売上を追いかけても楽にならない理由。経営者が知るべきビジネスモデルの基本設計

目次

はじめに:ビジネスモデルとは、結局何なのか

日々の経営に追われていると、ふと「うちのビジネスモデルって、これでいいんだろうか」と考える瞬間はありませんか?

「ビジネスモデル」という言葉はよく耳にしますよね。
会議や書籍、ビジネス系のメディアでも頻繁に登場します。
しかし、いざ「日本語で説明してください」と言われると、意外と言葉に詰まる方が多いのではないでしょうか。

周囲の経営者仲間に尋ねてみると、
「売上の作り方のことでしょ」
「お客様と効率よくつながる仕組みかな」
「高付加価値の商品を売る考え方?」
など、答えは人それぞれです。大きな概念だからこそ、捉え方にバラつきが生まれやすいのでしょう。

そこで、この記事ではビジネスモデルを次のように定義します。

誰に、どんな商品を、どうやってお届けし、どのような収益を上げるか。

シンプルですが、この一文にビジネスの本質が凝縮されています。
そして、この定義は4つの基本要素に分解できます。

1つ目は顧客、つまり誰に売るのかということ。
2つ目は商品、何を売るのかということ。
3つ目はデリバリー、どうやって届けるのかということ。
そして4つ目は収益、どう儲けるのかということです。

これら4つの要素を一つひとつ丁寧に組み立て、統合していくことが、ビジネスモデルの設計そのものにあたります。
それでは、各要素を詳しく見ていきましょう。

要素1:顧客を想定する——視野を狭めていませんか

ビジネスモデルを考える最初のステップは、誰に売るのか顧客を想定することです。
当たり前のように聞こえますが、ここで多くの経営者がつまずきます。

ありがちな失敗は、先入観からいきなりターゲットを絞りすぎてしまうことです。

たとえば、ピアノ教室を開こうと考えた方がいるとしましょう。
「お客様は個人。音大受験を目指す中高生をターゲットにしよう」と、最初から決め打ちしてしまうケースは珍しくありません。

もちろん、その方向性自体が間違っているわけではありません。
しかし、思い込みがビジネスの可能性を狭めているとしたら、とてももったいない話です。

実は、ピアノの演奏スキルは個人だけでなく、企業向けのサービスとしても提供できます。
楽器店でのデモ演奏、商業施設の販促イベント、あるいは企業の社員研修の一環としての音楽体験など、視野を広げれば新たな市場が見えてくるのではないでしょうか。

顧客は大きく3つに分類できます。
公共として国や自治体があり、企業として法人や事業者があり、そして個人がいます。

効果的に顧客を想定するには、まず大分類で考え、次に属性を絞り、最後にニーズを特定するというステップを踏むのがおすすめです。

たとえば公共(大分類)であれば、人口10万人規模の自治体(属性)が地域イベントの集客を増やしたいというニーズを持っているかもしれません。
企業(大分類)であれば、中規模の小売店(属性)が客離れに歯止めをかけたいと考えているかもしれません。
個人(大分類)であれば、30代の独身男性(属性)が将来への不安を解消したいと感じているかもしれません。

まずは広い視野で「自分が持っているスキルや商品は、公共・企業・個人のそれぞれに提供できないだろうか」と考えてみてください。
顧客の設定は、あなたのビジネス全体の方向性を決める羅針盤になります。

要素2:商品を構成する——売りやすさに逃げていませんか

顧客を想定したら、次は商品について考えます。
ここで絶対に覚えておいていただきたいことがあります。

「どうやって売るか」よりも「何を売るか」が先です。

非常にシンプルな原則ですが、これを見落としている経営者は少なくありません。
売りやすい商品を優先した結果、売上は上がるのに利益が残らない。
そんなジレンマに陥っていませんか。

流行に乗ること、ニーズが旺盛な市場を狙うこと。これらはもちろん大切です。
しかし、それ以上に重要なのは、その商品がどれだけの利益を生み出すかという視点にほかなりません。

ビジネスで最も大切なのは売上ではなく利益です。
どれだけ利益率が高くても売れなければ商売は成り立ちませんが、そもそも利益が出ない商品をいくら売り続けても、ビジネスは持続できません。

「何を売るか」をどれだけ真剣に考え抜いたかで、商売の成否は大きく変わります。
あなたが扱っている商品は、ただ売れるだけの売上商品でしょうか。
それとも、ビジネスを未来へつなぐ利益商品でしょうか。
この機会に、ぜひその視点から見直してみてください。

