税を投資に変える発想

粗利管理と節税は別の話に見えますが、実務では深くつながっています。
粗利をしっかり管理できていない会社ほど、決算が近づくと焦って支出を増やし、現金を薄くしてしまう傾向があるからです。

ここで発想を切り替えてみましょう。

税金を減らすための支出ではなく、粗利を増やす投資としての支出だけを残す
この考え方でお金の使い方が変わってきます。

具体的には、年度の初めに投資枠を設定します。
粗利率を上げるための施策に限って、年間いくらまで使うかを決めておきます。
対象は、値上げを支える提案資料の整備、業務効率化のツール導入、既存顧客の継続率を上げる仕組みづくりなどです。

その支出は、一年後の粗利を増やす投資になっていますか。

この問いに答えられない支出は、税金が減ったとしても現金を減らすリスクが残ります。
節税はあくまで結果として付いてくるもの。
そう位置づけておくと、会社の体質は着実に強くなっていきます。

明日から実践できる三つの手順

ここまでの内容を、実際に動かせる形に落とし込んでいきましょう。

手順1:粗利率の目標と下限を決める

年度の粗利率目標と、絶対に割りたくない下限を設定します。
下限は固定費と必要利益から逆算すると決めやすいでしょう。
このラインがわかっていれば、判断に迷いがなくなります。

手順2:月次で粗利をチェックする

四半期や本決算を待っていると手を打つタイミングが遅れます。
月に一度、売上と原価の速報値だけでも確認して、粗利率の下振れがないかを見てください。
もし下がっていたら、理由を一つに絞って対処します。

手順3:投資枠を年度初めに確保する

決算前に慌てて経費を使うのではなく、年度の初めに投資枠を確保しておきます。
その枠は粗利改善につながるものだけに使うと決めてしまいましょう。
この運用に切り替えるだけで、決算前の焦りがぐっと減るはずです。

まとめ

粗利率は、会社の現金を守るうえで最も重要な指標です。
予実管理で粗利率を見える化し、値上げや値引きの判断を感覚から計算へ移していくと、経営のブレが小さくなります。

そのうえで節税を投資という視点で捉え直すと、税金を払いながらも現金が増える会社に近づいていくでしょう。
売上を追いかけて疲弊するのではなく、粗利から設計する経営へ。

日々の忙しさに飲み込まれる前に、ぜひ一度試してみてください。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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