「影響の輪」と決算対策―決算前のドタバタ節税から卒業する方法

毎年繰り返される決算前の駆け込み節税相談
「先生、決算が近いんです。何か良い節税方法はありませんか?」
税理士として仕事をしていると、毎年同じ時期に、同じようなご相談をいただきます。
もちろん、その時点でできる限りのアドバイスはさせていただきます。ただ正直に申し上げると、決算直前にできる節税には、どうしても限界があります。
なぜそうなってしまうのか。
その理由を、前回に引き続きスティーブン・R・コヴィー博士の名著『7つの習慣』の考え方を参考に、ご説明したいと思います。
決算前に慌てる会社が陥りがちな「関心の輪」の罠
『7つの習慣』には、「関心の輪」と「影響の輪」という考え方が出てきます。
関心の輪というのは、気になるけれど自分ではコントロールできないことです。
たとえば、税率そのものや景気の動き、取引先の支払いサイクルなどです。
決算が近づいて慌てている社長さんとお話しすると、よくこんな言葉を耳にします。
「税金って、本当に高いですよね」
「今期、思っていたより利益が出てしまって」
「何か経費になるもの、ありませんか?」
お気持ちはよくわかります。
しかし、実は、これらはすべてもう決まってしまった結果に対する反応です。
つまり、関心の輪だけを見ている状態といえます。
この状態でいくら頑張っても、結局できるのは、とりあえずの支出や、来期以降にも負担となる保険契約、あるいは計画性のない設備投資など、キャッシュを減らす節税に偏ってしまいがちです。
「影響の輪」の観点からおすすめする3つの数字習慣
一方で、計画的に税金対策をされている社長さんは、「影響の輪」、つまり自分でコントロールできることに意識を向けています。
節税において、自分でコントロールできることというと、それは日々の数字の見方です。
私が中小企業の社長さんにいつもお勧めしているのが、次の3つの習慣です。
「売上」だけでなく「粗利」を毎月しっかり見る
売上がどれだけ増えても、粗利が少なければお金が残らず、相対的に税負担を重く感じます。
逆に、粗利がしっかり確保できていれば、税金を払った後でも手元にお金が残ります。
まずは、「どの商品が、どのサービスが、一番粗利を生み出しているのか」を月次で確認するところから始めてみてください。
これだけでも、かなり会社の数字の見え方が変わってくるはずです。
「利益」と「現金」は別物だと理解する
会計上の利益が出ていても、売掛金が増えていたり、在庫が膨らんでいたりすると、実際の現金は増えていません。
この違いを理解していないと資金繰りを考慮せず、利益が出ているから節税で経費を使ってしまうという、危険な発想になってしまいます。
利益と現金の違いがわかると、「節税でさらに現金を減らすのは、本末転倒だよね」と自然に気づけるようになります。
税金を払った後、いくら手元に残したいかを先に決めておく
これは、『7つの習慣』でいう「終わりを思い描くことから始める」という第2の習慣そのものです。
「今期は税金を払った後で、最低でも○○万円は手元に残したい」と、期首の段階で決めてしまいましょう。
この目標金額を決めておくと、無理な節税をしないラインや、どこまで投資に回せるかが、ブレにくくなります。
毎月30分の「お金ミーティング」で最優先事項を優先する
数字を見るのが苦手な社長さんほど、「時間ができたら、ちゃんと見ます」とおっしゃいます。
でも残念ながら、その「時間」は自然にはできません。
『7つの習慣』の第3の習慣が教えてくれるように、大切なことは、あらかじめスケジュールに組み込んでおかない限り、いつまでも後回しになってしまうものです。
そこで私がお勧めしているのが「毎月同じ日の、同じ時間に、30分だけ数字を見る」という習慣を作ることです。
見るべき項目は、たった3つだけです。
- 今月の売上・粗利の見込み
- 今の現金残高
- 今期末に残したい金額との差額
これを続けるだけで、決算の2ヶ月前になって初めて数字を見る会社とは、まったく違う選択ができるようになります。
決算前に慌てて駆け込むのではなく、余裕を持って対策を考えられるようになります。
決算前の作業を「節税」から「点検」に変える
日頃から影響の輪に集中して1年を過ごした会社は、決算前にやることも自然と変わってきます。
たとえば、
- 売上・粗利の構成を来期に向けてどう改善するか
- 今期行った投資が、どのくらい成果を生んでいるか
- 来期に向けて、どんな税の優遇制度を活用できそうか
といった点検と微調整の作業になります。
それに対して、数字を見ないまま1年を走り切ってしまった会社は、どうしても決算前に慌てることになります。
「とりあえず決算賞与を増やそう」
「とりあえず法人保険に入ろう」
「とりあえず備品を買っておこう」
こうした「とりあえず節税」に追い込まれてしまいます。
そして、とりあえず節税は、多くの場合「やらなきゃ良かった」という結果となります。
このように同じ決算前の時期でも、1年間どこに目を向けて経営してきたかによって、節税策の質が大きく変わってきます。
まとめ:決算前の駆け込み節税から、年間を通じた設計へ
決算直前だけの節税対策は、どうしても「関心の輪」への反応になりがちで、できることも限られてしまいます。
しかし、「影響の輪」、つまり自分でコントロールできる数字の見方に集中すると、節税の選択肢は大きく広がります。
毎月たった30分のお金ミーティングは、『7つの習慣』でいう「終わりを思い描くことから始める」「最優先事項を優先する」を、実際の節税行動に落とし込むシンプルな方法です。
「決算前に税理士に駆け込む節税」から、「1年を通じて設計する節税」へ。
このシフトが、税金を払った後も、しっかりと手元にお金を残せる会社への第一歩になります。