要素3:デリバリーを設計する——売れるほど苦しくなっていませんか

デリバリーと聞くと、ピザの宅配のような配達をイメージするかもしれません。
しかし、ここでいうデリバリーはもっと広い意味を持っています。

有形物の配達や配送だけでなく、無形物の配信、さらには情報をどう伝えるかという伝え方も含まれます。

この要素で最も重要なのは、物量と作業量が比例しない仕組みを作ることです。

ここで少し考えてみてください。
商品を1つ届けるのに労力が1かかるとします。
では、その商品を100個届ける場合、労力はどれくらいになるでしょうか。

「100倍だから労力も100」と思った方は、要注意かもしれません。
それでは、売上が伸びるほど苦しくなる構造から抜け出せません。
目指すべきは、商品が100個でも労力は80、あるいはそれ以下になる仕組みです。

ある花屋さんの事例です。
母の日に向けて通販で多くの注文を受けましたが、配達指定日が特定の日に集中してしまいました。
商品の保管、注文データの整理、送り状の管理といった業務が爆発的に増加し、結果として追加でかかる労力が注文数以上に膨れ上がりました。
100個売ったのに、労力は120かかってしまったという状態です。

この花屋さんは問題を解決するために、配達希望日を分散してくれたお客様にはおまけを用意するという施策を導入しました。
作業負荷が平準化され、おまけのコストを差し引いても十分な効果が得られたそうです。

この事例が示しているのは、3つの要素が常につながっているということです。
顧客の行動がデリバリーに影響し、それが収益を圧迫する。
逆に、デリバリーの工夫が顧客満足と収益改善の両方を実現することもあります。

あなたのビジネスは、売れれば売れるほど忙しくなる比例モデルになっていませんか。

要素4:収益を考える——値上げを避けていませんか

ビジネスの最終目的は、言うまでもなく利益を上げることです。
では、販売個数を変えずに利益を増やすには、どうすればよいでしょうか。

方法は2つしかありません。
販売価格を上げることコストを削減することです。

多くの経営者が、まずコスト削減に目を向けがちです。
しかし、削減には限界があります。行き過ぎれば品質の低下を招き、価格競争という泥沼に足を踏み入れるリスクも高まるでしょう。

そこで、あなたに挑戦していただきたいのが値上げです。

特に、コンサルティングやオンラインサロンのような無形商品は、仕入れがないぶん価格設定が難しくなります。
お客様の購買ハードルを下げたいという思いから、つい安めの価格をつけてしまう気持ちはよくわかります。
しかし、覚えておいてください。
一度決めた価格を後から上げるのは、想像以上に困難です。

先ほど商品のくだりで利益の重要性をお話ししましたが、この価格設定こそが利益を確保するための最も直接的なアクションになります。
提供する価値に見合った価格をしっかり設定することが、ビジネスの持続可能性を左右するといっても過言ではありません。

まとめ:4つの要素を統合し、撤退ルールまで決めておく

ここまで解説してきた4つの基本要素を整理しておきましょう。

顧客については、誰に売るのかを考える際に、いきなり絞り込まず広い視野で可能性を探ることが大切です。
商品については、何を売るのかを考える際に、売りやすさよりも利益を最優先してください。
デリバリーについては、どうやって届けるのかを考える際に、作業量が販売数に比例しない仕組みを目指しましょう。
収益については、どう儲けるのかを考える際に、価値に見合った価格を設定することが重要になります。

これら4つの要素を組み立てることで、あなたのビジネスモデルの骨格ができあがります。

最後に、これらすべてと同じくらい重要なことをお伝えします。

それは、撤退のルールをあらかじめ決めておくことです。

縁起でもないと思われるかもしれません。
しかし、ビジネスは必ずしもうまくいくとは限りません。
希望的観測が、気づいたときには取り返しのつかない事態を招くことがあります。

うまくいかなくなったときに致命傷を負わず、次のチャレンジができる余力を残しておくこと。
そのための撤退地点を明確に決めておくこと。
それこそが、あなたが長くビジネスを続けていくためのお守りになるはずです。

ビジネスモデルは一度作って終わりではありません。
市場も顧客も変化し続けます。
定期的に4つの要素を見直し、必要に応じて軌道修正していく姿勢が、持続的な成長へと導いてくれるでしょう。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

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