眠れない夜の経営判断が会社を弱らせる、深夜の判断ミスと脳の意外な関係

従業員が帰った後の深夜のオフィスや、家族が寝静まった自宅のリビングで、一人でネットバンキングの残高と支払い予定表を見比べて資金繰りを模索する。
この強烈な孤独とプレッシャーは経営者にしか分からないものかもしれません。
従業員に相談すれば不安がらせてしまうし、家族に言えば心配をかけてしまう。
だから一人で抱え込んでしまいます。
しかし、深夜に一人で下した決断は、後から振り返るとあまり良い結果につながらないことが多いです。
強い不安を感じているときの脳は、猛獣に襲われたときと同じようなパニック状態に陥っているからです。
長期的な利益を計算できる状態ではありません。
多くの経営者が陥りがちな安売り、強引なリストラ、怪しいコンサルへの依存。
これらの判断ミスは脳のコンディション不良が引き起こす必然的なエラーといえます。
本記事では、経営者のメンタルヘルスを脳科学と経営リスクの観点からお伝えしていきます。
なぜ追い詰められると判断を誤るのか
IQが下がり、視野が狭くなってしまう理由
人間が強い不安や恐怖を感じると、脳内の扁桃体という部位が激しく反応します。
扁桃体が暴走すると、脳の司令塔である前頭前野への血流が抑制されてしまいます。
前頭前野は論理的思考や長期的な計画を司る部位であり、まさに経営者としての脳といえる場所です。
ここが機能停止するということは、一時的にIQが著しく低下している状態と同じことになります。
さらに、心理学でいうトンネル視の状態に陥ります。
視界が極端に狭くなり、目の前の脅威しか見えなくなってしまいます。
本来なら既存客へのアプローチや経費の見直しなど、いくつもの選択肢があるはずなのに、パニックになった脳は手っ取り早い解決策に飛びついてしまいます。
それが全品20%オフで現金を作るという安売りや、高金利のビジネスローンに手を出すという破滅的な選択です。
冷静な時なら絶対に選ばない選択肢でも、脳がハイジャックされている状態では唯一の希望に見えてしまいます。
損失を恐れるあまり、さらに大きな損失を招いてしまう
プロスペクト理論によれば、人間は利益を得る喜びより損失を被る痛みを2倍以上強く感じるといわれています。
経営が危機的状況にあるとき、社長の脳内は損失への恐怖で埋め尽くされています。
このとき脳はリスクを取ってでも損失を一発で取り返そうとするギャンブル思考に切り替わってしまいます。
起死回生の新規事業に全財産を突っ込む、一発逆転を狙って過大な広告費をかけるなどの行動に出やすくなります。
攻めの経営だけでは続かない理由
起業家がはまりやすいドーパミン中毒という罠
多くの経営者は、もともとエネルギッシュで目標達成意欲が高い人たちです。
脳科学的に見れば、ドーパミンという報酬系ホルモンの感度が高い人たちといえるかもしれません。
もっと売上を、もっと成長を、ライバルに勝つ、ドーパミンは強力な推進力となります。
創業期にはこのエネルギーが不可欠でしょう。
しかし、ドーパミンには副作用があります。
それは、もっともっとという渇望と、それが満たされないときのイライラです。
常に何か足りないと感じ、次から次へと新しいことに手を出さないと気が済まない状態です。
成長期はうまくいきますが、壁にぶつかったりしたときに脆さを見せます。
思い通りにならない現実にイライラし、自分を追い詰めて燃え尽きてしまうことがあります。
長く続く会社の社長が持っているもの
長く安定して繁栄している会社の社長は、セロトニンという幸福・安定ホルモンを味方につけています。
セロトニンは精神を安定させ、暴走するドーパミンやノルアドレナリンをコントロールする役割を果たします。
セロトニンが十分に分泌されていると、頭がクリアになり複雑な問題を整理できるようになります。
カッとなって怒鳴ったり、焦って値下げしたりするのを踏みとどまれるようにもなります。
経営判断において重要なのは、アクセルをベタ踏みすることではありません。
ハンドルをしっかり握り、広い視野で見渡す冷静さを持つことです。
特に不況時やトラブル時こそ、社長にはセロトニンが必要になります。
孤独を和らげる意外な方法、お客様との関係がメンタルを守る
孤独は想像以上に体に悪い
経営者の最大の敵は孤独かもしれません。
誰にも相談できない、誰も分かってくれないという孤立感は、脳にとって物理的な痛みと同じ信号を発するといわれています。
研究によれば、孤独による健康被害はタバコを1日15本吸うのと同等だという報告もあります。
孤独感はコルチゾールというストレスホルモンを増やし、免疫力を下げ、判断力を奪います。
では、経営者はどうやって孤独を癒やせばいいのでしょうか。
リピーターとの関係が心を安定させる
ここで、リピーター重視の経営がメンタルヘルスの観点からも重要になってきます。
新規客ばかりを追う狩猟型経営は、常に不安定です。
明日の獲物が取れるかわからない恐怖と隣り合わせで走り続けなければなりません。
一方、既存客との関係を深める農耕型経営は、精神的な安定をもたらしてくれます。
「〇〇社長、いつもありがとう」
「あなたのおかげで助かったよ」
なじみの顧客からの感謝の言葉や何気ない雑談。
これらは脳内でオキシトシンという幸せホルモンを分泌させます。
オキシトシンはセロトニンの分泌を助け、ストレスを劇的に軽減してくれます。
自分には味方がいる、支えてくれる人がいる。この感覚こそが経営者の孤独を癒やす一番の薬です。
リピーター戦略は単なる収益モデルではありません。
経営者が精神を病まず、長く現役で走り続けるためのメンタルケアでもあります。
今日からできること——睡眠と朝の習慣で脳を整える
睡眠時間を管理しましょう
もしあなたが今、経営判断に迷っているなら、まずやるべきことは寝ることです。
寝る間も惜しんで働くことが美徳とされることもありますが、脳科学的には6時間未満の睡眠での脳はほろ酔い状態と同程度のパフォーマンスしか出せないといわれています。
お酒を飲みながら数千万円の契約書にハンコを押しますか?
寝不足で仕事をするとは、それと同じくらい危険な行為かもしれません。
十分な睡眠をとった翌朝の脳はクリアです。
昨日の夜はあんなに悩んでいたのに翌朝にはあっさりと解決策が見つかる。
そんな経験はありませんか?それこそが正常な脳の力です。
朝の散歩でセロトニンを作る
セロトニンを増やす最も簡単な方法は、朝日を浴びてリズミカルな運動をすることです。
朝15分でいいので外を散歩してみてください。これだけで脳内のセロトニンの分泌が促進されます。
歩いていたら、ふと良いアイデアが降りてきたという話を良く聞きます。
それは偶然ではなく、セロトニンが分泌され、脳が活性化した証拠です。
おわりに:社長のご機嫌は、最強のリスクマネジメント
お金を生み出し守る判断をするのは社長の脳です。
だからこそ、社長の脳のコンディションを守ることは重要な財務戦略の一部です。
忙しくて寝る時間がないのではありません。
寝ないから仕事の効率が悪くなり、判断を誤り、トラブルが増えて忙しくなっているのかもしれません。
勇気を持って休んでください。朝日を浴びてください。
そして、あなたを信頼してくれる常連客との関係を大切にしてください。
そのとき脳内で分泌されるセロトニンとオキシトシンこそが、正しい経営判断を導き出してくれます。


