不確実な時代を勝ち抜くための「事業計画」と「予実管理」の投資対効果

はじめに:数字が苦手でも、会社は守れる
目の前の仕事で手一杯なのに、計画なんて立てる余裕がない。
決算の数字は税理士さんに任せているから大丈夫。
そう思っている経営者の方は、きっと少なくないでしょう。
実際、日々の業務に追われながら将来の計画まで考えるのは、本当に大変なことです。
私も経営をしていますので、その気持ちは痛いほどよくわかります。
ただ、ここ数年で経営環境は大きく変わりました。
原材料費はじわじわと上がり続け、人手不足は深刻化し、お客様のニーズも目まぐるしく変化しています。
こうした状況の中で、勘と経験だけを頼りに舵を取るのは、霧の中を地図なしで進むようなものかもしれません。
本記事では、中小企業にこそ必要な事業計画と予算・実績管理(以下「予実管理」)について、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
難しい専門用語は極力避けて、明日から使える考え方を中心にまとめました。
なぜ今、計画と管理が必要なのか
事業計画や予実管理と聞くと、大企業がやるものというイメージがあるかもしれません。
しかし実は、限られた資源で勝負しなければならない中小企業にこそ、これらの仕組みが力を発揮します。
見えない不安を、見える課題に変える
経営者の方とお話をしていると、なんとなく将来が不安、資金繰りが心配、というお声をよく耳にします。
この漠然とした不安は、夜も眠れないほど心に負担をかけるものです。
予実管理の一番の価値は、この正体のわからない不安を数字という形にして、対処できる課題に変えることにあります。
たとえば、来月の資金が200万円足りないとわかれば、今日から手を打てます。
売掛金の回収を早めるのか、支払いの交渉をするのか、具体的なアクションが見えてきます。
見えない不安と戦い続ける消耗戦から抜け出すには、まずその不安の姿を明らかにすることが第一歩となります。
金融機関からの信頼を得るために
融資を申し込んだとき、銀行の担当者が見ているのは現在の売上高だけではありません。
彼らが本当に知りたいのは、この経営者は自社の状況をきちんと把握できているか、という点です。
御社の強みは何ですか。
今後の見通しはどうなっていますか。
計画と実績の差はどれくらいありますか。
こうした質問に、数字を交えてしっかり答えられる経営者は、銀行から見て貸しても安心な相手として映ります。
結果として、必要なときに必要な資金を調達できる力が高まっていきます。
これは会社の成長を支える土台となる大切な力です。
撤退と投資の判断を誤らないために
ビジネスにおいて、撤退の判断が遅れることは致命傷になりかねません。
赤字の事業にいつまでも資金を注ぎ込み、会社全体が傾いてしまう。そんな事例は枚挙にいとまがないでしょう。
予実管理があれば、計画どおりに進んでいないという警告サインを早い段階で察知できます。
感覚ではなく根拠をもって、この事業は撤退すべきだ、あるいはこちらの事業にもっと投資しようと判断できるようになるのです。
御社では、撤退や投資の判断をどのように行っていますか。
導入で得られる具体的な効果
予実管理は確かに手間がかかります。
毎月数字を集計し、計画と比較し、原因を分析する。忙しい中でそんな時間はないと感じる方も多いでしょう。
しかし、この手間をかけることで得られる効果は、かけた労力をはるかに上回ります。
経営判断のスピードが上がる
月次決算が確定するのは、だいたい翌月末から翌々月にかけてというのが一般的です。
つまり、1月の問題に気づくのは3月ごろということも珍しくありません。
一方、予実管理を導入している会社では、週単位、あるいは日単位で状況を把握しています。
問題が起きたら、その週のうちに対策を打てるのです。
この約1か月から2か月の差は、競合他社との戦いにおいて決定的な優位性をもたらします。
市場の変化が速い今の時代、この機動力こそが中小企業の最大の武器になり得ます。
