新規契約が取れた瞬間、あなたの会社は赤字になっている。税理士が教える、利益が残る顧客との付き合い方

「やりました! 新規の大口契約が取れました!」
契約が取れたことは素晴らしいことです。
しかし、本当の勝負はここからです。
なぜなら、新規顧客を獲得するためにかかった広告費や営業コストを考えると、初回の売上だけでは元が取れていないケースがほとんどです。
利益が出るのは、その方が2回、3回とリピートしてくださり、長いお付き合いになってからです。
ところが、多くの会社は契約を取った瞬間に満足してしまいます。
せっかくご縁をいただいたお客様を放置し、次の新規開拓へと走り出してしまうのです。
本記事では、この売って終わりの発想を改め、お客様との関係を深めることで長期的な利益を生み出す考え方についてお伝えします。
なぜ新規ばかり追いかけても利益が残らないのか
経営において、新規顧客の獲得はとても華やかに見えます。
営業マンが大きな契約を取ってくれば、社内は盛り上がりますし、売上の数字も跳ね上がるでしょう。
しかし、その裏側で何が起きているか。
新規のお客様を一人獲得するのにいくらかかっているでしょうか。
広告費、営業マンの人件費、提案資料の作成、商談にかかる時間——これらを合計すると、想像以上の金額になっていることが少なくありません。
一方、すでにお付き合いのあるお客様にもう一度買っていただくコストは、新規獲得の5分の1とも10分の1ともいわれています。
既存のお客様は、あなたの会社のことをすでにご存知ですし、信頼関係もできているからです。
それにもかかわらず、多くの会社は新規ばかりを追いかけ、既存のお客様へのフォローがおろそかになっています。
まるで、種をまいて芽が出たばかりの畑を放置して、また別の土地を耕しに行くようなものです。
お客様との関係を深める階段づくり
では、どうすればお客様に長く付き合っていただけるのでしょうか。
ここで大切になるのが、段階的に関係を深めていく仕組みを作るという発想です。
マーケティングの世界では、これをバリューラダー、つまり価値の階段と呼んでいます。
人間関係に置き換えるとわかりやすいかもしれません。
初対面の相手にいきなり大きなお願いをしても、なかなか受け入れてもらえないでしょう。
まずは軽い挨拶から始まり、少しずつ会話を重ね、信頼が積み重なってから本題に入る——これが自然な流れです。
お客様との関係も同じように考えてみてください。
最初の段階では、無料のお役立ち情報やお試し体験など、気軽に手に取っていただけるものを用意します。
ここでは利益を出そうとは思わないことがポイントです。
目的は、あなたの会社を知っていただき、関係の入り口を開くことにあります。
次の段階では、比較的手頃な価格の商品やサービスをご提案します。
ここでお客様に満足していただければ、この会社は信頼できるという実感を持っていただけるでしょう。
そして、十分な信頼関係ができてから、本命の商品やサービスをご案内するわけです。
さらにその先には、継続的な会員制度や顧問契約、特別なサービスなど、長くお付き合いいただける仕組みを設けておきます。
この階段がない会社は、お客様との関係がそこで止まってしまいます。
良い商品だったけど、また機会があれば。そう思われたまま、せっかくのご縁が途切れてしまうのです。
大切なのは、常に次の提案を用意しておくことです。
商品を買っていただいた瞬間に、次はこういったものもございますとお伝えできる準備をしておく。
あるいは、売り切りの商品であっても、メンテナンスや消耗品の定期配送という形で、関係を続けられる仕組みを考えておくとよいでしょう。
お客様が自然と離れにくくなる心理の仕組み
階段を上っていただくことには、もう一つ大きなメリットがあります。
それは、お客様があなたの会社から離れにくくなるということです。
人間には、自分が時間やお金、労力をかけたものに対して愛着を感じる心理があります。
ここまで付き合ってきたのだから、今さら他に行くのはもったいない。
そう感じるのは、ごく自然な心の動きです。
あなたにも心当たりはありませんか。
長年使っているサービスを、多少不満があっても続けてしまうこと。
新しいものに乗り換えるのが面倒で、そのままにしていること。
たとえば、お客様のお話をじっくり伺い、ご要望を細かくヒアリングしてオーダーメイドの提案を作り上げる。
そうすると、お客様の中には、ここまで自分のことを理解してくれた担当者は他にいない、という気持ちが生まれます。
今から別の会社に行って、また一から説明するのは大変だな。
そう感じていただければ、自然と長いお付き合いにつながっていくでしょう。
来店回数や購入金額に応じてランクが上がる会員制度も、同じ原理で効果を発揮します。
あと少しで上のランクに届くというときに、他のお店に浮気するのはもったいないと感じるものです。
お客様があなたの会社に関われば関わるほど、時間と感情を投資すればするほど、離れることが自分にとっての損失だと感じるようになります。
これは決して後ろめたいテクニックではありません。
お客様に深く関わり、価値を提供し続けた結果として、自然に生まれる関係性の強さなのです。
経営の視点を切り替える——今期の売上から生涯の価値へ
ここまでお読みいただいて、なぜ多くの経営者が新規ばかりを追いかけてしまうのか、疑問に思われたかもしれません。
その理由の一つは、会計の仕組みにあると私は考えています。
損益計算書は、1年という区切りで利益を計算します。
そのため、どうしても今期の売上という短期的な数字に目が向きがちです。
新規契約を取れば今期の売上が増える、だから新規だ——こういった思考になりやすいのでしょう。
しかし、本当に強い会社を作りたいのであれば、もう少し長い目で見る必要があります。
一人のお客様が生涯を通じてもたらしてくれる価値、いわゆるLTVという考え方です。
これは、平均的な購入金額に、購入の頻度と、お付き合いの長さを掛け合わせたものになります。
一回あたりの売上が小さくても、10年、20年と続いていただければ、それは非常に大きな価値になります。
そして、お付き合いの長さを伸ばす鍵こそが、先ほどお話しした関係性の階段と、お客様との絆を深める取り組みなのです。
お客様への投資は最強の経費の使い方である
このような視点を持つと、経費の使い方も変わってきます。
利益が出たとき、税金を払いたくないからといって、事業にあまり関係のない高級車や過剰な保険にお金を使うのは、正直なところあまり賢い選択とは言えません。
それよりも、お客様への還元にお金を使ってみてはいかがでしょうか。
既存のお客様に心を込めた手書きのお礼状を送る。
日頃の感謝を伝える食事会を開く。
役立つ情報をまとめたニュースレターを定期的にお届けする。
これらは全額が経費として認められ、法人税の負担を軽くしてくれます。
それだけではありません。お客様との絆を深め、来期以降の売上を盤石なものにしてくれるのです。
税金を抑えながら、将来の売上も増やす。
これこそが、私が税理士としておすすめしたい経費の使い方です。
おわりに——顧客リストが会社を豊かにしてくれる
あなたの会社の顧客リストを、ぜひ一度見直してみてください。
そこに並んでいる名前は、これからも実りをもたらしてくれる畑のような存在です。
こまめに連絡を取り、価値のある情報や提案をお届けし、不満や困りごとがあれば丁寧に対応する。
そうやって手間をかければかけるほど、お客様はあなたの会社に愛着を持ってくださいます。
新しいお客様を追いかけることは確かにワクワクします。
しかし、それだけでは経営は安定しません。
すでにご縁のあるお客様を大切に育てていく地道な取り組みこそが、長い目で見れば会社を豊かにしてくれます。


