金利上昇時代、節税保険と借金返済どちらを優先すべき? 税理士が教える判断基準

「先生、銀行の利息がじわじわ上がってるんだけど、保険はこのまま続けていいのかな……」
この疑問、とても鋭いです。むしろ、もっと多くの社長さんに気づいてほしいポイントでもあります。
日本銀行の政策転換によって、日本もついに金利のある時代に戻ってきました。
変動金利で融資を受けている社長さんの中には、最近届いた銀行からの通知を見て驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
支払利息が少しずつ、しかし確実に上がり始めています。
そんな状況の中で、銀行に利息を払いながら解約返戻率の低い節税保険にお金を積み立てている。
もしこのような状態になっているなら、少し立ち止まって考えてみてほしいことがあります。
今回は、インフレと金利上昇が進むこの時代に、節税保険を続けるべきか、それとも借金返済を優先すべきか。
その判断基準を経営の原理原則に基づいて解説していきます。
繰り上げ返済にもリスクはありますので、その点もあわせてお伝えします。
そもそも逆ザヤとは何か? 気づかないうちに損が膨らむ仕組み
まず、逆ザヤという言葉をご存じでしょうか。
お金を借りるコスト(金利)よりも、運用で得られるリターン(利回り)が低い状態のことです。
会社経営でこの状態を放っておくのは、ゆっくりと体力を奪われていくのと同じです。
今の状況を右手と左手にたとえて整理してみましょう。
右手には借入金があります。
金利は上昇局面にあり、これから1.5%、2.0%とコストが上がっていく可能性が高いでしょう。
左手には保険積立があります。
多くの保険は解約返戻率85%までに抑えられている上に、インフレによってその価値は目減りしていきます。
つまり、高いコストを払って現金を調達し、それをマイナスの利回りで運用しているという構造です。
このマイナス利回り分を万が一のときの保障のコスト(本来の保険の機能)として納得できるのであれば良いですが、節税保険を保障のために入っている方はごく少数ではないでしょうか。
節税の正体は先送り、借金返済の効果は永久に続く
「でも先生、返済してしまったら手元のお金が減るし、節税もできなくなるじゃないか」
そう思われる社長さんもいらっしゃるでしょう。
ここで大切なのは、節税と借金返済では、お金に与える影響の質がまったく違うという点です。
保険を使った節税の正体は、税金の支払いを先送りしているにすぎません。
将来、保険を解約すれば雑収入として課税されますので、トータルの税負担は大きくは変わらないケースがほとんどです。
しかも、その時間を稼ぐために、保険会社への手数料やインフレによる目減りという見えないコストを払い続けています。
一方、借入金の返済はまったく性質が異なります。
借金を返せば、支払利息というこの先ずっと出ていくはずだったコストが、その瞬間から消えてなくなります。
先送りではなく、永久にコストを削減できる効果の確定です。
金利が上がっていく局面では、現金を寝かせておくことのコストがどんどん大きくなります。
この原則だけを見れば、借金返済は合理的な判断です。
ただし、見落としてはいけない大事なポイントがあります。
繰り上げ返済には落とし穴もあります
ここまで読んで、それなら今すぐ全額返済しようと思った社長さんもいらっしゃるかもしれません。
しかし、繰り上げ返済にも見過ごせないリスクがあります。
1つ目のリスクは、手元資金が枯渇する危険性です。
繰り上げ返済に資金を振り向けすぎると、突発的な設備故障や取引先の倒産といった予期せぬ支出に対応できなくなります。
会社にとってのキャッシュは人間にとっての血液と同じです。
いくらバランスシートが健全でも、手元にお金がなければ日々の支払いは回りません。
月商の何か月分が手元に残っていますか。最低でも3か月分、できれば6か月分の運転資金を確保したうえで、余剰を返済に充てるのが安全です。
2つ目のリスクは、事業の成長機会を逃す可能性です。
たとえば、借入金利が1.5%でも、その資金を使って年5%のリターンが見込める設備投資ができるなら、あえて返済せずに手元に残しておく方が合理的な場合もあります。
低金利で調達した資金は、見方を変えれば成長のためのレバレッジです。
返済を急ぐよりも攻めの投資に振り向けた方が、長期的に会社の価値を高めるケースも少なくありません。
大切なのは、借入金利と投資リターンの差を冷静に比較することでしょう。
3つ目のリスクは、金融機関との関係性への影響です。
適度な借入を維持して返済実績を積み重ねることで、金融機関との信頼関係が育まれていきます。
この信頼があるからこそ、本当に資金が必要になった時に迅速な融資を受けられるわけです。
一度完済して取引が途切れると、再び融資を申し込む際にはゼロから審査のやり直しになりかねません。
緊急時の融資枠を確保しておくという意味でも、一定の借入関係を残しておくことには合理性があります。
銀行の審査部が見ているのは財務の中身です
「銀行との付き合いがあるから、ある程度は借りておかないとまずいんだ」
「手元に現預金がたくさんあれば、銀行の評価は上がるだろう」
こう考えている社長さんは少なくありません。
適度な借入関係の維持には意味がありますが、表面的に現預金が多く見えればよいというわけではありません。
銀行の審査部は冷静にバランスシートの実態を見ています。
現預金が多く見えても、それ以上の借入金があったり、収益を生まない保険積立金として資金が寝ているなら、かえって評価が下がるリスクすらあります。
つまり、大切なのは借金の量ではなく質です。
事業に直結する借入は健全ですが、節税目的だけで保険に流している借入は評価を下げかねません。
筋肉質な財務体質を作りながら銀行との良好な取引関係も維持する。この両立が金利上昇時代の銀行対策です。
予備資金は保険でなくても確保できます
「保険なら解約すればすぐ現金化できるから、いざという時の備えとして持っておきたい」
この考えも理解できます。
しかし、保険商品は早期解約すると大きく元本割れするケースが多いです。
しかも解約手続きには時間がかかり、今日申請して明日入金されるわけではありません。
では、本当に賢い予備資金の備え方を考えてみましょう。
まず大切なのは、手元のキャッシュを十分に確保しておくことです。
月商の3か月分から6か月分の現預金維持が基本になります。
そのうえで返済実績を積んでおけば、銀行からの融資枠という形で予備の資金調達力を持つことができます。
手元資金の確保と銀行との信頼関係、この2つの組み合わせが、保険よりもはるかに柔軟で実用的な備えになるでしょう。
今日からできる4つのアクション
最後に、すぐに取りかかれることをまとめておきます。
1つ目は、自社の借入金利を改めて確認することです。
変動金利の場合、最近どれくらい上がっているかを正確に把握しておきましょう。
2つ目は、加入している保険の実質返戻率をチェックしてみてください。
名目の返戻率ではなく、インフレを考慮した実質的な利回りがどうなっているかがポイントになります。
3つ目は、手元資金の水準を見直すことです。
月商の何か月分が現預金として確保されているか、突発的な支出に耐えられる体力があるかを確認してみてください。
4つ目は、これらの数字を並べて、返済に回せる余剰資金があるかを判断することです。
手元資金を減らしすぎるのも危険です。大切なのは、自社の状況に合った最適なバランスを見つけることでしょう。
まずは今日、借入金利、保険の返戻率、そして手元資金の残高を並べて見比べてみてください。その3つの数字が、次に何をすべきかを教えてくれるはずです。