社員の意識が変わる
予実管理のもう一つの効果は、組織全体の意識が変わることです。
数字をオープンにして社員と共有すると、不思議なことが起こります。
これまで社長の小言として受け流されていた経費削減の話が、目標達成のために必要な取り組みとして理解されるようになるのです。
なぜこの商品に力を入れるのか。なぜ残業を減らさなければならないのか。
数字という共通言語があれば、社員一人ひとりが経営者と同じ視点で考えられるようになります。
これは単なる情報共有ではありません。
社員の中に経営者目線が育つということであり、組織としての底力が上がることを意味しています。
利益が残る体質になる
予実管理を行っている会社とそうでない会社の違いは、利益率にはっきりと表れます。
まず経費の使い方が変わります。
予算という枠がなければ、経費はなんとなく使いすぎてしまうか、逆に削減し過ぎてしまうものです。
経費は削減すればするほど良いわけではありません。
成長を支えるためには使わなければならない経費もあります。
予実管理があれば、予算の枠内でいかにして最大の効果を出すかという意識が自然と身につきます。
値引きへの姿勢も変わってきます。
受注を取りたいがために安易に値引きしてしまう。その繰り返しで利益が削られていく。
こうした悪循環を、利益目標があるから簡単には値引きできないという形で断ち切れるようになります。
そして何より、異常値への対応が早くなります。
決算まで気づかなかった問題が、発生した瞬間に感知できるようになるのです。
結果として、売上はあるのに利益が残らないという状態から、狙いどおりの利益をしっかり確保できる会社へと変わっていきます。
ここで大切なのは、予実管理の目的は単なる数字合わせではないということです。
真の目的は、利益を意図的に生み出せる体質へと会社を変えることにあります。
目標達成という最大の成果
事業計画と予実管理がもたらす最終的な成果は、目標達成の再現性が高まることです。
偶然の成功から、必然の成功へ
たまたま景気がよかったから達成できた。
大口の受注があってラッキーだった。
こうした偶然に頼った成功体験は、残念ながら再現性がありません。
次も同じようにうまくいく保証はどこにもないのです。
一方、計画を立て、予実を確認し、軌道修正しながら達成するというプロセスを経た会社は、成功の理由を理解しています。
どの数字をどう動かせば利益が出るのかがわかっているため、不況下であっても安定して成果を出し続けることができます。
これこそが、中小企業が目指すべき潰れない強い会社の姿ではないでしょうか。
計画は変わってもいい
ここで一つ、大切なことをお伝えしておきます。
事業計画は一度立てたら変えてはいけないものではありません。
むしろ、状況に応じて柔軟に見直していくものです。
計画と実績にズレが生じたとき、それは失敗ではなく学びの機会です。
なぜズレたのか。前提条件に誤りがあったのか。外部環境が変化したのか。
こうした分析を重ねることで、計画の精度は着実に上がっていきます。
最初から完璧な計画を立てようとして、結局何も始められない。
そんな状態に陥る必要はまったくありません。
まずは粗い計画でも立ててみて、走りながら修正していく。
そのほうがずっと実践的であり、成果にもつながりやすいです。
おわりに:未来への投資として
事業計画と予実管理の導入は、単なる管理業務の追加ではありません。
それは、経営者の勘をデータで補強し、社員を巻き込んで組織的に経営するための土台づくりです。
どうせ絵に描いた餅になるんじゃないかという声をよく聞きます。
その気持ちはよくわかります。
しかし、地図を持たずに旅に出るのと、大まかでも地図を持って出発するのとでは、たどり着ける場所が違ってくるのではないでしょうか。
計画はあくまで未来への羅針盤です。完璧である必要はありません。
まずは御社の3か月後、半年後、1年後をざっくりとでも描いてみることから始めてみませんか。
その一歩が、御社の経営をより高いステージへと引き上げる第一歩になるはずです。


