Win-Winの報酬と節税 ―社員も会社も喜ぶ仕組みづくり―

どうせ税金で取られるくらいなら、社員にボーナスとして還元したい。

決算が近づくと、このように考える経営者の方は少なくありません。
一見すると、社員も喜び、税金も減る。良いことづくめに思えます。

しかし、ここには見えにくい落とし穴が潜んでいます。

今回はスティーブン・R・コヴィー博士の名著『7つの習慣』の中の、第4の習慣〈Win-Winを考える〉の視点を活かして、人件費と節税の関係について整理してみたいと思います。

目次

気づかないうちに誰も得していない状態に

決算前のボーナスが招くすれ違い

決算期末に「今期は利益が残りそうだ」となったとき、余った利益でボーナスを出す会社がよくあります。

このとき、社長と社員の間にはこんな温度差が生まれていることがあります。

【社長の本音】
税金で持っていかれるくらいなら、頑張ってくれた社員に配りたい

【社員の本音】
臨時ボーナスは嬉しいけど、これって来年も出るのかな…
 

実はこのやり方には、思わぬリスクが隠れています。

【会社側のリスク】
一度上げたボーナスや給与は、翌年以降も続けざるを得なくなります。
結果として固定費や社会保険料がじわじわと増え、利益が残りにくい体質になってしまいます。

【社員側のリスク】
業績が良かったからというよりも、社長の気分次第と感じてしまい、モチベーションが不安定になります。
頑張りが報われている実感を持ちにくいのです。

こうなると、社長も社員も、そして会社の財務も、誰も本当の意味では得をしていません。
これこそが、典型的な〈Lose-Lose〉となってしまう報酬と節税の関係です。

決算賞与には厳格なルールがある

さらに注意したいのが、税務上のルールです。
決算日までに支払われていない賞与を、その期の経費として計上するには、国税庁が定める厳格な要件をすべて満たす必要があります。

具体的には、次の3つです。

  1. 決算日までに、支給額を全従業員それぞれに通知すること
  2. 決算日の翌日から1ヶ月以内に、通知額を全員に支払うこと
  3. 決算期に未払金として損金経理していること

これらの要件を一つでも満たさない場合、たとえば一部の人にだけ通知したり、支払いが遅れたりすると、その賞与は決算期の経費として認められません。

つまり、節税のつもりが節税にならないこともあるのです。

Win-Winな人件費とは何か

利益の生まれ方とセットで考える

『7つの習慣』が推奨している第4の習慣は、自分も相手も勝つ方法を探す姿勢です。

人件費と節税の世界でいうと、Win-Winとは次のような状態が挙げられます。

【会社側】
人件費をかけることで、粗利や生産性が向上する。
結果として税金を払ってもなお、会社にお金が残る体質になる。

【社員側】
自分の成果や成長が、給与や賞与にわかりやすく反映される。
頑張れば報酬として返ってくるという実感を持てる。
 

この考え方は、国の政策でも推進されています。

法人税における中小企業向け賃上げ促進税制では、賃上げ(給与等支給額の増加)の基本要件に加え、教育訓練費を増やすことで税額控除率が上乗せされます。

厚生労働省の業務改善助成金は、POSレジ導入などの設備投資で業務効率を上げ、同時に賃金も引き上げた企業を支援する制度です。
また、人材確保等支援助成金では、人事評価制度や研修制度の導入を通じて離職率を下げた企業に助成金が出ます。

つまり公的機関も、人件費はコストではなく、生産性向上のための投資であるという考え方を後押ししているのです。

具体的な仕組みづくりの例

Win-Winの状態をつくるには、節税を考える前に利益の生まれ方を整え、それに連動する仕組みにすることが必要です。

たとえば、こんな工夫があります。

  • 売上高ではなく粗利に連動したインセンティブ制度にする
  • 件数ではなくリピート率や客単価を評価軸に加える
  • 個人だけでなく、チーム全体の目標達成度と連動させる

中小企業庁が公開している人手不足対応ガイドラインでも、人事評価制度を導入して従業員のスキルアップのためのステップを明確化し、スキルの見える化に成功した事例などが紹介されています。

こういった設計ができていれば、賞与や昇給は節税のためという消極的な理由ではなく、Win-Winを実現するための投資という前向きな意味を持つようになります。

節税目的の昇給は緊急だが重要ではない

第III領域に時間を使っていませんか

『7つの習慣』の時間管理マトリックスで考えると、決算前に慌てて人件費を動かす行動は、第III領域に当たります。

第III領域とは、緊急だが、実は重要ではない領域です。

  • 税金を減らすために、とりあえず決算ボーナスを支給する

こうした判断は、その場ではやった感がありますが、長期的には会社の体力を削ってしまうことがあります。

第II領域こそが会社を強くする

一方で、次のような取り組みは第II領域です。緊急ではないけれど、非常に重要な領域です。

  • 評価制度をじっくり設計する
  • 給与と利益の関係を社員に丁寧に説明する
  • 一年を通じて成果の見える化を進める

ここに時間を投資した会社ほど、人件費はコストという意識から、人件費は投資という考え方に変わっていきます。

社員に払うか税金で取られるかという二択から抜け出す

税金を払うことにも意味がある

節税のご相談でよく耳にするのが、どうせ税金で取られるくらいなら…という言葉です。

この発想の背景には、税金はできるだけ少ないほうが良いという感覚があります。

しかし実は、銀行や取引先から見た評価は違います。きちんと利益を出し、税金も納めている会社は、

  • 融資を受けやすく
  • 取引先からの信頼も厚く
  • 優秀な人材も集まりやすい

といった、目には見えない大きなメリットを享受しています。

理想的な順番とは

理想は、社員にもきちんと報酬を払い、税金もきちんと払って、なお、お金が残る会社です。

そのためには、次の順番で考えることが大切です。

  1. 粗利がしっかり残るビジネスモデルをつくる
  2. Win-Winの報酬制度を設計する
  3. 最後におまけとして節税を考える

節税は、報酬設計のついでに上手に活用するものであって、メインの目的ではありません。

今日からできる小さな一歩

最後に、すぐに実践できる小さなアクションを3つご紹介します。

1. 過去の賞与を振り返る

直近1年分の賞与について、節税のためと感謝の気持ちの割合をざっくりと振り返ってみてください。どちらの理由が強かったでしょうか。

2. 次回は事前に説明してみる

次のボーナス支給の前に、社員へこのように伝えてみてください。

「今年は粗利率が改善したので、その成果をここで還元します」

たったこれだけでも、社員の受け止め方は大きく変わります。

3. 税理士など専門家を活用する

税理士との打ち合わせで、こう切り出してみてください。

「人件費と節税のバランスについて、一緒に考えていきたいです」

また、評価制度の導入や生産性向上の取り組みを検討しているなら、厚生労働省の助成金制度も調べてみる価値があります。
社会保険労務士と対話しながら進めることで、より納得感のある仕組みができあがります。

まとめ :三方良しの仕組みを目指して

節税目的だけでボーナスや昇給を決めると、社長も社員も本当の意味では得をしないLose-Loseに陥りやすくなります。
しかも、決算賞与には厳格な税務要件もあり、うっかりすると節税の効果すら得られません。

Win-Winな人件費とは、利益の生まれ方とセットで設計された報酬のことです。
国も、賃上げ促進税制における控除割合の上乗せ、人事評価制度や生産性向上の取り組みを助成金という形で支援しています。

そして目指すべきは、社員に払うか税金で取られるかという二択ではなく、社員にも払うし、税金も払えるほどしっかり稼ぐという設計です。

人件費と節税は、対立するものではありません。
うまく設計すれば、社員のやる気も上がり、税金もコントロールでき、会社にお金も残る。そんな三方良しの仕組みをつくることができます。

ぜひ、できることから始めてみてください。

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わかお税理士
税理士(税理士登録番号:140275)、国際認証MBA(経営学修士)、ファイナンシャル・プランナー

20年以上の実務経験の中で、上場企業から中小零細企業まで100数十名の社長の経営・税務・資産形成を継続的に支援。
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